イベント達成報酬にこけしがあったからちょっと神様殺して来る
「生きてるかルーカ?」
「……よ……」
呆然としていたルーカに歩み寄ってみると、何か小声で呟いた。
なんだろう? と思えば、ガバッと立ち上がって叫ぶ。
「なんなのよ今のはっ!!」
「いや、うん。なんか、魔王様がすまん」
「魔王? 魔王ってなによ!? そこのリーハ?」
「いや、神様に貰った助っ人チケットで偶然来たこの世界の魔王グレヴィウスリーハオリジナル。即時必殺とか酷いよな……」
「神ェ~~~~ッ」
「あー、その、なんだ。悪かったな、いろいろと」
「ふんっ。なによ、私虐めて楽しいの? これ以上どうするつもりなのよっ」
意固地になってるルーカに頭を掻きながらショップで買っておいたこけしを手渡す。
「……え?」
「元はこいつが原因だろ。お前が勝手に金使って買ったのはダメだろって思うけどさ……」
「これ……高かったでしょうに、バカね……」
受け取ったルーカは目を見開き驚いた後に、どうしたものかと困った顔をして、そして泣きながら笑いだす。
引き攣った笑いを行いながらも、愛おしそうにこけしを掻き抱くルーカ。正直その趣味はよくわからんが、機嫌は直ったようでよかった。
手痛い出費だったが少女の好感度が上がるならゲームとしてはちゃんとしてる。
妙に高かったのは多分ルーカの好感度が上がるアイテムだからなのだろう。
好感度上げたからって何がどうなる訳でもないと思うけど。
イリスにも好きなアイテムってあるんだろうか? 今度それとなく聞いてみよう。
しかし、どうするよ? 既に金貨が9500しかないよ。イベント報酬に金貨入ってるかな?
……そうだ、イベント報酬だよ。一応クリアしたんだしなんか入ってるよな。プレゼント確認しよう。
一先ずはルーカが持ち直すのを待ち、皆して街道へと戻ると、メイン画面を表示させる。
「全く、ダイスケは私が居ないといけないのね。もう、もう、こけちゃんまで買ってぇ~えへへ」
……気のせいかな、ルーカがチョロイン過ぎる気がします。一つで好感度50%くらい溜まってないか?
この、この、とウザい位に構って来るルーカにちょっと辟易しながらもプレゼントを確認する。
イベント達成報酬と初フレンド達成報酬が入っていた。
初フレはフレンドポイント500か。
イベント達成報酬は……
石3000、金貨10000、世紀末下っ端セット、こけし、ヒャッハー盗賊団頭目ブラッディレイブン召喚チケット。
うん、なんだ……これが手に入るって分かってればわざわざ高額はたかなくてもよかったよな? なぁ、神ェ?
「あれ? ダイスケ、なんか顔怖いけど、どしたの?」
「おや、これは……ひどい」
報酬を確認したイリスは事情を察した。
「うん、よし、ちょっと神様殺して来る」
「ええ!? 落ち付いてダイスケ、いきなりどうした!?」
「心中お察しするわ。遠慮はいらない、あの触手全て千切りとって子供に掴まったガガンボみたいに地面に転がしてあげてください」
「ガガンボ可哀想だよイリス!? バラバラ殺ガガンボ事件は全国各地で今も起こってる重大事件なんだよっ止めてあげてっ」
「ルーカ、お前には分からないだろう。ルーカが勝手に金使って、こけしを買い、それが壊れたからって失意に暮れていたから仕方なく新しく買ってやろうとしたら10700金貨とかいうふざけた値段でさぁ、それでもルーカを元気づけようと20200しかない金使って買ったんだよ。そしたらよぉ、そのこけしがプレゼントでやって来た訳だ? 殺意、湧くだろ?」
その時の僕とイリスの顔はきっと、凶悪犯罪者と同じ顔をしていたと思うんだ。
ルーカは否定すら出来ずにただただ頷くしか出来なかったようで、怯えた顔で首を縦に振っていた。
「で、でも、神様のいる場所、分からないでしょ?」
「……クソッ、僕には行き場の無い怒りを発散する場所すらないのかっ」
「現実は無情だわ。もはや打つ手は一つだけね」
「ああ、なるほど、それしかないか」
イリスの視線に頷き、僕は運営へのメール画面を開く。
行くぜぇ、必殺M・M・S!
「うわぁ……」
説明しよう! M・M・Sとはマシンガンメールサービスといい、連続でどうでもいいメールを送信し相手の受信箱を爆撃するという迷惑メール送信技である。
当然、普通の運営様にそんな事を行えば垢BAN案件確定であった。
全てのやり場のない憤りを一つのメールごとに怨念と共に込め、神様向けて撃ち放つ。
届け、この想い!
次の瞬間、真上から唐突に落下して来た落雷で僕の意識が一瞬途絶えた。
神様もお怒りだったようでいい加減にしろっと落とされた雷で倒れた僕が目覚めると、すぐさま神様から文字が降ってくる。
―― 今回は痛み分けとしようダイスケくん。わかるかい、ルーカが変な行動起こしてたからこれはイベントに使えると嬉々として初イベント作った私の気持ちが、必死に作って延長までしてバグ取り行って、満を持して生みだしたイベントが、魔王の一撃で灰燼に帰した時の私の虚無感、分かるかい? ねぇ、この怒り、どこに向かわせればいいのかなァ? ――
どうやら向こうも今回のイベントで心に傷を負っていたようだ。これ以上泥仕合を続けてはいけない気がする僕だった。




