見つけろ砂漠の村のバグ探し2
「また貴様か!?」
「いらっしゃいませ」
「毎度毎度大通りで何をしようとしてやがるんだ。さっさと来い!」
おっさんは少女声で客の呼び込みを行いながら兵士さんに連れて行かれた。
兵士さんの言葉からして何度も同じ行動を取っているらしい。常連さんか……
本人としては家に戻ってふぅっと一息付きながらトイレを行っているだけの筈なのに、これは酷い。
「見たかいイリス、これ、全部バグなんだぜ?」
「コンボが決まった状態ね。正直ナイワー」
僕の頭の上で寝そべっていたイリスが溜息を吐く。
「誰か、誰か助けてくれー」
「……ん?」
ふと見れば、建物と建物の間の隙間に少年がいた。
なぜか助けてくれと叫んでいるのだが、どう見ても普通に立ってるだけで助けるような状況じゃない。
「どうしたー?」
「あ、お兄さん、頼む、この通路の前に眠っている猫をどけて。通路に入ったら猫がやって来て寝ちゃったんだ」
「え? 跨げばよくね?」
「猫は1キャラだから通り抜け出来ないんだよ!?」
え? 意味が分かんない。
「ああ、そういうことね」
「何かわかったのかイリス?」
僕は全く分からなかったよ。
「要するに、さっきのおじさんと同じよ。進行方向に障害物が存在するから移動不能状態になってるの。この子の場合は猫を一人のキャラとしているせいで道が塞がれている状態ね」
え? 何ソレ。バグとかの次元じゃなくね。猫が目の前に居るだけで進めなくなるとか。
僕は猫を跨ごうとする。
しかし、確かに見えない壁のようなモノに阻まれ移動出来ない。
「これは酷い」
「でしょ、お願いだから助けてよお兄さん」
「つってもなぁ。あ、持ち上げることはできるのか」
眠ったままの猫を持ち上げ脇に避ける。
通路に閉じ込められていた少年がようやく救出された。
「ふぅ、危うく一生あそこに閉じ込められるとこだったよ。あ、これどうぞ」
フレンド申請が来たのでYesを押しておく。
☆1浮浪児カッツェを友人にしました。
カッツェは笑顔で手を振りながら去っていく。
「うん、いいことしたな」
「猫を移動させただけだけどね」
満足げに頷いた僕は再びバグ探しを始める。
例えば禿げたおっさんが扉を潜るとふっさふさになっているバグとか、横向きで歩きだすお姉さんとか、歩いている時は女の子だったのに曲がり角曲がった次の瞬間には巨漢の老人になっていたりとか。
一番多かったのはやっぱり移動中に他人とぶつかって移動場所がずれるバグかな。
御蔭で街中で全裸になるおばさまとか道の真ん中で眠るおじいちゃんとか、兵士さん案件が事欠かない。
そして一番驚かされたのは超高速婆さんだな。足踏み速度が物凄い速さで移動も一コマづつ移動するタイプで移動する時だけ早く、しばしその場で足踏みして移動を繰り返していたのだ。正直キモい。
「思った以上にバグだらけだな」
「酷いわね」
「多分そこまで住民の生活を再現しようとしてないからこんなことになるんだ。殆どのキャラが行動パターン一定とか、そういうのと自由行動組がかち合った時に起こること全く考えられてない」
「きっと途中で面倒になったのね。こういうところこそ造り込まないとクレーム入るのに」
まぁ、それがここの運営クオリティってことで。さーってクレーム入れちゃおっかなぁ。
あ、ちょっと待て。アレはなんだ?
なんか面白そうなのを見付けたので駆け寄ってみる。
空を普通に散歩しているお兄さんがいた。
なんだあれ?
「多分だけど、階段を下りようとしてNPCに邪魔されたんじゃないかしら?」
つまり、二階から降りようとして降りれず、建物を透過して散歩に出て来たから二階から外に出た状態になっている、と?
なんだそれ?
「あ、見てダイスケ。あっちにも女の人が」
「スカートで空中歩行、だと!?」
僕は当然駆けだした。
そして歩く女性の真下に向かう。
垢バン? 知ったことか。こんなバグ見付けちまったら覗くだろ!
―― 君は、また垢バンされたいのかね? ――
うおおおおお!? びっくった!?
目の前にいきなり白いも文字が現れた。
や、やだなぁ神様。そんなことするわけないじゃないっすかぁ。
―― 街の近くで馬車が襲われてるんだけどさぁ、君が行かないとイベント始められないんだよね。早く三章行きなよ。それと折角のコラボなんだから石集めてだね……あ、ちょ、MMSはやめて? ――
うっさい、あんたのせいだ。畜生。昨日最悪だったんだぞ、マジ殺意湧いたんだぞ。一人寂しく死ぬかと思ったんだぞっ!!
もういい、メール送る。メモ帳を見ながらつらつら書いたバグを全て報告書として書き記し殺意を込めて送信する。
この際徹底的にバグ直しやがれっ!!




