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おじいちゃんが震え過ぎるから持たせてみた

 正直酷過ぎる。

 ネコミミ生やした厳ついおっさんが語尾にニャを付けていたり、おばさんのマシンガントークが長すぎたり、子供が点滅しながら移動したり、一歩ごとに白くなったり黒くなったりする生命体が存在していたり、駄女神さんろくなことしないな。


「あいさ見てってこのコップ」


 なんだ?

 聞き覚えのある声だなー。と見てみれば、陽気な芸者ラパティが芸を披露中だった。

 僕の仲間の奴じゃないな。オリジナルラパティか?

 折角なので見に行く。


「種も仕掛けもありませぬ。しかぁししかしっ。このコップに水を入れますと?」


 ひょうたんを持ち上げ中身の水をちょっとコップに入れた瞬間だった。

 ちょっとしか注がれていない水がどんどん嵩をましてコップ一杯なみなみの水となる。


「アーラ不思議。水が勝手に増えましたっ」


 周囲からおーっと歓声が上がる。

 確かにこれは凄い。

 マジックの類かな? それとも本当に水が増加するコップか?


 でも、増える水、か。一体どれだけ増えるんだろう?

 ちょっと、調べてみたいなぁ。


「あのー、その水ってどれくらいまで増えるんですか?」


「ん? ぬっふっふ。それは挑戦かねお兄さん。良かろう。このコップに少しでも水が残っていれば際限なく増えていくよ。さー確かめてみてくれぃ」


 僕はラパティからコップを受け取る。

 とりあえず半分その場に零す。

 コップを傾け水を捨て、コップを元に戻すと、水は直ぐに増加して表面一杯まで戻ってしまった。


「ふっふーん。どうだい兄さん」


 むぅ、この程度ではラパティの芸を助けるだけになってしまった。

 ならばと指を下に設置してコップを完全に傾け水を全て無くす。

 その後に指を濡らした水の滴をコップに落としてみる。

 何も無くなった状態に一滴だけの水。


 なんとこれでもコップは徐々に水を増やし、なみなみと表面張力が張るまで水嵩が復活してしまった。

 これには周囲の皆もおーっと感嘆する。

 ぐぅ、これはなんか悔しいぞ。何か、何かラパティが泣いてもう許してと言って来るような何かは……ぴこーん。その時、僕の頭に豆電球が灯った。いや、今ならばLEDライトが灯ったというべきか。


「ありゃ? もう終わりでいいんですかー?」


 一度ラパティにコップを返し、ちょっとだけ待ってて。と僕はその場に皆を残して走りだす。

 えーっと何処に居たっけ? あ、いたいた。

 僕はその人物を見付けて背中を押しながらラパティの元へと戻ってくる。


「この人に持たせてください」


「え゛?」


 若干引いた顔のラパティ。

 皆何が始まるのかと興味深々。

 覚悟を決めて、ラパティはコップを、そのおじいちゃん・・・・・・に手渡した。

 そう、超高速バイブレーション中のおじいちゃんに。


 コップを手にした瞬間からおじいちゃんのバイブレーションに耐えかねた水たちがそこら中へと落下していく。

 しかしコップはすぐさま水嵩を戻し、振動で零れが繰り返されて行く。

 結果、おじいちゃんの手から絶え間なく湧き出る水がこの世界に出現した。

 その姿、まさに滝のよう。


 おじいちゃんの手から水が湧き出ているようにしか見えなくなった。

 湧き出る水が零れるせいでコップが見えなくなってしまったのである。

 これは、無限増殖!


「な、なんですかこれーっ」


 もはやラパティもどうしていいのか理解できずにただただお爺ちゃんが水湧きださせるのを呆然と見つめるだけだった。

 それからしばし、おじいちゃんは客寄せパンダとなり、ラパティは彼を放置して芸を披露し始める。

 折角なので僕は彼らの芸を見ていくことにした。

 おじいちゃんも気にはなるし。


 芸が終わって人々が去っていく。

 ラパティは立ち去る人々に深々と礼をして送り出し、ふぅっと息を吐いてリラックス。

 最後まで待っていた僕等に視線を向けた。


「いやー、お兄さんの御蔭でいつもより盛況だったよ。ありがとねん」


 両手で僕の右手を取って硬い握手。


「これ、お礼ですわー。何かお役に立てることがあればいつでも連絡くださいな」


 フレンド申請が来たのでラパティとフレンドになっておく。


「ところでお兄さん、このお爺さんどうすればいいのかな?」


「さぁ?」


 とりあえずコップを超振動お爺さんからなんとか奪い取り、ラパティへと返す。

 うぅ、なぜか濡れてしまった。下手なこと思いつかなければ良かった。

 後悔したがお爺ちゃんの方が濡れ具合は酷い。

 そんな下半身もずぶ濡れの、なんか粗相したみたいになってるお爺ちゃん連れて僕らは立ち去る。

 ラパティに見送られ、おじいちゃんと元の場所へと戻しに向かう僕だった。


「あらおじいちゃんどこ行ってた……の!? きゃあぁ!? おじいちゃんがお外でオシッコしちゃってるーっ!?」


 おばちゃんがお爺ちゃん見付けて近寄って来たと思ったら、なんか勘違いしてお爺ちゃんの手を引きながら立ち去って行った。

 お爺ちゃん……なんか、ごめん。

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