強制バッドエンドとルーカの奇跡
ハンニンバルが倒れる。
入れ替わるようにして現れたローパーに皆が戦闘態勢を取った。
でも既に10話は終わってるはずだ。戦闘は無い筈だけど……
「っ!? ダイスケ!!」
鋭い声は誰の声だっただろう?
ぼぉっとしていた僕に向け、ローパーが触手を伸ばす。
え? とそちらを見た僕の腹をやすやすと……
触手が貫く瞬間だった。
どんっと真横から身体を押される。
驚く僕が目にしたのは……僕の代わりに貫かれるシークレットの姿だった……
まるでスローモーションでも掛かってるみたいだ。
ゆっくりと崩れ落ちるシークレットの姿を、倒れた僕は何も出来ずに見つめていた。
皆の動きが引き延ばされたようにゆっくりしている。
「シーク……レット?」
倒れたシークレットに這いずるように近づく。
オデーブが遅れて僕らの防衛に回る。
でも、既に遅すぎた。
きっとこれもイベントだ。
僕が襲われ、それを助けるためにシークレットがその身を犠牲にする。そういうイベントなんだ。
だから、シークレットはここで死ぬ。どんなに助けても、このシーンが来れば勝手に腹に穴開けてシークレットは死んでしまう。
ふざ……けんな。
シークレットの抱き起こし、泣きそうな顔を必死に隠し、血反吐を吐き散らした愛しき女性の最後を見取る。
なん……だ。これ?
「そんな顔、しないで……」
「なんで、僕が死んだって、何度だって生き返るんだ。君が死んだら、もぅ……」
「それでも、貴方が死ぬのは見たくないから……あーぁ。こんなことなら、告白OKしちゃえばよかったなぁ……」
ごめんね? そう告げて、彼女は意識を失った。
力の抜けて行く彼女の体を、ただただ抱きしめる。
なんだよ、これ?
「魔王、やれるか?」
「当然だ阿呆ッ。ダイスケの指示がなくとも我が必殺を持って奴を叩く! 星屑達乃虐殺!!」
ちくしょう……恨むぞ神。
シークレットをよくも殺してくれたな……
「っし、撃破だ! クソッタレめ……」
「また生き返って来ないだろうな、全員警戒を怠るなよ?」
「アナタ程ウツケではありません魔王。……よし、敵影な……なに!?」
地鳴りが響く。
天井がひび割れ、落下が始まる。
「これ、城が崩れる!?」
「イリスどうするの!?」
「もうこの話は終わってるわ! 次の話はっ」
「あ、出てる! 第二章エピローグがあるわ」
「ダイスケは動かないからあなたが押して!」
「わ、わかったっ」
うなだれた僕に変わり、ルーカが慌てて次の話を選択しに向かう。
しかし崩れ始めた天井が落ちて来たりで邪魔され、視界を塞がれ、選択肢へと辿り付けない。
「だぁ、らっしゃぁ!!」
気合い一撃。
落下する天井を潜り抜けたルーカが選択肢を押し込んだ。
視界が変化する。
二章エンディングは、きっと脱出した僕らと滅びゆく王国……
「な、何奴!? ここはシークレット王女の部屋よ!」
……は?
この非常時にルーカがやりやがった。
必死に押しこんだ選択肢は、丁度シークレット王女と会見するために王城に訪れたところ。そう、近衛兵二人との強制戦闘である。[
僕が抱き上げた筈のシークレットも突然跡形も無く消え去ってしまっている。
「ちょ、ルーカぁ!?」
イリスが珍しく慌てた声を出す。
「ひーんっ。ごめんイリス、別の選択肢押しちゃったぁっ」
アホか!?
「クソッ、戦闘キャラをデフォルト、リーハ、お願い」
「心得た主様よ!」
そして再びアニキのバギーがシークレットの部屋に突っ込む。
戦闘はいつか見た時のように強制中断され、中に居たオリジナルのシークレットが驚いた顔をしていた。
「シーク……レット?」
「え? あ、はい。そうですよダイスケ君。でも私、邪神にやられたはずでは……?」
「シークレットッ!!」
無事なシークレットの姿を見た瞬間、僕は駆けだしていた。
驚くシークレットにダイビングアタック。
「ひゃぁぁ!? ちょ、ダイスケ君!?」
「「貴様ッ、姫に何をするッ」」
「ええい、今は邪魔をするなしっ。リーハ、サクヤ、やっておしまいなさい」
「黙れ羽虫。貴様の指図は受けん」
「ですが、御屋形様の為に、無力化します!」
泣きつく僕に最初は驚いたシークレットだったが、困った顔で頭を撫でる。
「どうしたんですか、酷い顔になってますよ?」
「うん。わがっでる。でももうちょっとだけ……」
「仕方ないですねダイスケ君は。ふふ、本当に、仕方無い人ですねあなたは」
しばし、バブみ要素豊富なシークレットに溺れるように抱きつく僕だった。
だけど、少し落ち着いた。
御蔭でなんとなくだけど、反撃の糸口を見つけた気がする。
シークレットの記憶も存在したままで彼女の身体に傷は無い。まさに奇跡的生還だ。
ありがとうルーカ。今回ばかりはお前のポカミスに感謝だ。
もう、シークレットは殺させない。
神よ、ここから先は反逆だ。
シークレットのためならば、僕は神殺しすらできるかもしれないっ。




