メンテナンス中は処理速度が落ちます
「へー、なかなかいい部屋じゃんか。なぁ皆」
「ソUΗθ」
……ん? ルーカ、今なんていった?
「●θぁほ〒○§ぱ?」
いや、え? ルーカ、さん?
皆が動き出しながら口々に意味不明の言葉を喋り出す。
「い、イリス、これって一体?」
「き▼度麺たツYgNぽRAN鳩」
だ、ダメだ。皆の声がバグっとる。
か、神様!? 神様ーっ!?
―― あ、ごめん。そこ言語翻訳機能範囲外だ。次のメンテまでに直しとくから今回は諦めて ――
神ェ――――――――――――――――――――!!?
―― あとこっちにリソース割くから途中でカクカクするかもしれないけど、ごめんねごめんねー ――
かぁみぃぃぃぃぃ―――――――――――ッ!!
どっかのお笑い芸人の台詞が聞こえた気がした。
僕は血涙流して叫ぶしかなかった。
そう、それは知識も無いのに外国に一人取り残された気分である。
どれほど話しかけられても言葉が分からない。
何が言いたいのか理解できない。
リーハが小首を傾げ、こちらの反応が無いことを訝しむ?
良く分かっていないながら僕が困っていることを知ったサクヤがなんとか構おうとしてリーハとバトる。
アニキとダンディが談笑しながら謎の言語で笑い合い、リーシャがマリクを辛辣に付き放す。何言ってるのかは分からないけどマリクが崩折れているから大体罵声だって分かる。
あとお爺ちゃんは何言ってるか分からないけど腰が痛いことはジェスチャーで理解出来た。
レスティスは初めから何言ってるか分からないし、ああ、そう言えばヘイグルとムナゲスキーストックに入れるの忘れてたな。
ヘイグルの尻を触って殴られるムナゲスキー。国王殴ったぞアイツ!?
前回の暗闇程の絶望感は無い。
でもなぜかこう、世間との隔たりというか、一人別世界に連れ込まれたような疎外感が付き纏う。
そして一時間。纏わり付いて来たウザったいルーカが何度かアニキに首根っこ掴まれ連れ去られるのを見送っていると、ぽーんとメッセージが降って来た。
はい、延長1時間来ました。神コロス♪
もうメンテナンス嫌いっ。
一人部屋の隅で三角座りしながら毒を吐く。
何故か隣にマリクが座って来て同じように異言語の毒を吐きだしたけど気にしない。
MMSだMMSで今の闇が深い怒りを神にトクトク説いてやる。
皆の動きが突然止まった。
なんだ? と思えばゆっくりと、まるでコマ送りのように動き出す。
お爺ちゃんのブレが酷い、なんかバイブレーションみたいに揺れ出した。
サクヤがカクカク動き、ルーカが空を浮遊しながら時折テレポーテーションし始める。
なんというか、画像の処理が追い付いていない感じだ。急に情報の処理が重くなった感じである。
言葉も飛び飛び、壊れたラジオみたいになっている。
正直あっちにレゴウ五体ぐらい送り込んでやりたい気分だ。
なんとか2時間を耐えきりメンテナンス終了になった。
言葉の通じない12畳の一間から宿屋の一室へと移動する。
どうやら開始位置がここに指定され直したようだ。
お知らせ欄がチカチカ光っている。
そろそろ皆の声も治っているだろうか?
意識を闇深い深層世界から浮上させる。
「あ、起きた? ほーれほーれ。なんでこれで嫌そうにしてるか分かんないけどほーれー」
ルーカがなんか変な踊りをしている。うん、馬鹿は放っておこう。
「イリス、言葉、通ジルカ?」
「何故カタコトなのか分かりませんが、ずっと通じてますよ?」
「そっか。ってことはあの一間に居る間僕の言語通訳機能が無くなってたのか」
「ああ、それでなんだか様子がおかしかったのですね」
イリスが納得行ったように頷く。ただし、それで納得したらしく再び本に没頭。僕のことなどどうでもいいらしい。
「ルーカがロボットダンス踊ってたのと、すっごいカクカクしてた」
「はぁ!? 私そんなことしてないし!」
「いやー、めっちゃしてたし、自覚ないとか怖いわー。つか普通に気持ち悪かった」
「きも……女の子になんてこというのーっ!?」
「え?」
「え?」
しばし、僕とルーカは見つめ合う。
「ルーカ、女の子だったの?」
「はぁ!? ちょ、どういうことよーっ」
「だって、ほら、妖精だし虫みたいにオスメスじゃないの?」
「死ねっ、死ねボケッカスッ、豆腐の角で頭打って死ねッ!!」
ぽかぽか殴ってくるルーカ。ああ、なんかこう、言いくるめられるっていいなぁ。
言葉が通じないってすっごい不便だ。やっぱり言葉は通じ合う方が良いね。
「マスター、マスターよ。頼みがあるんじゃっ」
ルーカを摘まみ上げて遊んでいると、ムナゲスキーがやってきた。
「お、おぅ。ムナゲスキー国王か、なんすか?」
「お、男を一人、頂けぬか」
ひぃ!? なんだその具申は!? 気持ち悪っ。
ぼ、僕を襲って来たりしないよね?
えっと、そ、そうだ。
「は、はい」
適当に村人をストックから呼びだす。これはDだな。
村人Dをムナゲスキーに押しつけ足早に逃げる僕だった。




