突然のホラー要素とかいらない
「メイド、随分遅いですね?」
ボタンを押して次話を開始。
さっきと同じことをシークレットが呟く。どうやらここから始まるようだ。
「む、何だお前達?」
「く、何をする!? う、わああぁぁぁっ!?」
突然外が騒がしくなる。
衛兵である二人の女性騎士が何かと戦闘を始めたようだ。
が、直ぐに剣撃は収まった。
「どうしたの? 何かあったのA子、B奈?」
女性騎士たちの名称が酷いんだがどうしたらいい?
シークレットが呼びかけるが返事がない。
いや、何かが激しくぶつかってくる音が何度も返って来始める。
なんだ、この嫌な予感?
「ちょっと、開きますね?」
シークレットがごくりと喉を鳴らして告げる。
いや、待って。なんか凄い嫌な予感がする。
なんというか、B級ホラー世界に放り込まれたようななんというか予感が……
僕が止めるより早く、シークレットにより扉が開かれる。
そこには……A子とB奈。そして音沙汰なくなったメイドさん。他にも無数のメイドや執事、兵士に大臣。その亡骸があー、とかうーとか言いながら集結していた。
リアルゾンビ軍団である。
「き、きゃああああああああああああああああああ!?」
「ぎゃ――――――――――――――!?」
シークレット悲鳴とルーカの汚い悲鳴が重なった。
ゾンビ軍団は扉が開かれ道が出来たせいで、生者向けてゆっくりと歩きだす。
「ダイスケ!」
「あ、せ、戦闘か。リーハ火炎ブレス!」
「う、うむ!」
リーハの火炎ブレスがゾンビを焼き払う。
「神の裁きを!」
さらにレスティスの光線がゾンビを昇天させて行く。
しかし、数が多い。廊下に群がるゾンビ達が僕ら向って押し寄せる。
シークレットが僕の傍へとやって来て焦りを見せる。
「こ、これは一体……」
「わからない、けどヤバいイベントが起きてるのは理解した! サクヤ、アニキ、頼んます」
「しゃーねぇな、オラオラぼさっとしてっと轢いちまうゾッ」
バギーに乗ってアニキが特攻。しかし、途中でゾンビに掴まれ引きずりおろされる。
さらに攻撃したサクヤがゾンビに掴まり、ゾンビの攻撃ターンが始まった。
「痛っ、噛まれた……」
「ギャアァァァァ!?」
首筋に噛み痕を付け、サクヤがバックステップ。
アニキの悲鳴が聞こえる。
他のゾンビ達は全員が先頭に配置したお爺ちゃんを攻撃。
きゅぴーんきゅぴーん、ザシュ
あ、ダメージ喰らった。
次のターンになった瞬間だった。
突然サクヤがビクビク震えだす。
さらにお爺ちゃんの様子が……
これ、まさか……
「む、どうしたサクヤよ?」
理由を知らないリーハが無防備に近寄る。そこへ、ガブリ。サクヤがリーハに喰らいついた。
「ぐおぉ!? 何をするたわけっ!」
げっしと蹴り付け吹き飛ばす。
首筋を幾分持ってかれたらしいリーハが険しい顔をするが、サクヤは気にせず起き上がる。
その顔は青白く、他のゾンビ達と同じ狂化状態になっていた。
「な、なんだと?」
「御使い様、これは……」
「あー、その、これ、ヤバくね?」
呟く僕の目の前でリーハがびくりと震える。
え? あの、魔王様?
「うぅぅぅぅ……」
ゆっくりと近づいてくるリーハ。その姿はどうみても……
お、お前魔王だろ? 何でゾンビになってるの!?
仕様、仕様がおかしい、神、神ェ――――!!
レスティスが一人がんばるが数の暴力には敵わない。なんだこの、悪夢……
僕は思わずシークレットを守るように前にでる。
迫り来るのはすぐ傍でゾンビ化したリーハ。
逃げ切るのは不可能だ。これ、元に戻れるのか? 怖い、恐ろしい、神よ、これで終わりで本当にいいのか、ちくしょう……
僕は、ぼくハ、Araa……
……
…………
……………………
「…………ケ……ダイスケッ」
……あ。え?
ルーカの声に僕は意識を覚醒させる。
ゆっくりと目を開く。
悪夢を見ていた気がする。
目の前は……? ルーカの顔があり、天井が目の前に見えた。
「……知らない天井だ」
「そりゃそうよ、シークレット王女の部屋だもの」
シークレット……っは!?
思わず起き上がる。
僕はどうなった!? 死んだのか!? 今どうなってる!? ゾンビは!?
起き上がった僕がまず確認したのは自身の身体。噛み痕は? 一つも無い。
肌の色は? 肌色だ。黒くはなってないし、青白くも無い。
掌をかざせば真っ赤な血潮が……見える訳も無い。
「何してんの?」
次に仲間たちを見る。
シークレットはテーブルを前に椅子に座って心配そうにこちらを見ている。
ルーカは無事、イリスはテーブルの上で本を読んでいる。行儀が悪い。
リーハとサクヤが取っ組み合いの喧嘩をしていて、レスティスがお爺ちゃんの面倒を見ている。
アニキは壁にもたれかかって腕を組んで暇を潰していた。
ゾンビに襲われた形跡はない。
今、どんな状態だ? あれは? 夢?




