実力制裁
「やぁ、いらっしゃいダイスケ君」
少し青ざめた顔で、昔の人が考えた火星人みたいな葛餅に触手の束をくっつけたようなホイホイ君が触手の一つを手として使い、軽く手を上げる挨拶をしてくる。
ぶにょんと海魔な神様の身体から降りて漆黒の世界に降り立つ僕ら。
魔神とリーハが降りると同時に周囲に視線を走らせなんだここ? みたいな顔をする。
「ホイホイ君、というか神様、ギルガさんの言ってるのが正しいとしたら犯人は別にいるんだ」
「ああ、うん、それについてはこちらも真犯人見付けたよ」
あはは、とホイホイ君は触手で指し示す。
「やらかした真犯人の、駄女神マロンさんです」
影の一人が諦めたように両手を上げて膝を付く。
「え、駄女神なの!?」
ほぅ? と銃器を構えるセフィーリア二人。その二人の右手には、オリジナルの方がピエロ神を引っ掴み、コピーの方がギルガ神の首根っこ掴んで引きずっている。
うん、その、あのね、ギルガさんちゃんと自分じゃないって主張したんだ。でも信じられませんって二人がその、あの、シークレットの必殺スキルみたいなことをね、やってね。
結局ボロ雑巾にされて捕獲された彼はこうしてここまで引きずって来られたのである。
折角影に隠れて機会を伺っていたミケも、さすがに可哀想に思ったようで隠蔽を解いて僕らの元へと戻ってきた。
今はネビロヌの頭の上で垂れ猫さんになっている。
「ま、待って、落ち着いて、落ち着こう? 話せば分かるから!」
「うん、まぁ、セフィーリアさん、一応言い訳だけでも聞いてあげよう、一応必死に僕らを助けようとはしてくれたみたいだし。自作自演かもしれないけど」
「一言多いよダイスケ君!? ま、待った待った。マジワザとじゃないの!」
不可抗力でも世界一つ崩壊させといて私のせいじゃないとか言ってきたら僕は遠慮なくセフィーリアさん二人を嗾ける。
「一応分かってるのはさ、駄女神が僕の代わりにバグ取りしていた時に、とある命令をインプットしたってことなんだ。ダイスケ君がいなくなった時にソシャゲ世界のキャラクターが君がいなくなってしまった世界に生き続けるのはきついだろう、と思って、君のいた記憶を無くすプログラムを仕込んだらしい。今回偽ダイスケ君をこの世界から取り除いたことでこのプログラムがバグを起こして世界崩壊に繋がったみたいなんだ」
つまり、僕と同じダイスケの名を持つ存在がいなくなったからプログラムが発動したけど、世界にまだ僕が存在したせいでバグってしまって世界規模で崩壊が始まった、と、うん、そりゃ不可抗力ではあるが駄女神らしいやらかし方である。
神々からすれば世界作る過程でバグらせちゃったホイホイ君ごめーん。ってくらいのことだろう。
巻き込まれた僕らにとってはふざけんなって話だけどね。
「よし、ギルティ」
「なぁあ!?」
僕の了解を得てセフィーリア二人がゆっくりと駄女神さんに近づいて行く。
両手で銃を持ったために放されたピエロとギルガがゆっくりと僕の方に退避してきた。
二人ともまだ生きてたんだ。さすが神、殺しても死なないとか、怒りぶつけても相手が死なないってそれはそれで辛い物があるなぁ。
「ところで神様、僕ら結局どうすればいいんだ? 僕は地球で死んじゃったから何処の世界でもいいっちゃいいんだけどさ」
「ああ、うん、それなんだけど、元のソシャゲ世界、グーレイさんが途中までバックアップを取ってくれてたんだ。グーレイさんがいなくなる前だからまたバグ取りから始めないとだし、駄女神の仕込んだもっかいバグりそうなプログラムも取り除かないとだけどね。すぐに稼働は可能になるから、また皆で移動して貰うことになる。もうちょっとだけ異世界で過ごしといてよ。バグ取り終わったら元の場所に移動して貰うから」
「了解。んじゃ僕とリーハとネビロヌとミケは戻っとくよ。すいませんがSAN値直送ルルイエ急便さんよろしく」
「あいよ。あそこのセフィーリア二人はどうする?」
「今楽しそうだから落ち着いてから迎えに行くと良いと思います。折角なのでコピーさんもオリジナルと同じ世界にでも戻してあげていいんじゃないっすかね? 本人の意向に沿うような感じで」
「おっけー」
「ま、待て、待ってくれ。俺も連れて行ってくれっ」
「こ、こんな所に居られるか、オイラも逃げるんだっ」
ギルガとピエロが縋りついて来た。
どうでもいいけどさ、ギルガはともかくピエロさん、それ多分死亡フラグ。一人になった瞬間出てくるよ、セフィーリアさんが。
あと二人とも神様なんだから人間の僕に頼るなよ。神頼みはするほうなんだよ僕ら、神が人頼みしてどうすんの。
でも結局海魔神に乗せてシークレットの待つ異世界に戻る僕らであった。
ふ、感謝するがいい二人とも、あ、でもセフィーリアがこっち来たら速攻で売り飛ばすんでよろしく。僕まで巻き込まないでくださいっ。