呆然の運営というか神様
その日、ルーカは絶望に泣いていた。
そこへ通りかかったのは厳つい恰好の男達。
恰好や言動とは裏腹に、親身になって愚痴を聞いてくれた男達は、ルーカをいじめたクソ野郎をシメてやるぜ。と快くルーカの復讐を買って出てくれたのである。
ルーカも彼らの仲間としてバギーに乗せて貰い、リーダーさんからグラサンを借りて幾分持ち直した。
バギーを乗り回すのが楽しくて、皆と共に集団で走りながらダイスケたちに一言物申す、とこうしてやって来たのである。
まさか自分たちがイベントにされてるなど夢にも思わず、ダイスケもこの人数に囲まれたら泣いて許しを請うだろう。そう思っていた。
その光景を、ルーカは一生忘れないだろう。
真上から降り注ぐ流星雨。
地面を穿ちながら仲間たちを一人、また一人と屠っていく。
あまりにも無情な絨毯爆撃。
男達の汚い悲鳴が無数に上がり、ルーカを助けてくれたヒャッハーな人たちを爆炎と共に大空へと巻き上げる。
逃れることなど不可能だった。
逃げ場のない流弾に、ルーカはただただ呆然と見上げるしか出来なかったのだ。
その火炎弾の一つが、ルーカの元へと迫り来る。
あ、死んだ。
人ごとのように思った。
そんなルーカの視界を塞ぐように、大きな男が現れる。
「あ……」
「どうやら付き添いはここまでだクソガキ。達者でな」
どうしようも無い不良どものリーダーがルーカを持ち上げ思い切り投げ飛ばす。
なんで? 呆然としながら疑問に思った彼女の目の前で、バギーを直撃する流弾。
リーダーの男の姿は一瞬で炎の中へと消え去った。
流星雨の範囲外へと投げ飛ばされたルーカは、地面を転がりながらも必死に見つめる。
自分を助けてくれようとした人達が、地獄の業火に焼かれて行く悪夢の光景を……
……僕はただただその光景を大口開けて見つめていた。
いや、まさかこんなことになるとは。
原因は? イベントの総当たり戦のせいだろう。
おそらく順次投入ではなく全員の敵が押し寄せる設定にしてしまったのだ。だから、魔王様の全体必殺技がまともに刺さった。
結果、敵軍は接敵することなく壊滅したのである。
後に残るは不毛なる大地、焼け野原。
うん、まぁ、神様の不手際だなこれは。イベント方法ミスったんだ。いや、助っ人が悪かったんだ。これがウチのリーハだったら敵のHPが全員半分くらいになっての闘いだったと思われる。
ラスボスの強さがここまでとはな、僕が総当たり戦で魔王と闘うんじゃなくて良かった。こんな状況を敵としてくらったらもはや立ち直れないと思う。
しっかし、これ、ルーカ死んだんじゃね? 大丈夫か?
爆炎のせいで向こうが見えないからどれだけ生存者がいるか分からない。
むしろ生存者がいるかどうかすら定かじゃない。
「えー、い、イベント、クリアです」
「うわー。ボスキャラ死んだんだー」
「うむ。では戦闘も済んだし我は帰るぞ。気が向いたらまた呼ばれてやろう。コピーではなく我自身がな……待っておるからな?」
唖然としながらもイベントの終わりを告げるイリス。棒読みで告げる僕。
そして仕事は済んだと魔法陣を足元に現し去っていく魔王様。最後に何かを告げたそうにチラッチラ僕を見てたけど、何かやったっけ?
後に残るは散々に掘り返された土を被った単車の群れ。
乗り主は光の粒子と化して全て消え、乗り手のいないバイクだけがその場に焦げて残されていた。
あ、ルーカ発見。
アイツだけ生きてるわ。なんでだ? サポキャラだからか?
僕は他のメンバーを引き連れて呆然と座りこんだままのルーカの元へと向かう。
グラサンが半端にずり落ちてるのがなんとも。呆然とした顔をしてるし何が起こったかわかってないんだろうな。可哀想に。
ルーカの元へ向うダイスケ。その姿を遥か高き高次元から運営、もとい神様は見ていた。
のっぺりとした身体は葛餅にしか見えない謎生物。葛餅体系から真下に無数の触手が生えており、足兼腕兼その他多用途に使える触手の一番両端の二つを手の代わりにしてパソコンにしか見えない画面を覗きながらキーボードを打ち込もうとして止まっていた。
ルーカが変な行動をしていたから折角だしイベントにしてしまおう、と戦闘方法を特殊にしていろいろ画策してみたところ、戦闘方法と助っ人の必殺がベストマッチしたことにより悲劇が起こってしまったのだ。
折角延長までして調整した渾身のイベントが、一瞬で粉砕されてしまったのである。
その絶望感は察して余りあるだろう。
とはいえ、ダイスケが悪いという訳にはいかない。助っ人を呼ばせたのは自分だ。
まさか魔王を引くとは思わなかったし、魔王のボススキル開始直後必殺解禁がここで有効になっていたという設定ミス。そしてまさかの範囲指定ミス。
全てが合わさった結果、魔王の一撃でイベントエネミー全滅、というプレイヤーにとっては楽しめないイベントが出来あがってしまったのである。
もしも神様が人型を取っていたのならば、目を限界まで開き大口開けて、鼻水垂らしていただろう。それぐらいには我を忘れて見入ってしまう現象だったのである。




