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崩壊世界で彼が話す

 ――ダイスケ君、急で悪いが準備が出来次第強制転移をする。異論は聞かない、反論も聞かない。範囲は魔王の身体に乗ってる人物のみ、魔王ごと転移、ダイスケ君が中心だから魔王から離れれば魔王は転移出来なくなる。助けられるのは魔王の身体に乗っている者だけだ――


 唐突に、その宣告は降ってきた。

 崩壊世界が徐々に迫る中、ドラゴン形態となったリーハの上で、僕らは絶望にも似た気分でそのメッセージを受け取っていた。


 世界が崩壊する。ガラス細工のように煌めきながら剥がれ落ちて行く。

 黒い、漆黒がそこかしこに顔を出し、割れた世界の裏側を覗かせていた。

 ビキリ、ピシリ、空間が悲鳴を上げて割れて行く。

 パキン、バリン、空が、大地が、ありえない音を立てて消えて行く。


 空が崩壊していた。大地が消失していた。

 世界は今、確実に滅んでいた。

 そんな世界を必死に逃げる。


 アニキのバギーが地割れに巻き込まれる。

 必死に落下させまいとハンドルを回すブラッディレイブン。しかし、崩壊する大地を脱出する術は無い。


「アニキ――――っ」


「クソッ! クソガキ、すまねぇ、俺らはここまでだっ、絶対に死ぬんじゃねぇぞッ! 先に、地獄で待ってるぞぉぉぉッ」


「アニキッ、アッキスッ、ファラシオンッ、ウッディッ、ケンウッドォッ!!」


 五人の男達が闇へと消えて行く。

 ルーカが狂ったように泣き叫びながらアニキに手を伸ばす。そんな彼女を必死に抱きしめ押し留め、僕は涙を流しながらバギーが消えるのを見送った。


 既に崩壊は目前に迫っている。

 空もついに近くが剥がれ始めていた。

 落下する空だった何かがヘリのプロペラに直撃する。

 本来なら空を構成する空気が当っただけになる筈だが、直撃したヘリがバランスを崩す。


「シュヴァイツァーっ!!」


「チィッ、おい、そこのコピーパルマ、テメェだけでもダイスケの元に向え、後一人くらいなら向こうに乗れるはずだっ」


「ダメよ。私なんて、汚れてるし……」


 シュヴァイツァーは頭を掻いて覚悟を決め、せめてとヘリ内の片隅に座っていたパルマに告げた。

 しかし、彼女は動けない。

 なぜなら彼女は偽モノのダイスケに抱き付き、彼をダイスケだと思ってしまっていたのだ。

 今のダイスケに合わせる顔などなかった。


「馬鹿野郎がッ、テメェが信じた男がその程度で軽蔑すると思ってんのかッ」


 がっと腕を掴み上げ、シュヴァイツァーは無理矢理パルマをドアの前へと移動させる。

 開かれたドアの先は空。

 ドラゴン化した魔王の斜め上を飛んでるとはいえ、多少なりとも空間は空いている。


「だ、ダメよ。私なんかより他の人を、私にはダイスケさんの傍に居る資格なんて……」


 だが、ドアの先に見えたダイスケは、彼女を真っ直ぐに見つめ、両手を開いていた。

 まるで、飛び込んで来いと言っているように……


「ダイスケ……さん」


 両手で口元を押さえ、驚きに眼を見開く。

 絶対に捨てられる、そう思っていたのに、彼は自分を受け入れようとしているのだ。

 あまりの嬉しさに涙が溢れた。


「でも、私はコピー体で、だから、本物じゃなくて、それで……」


「うだうだ言ってる時間はねぇんだよっ」


 刹那、彼女の背中に光が襲いかかった。

 その光に押し出されるように身体が宙に浮く。

 え? と驚き振り返った彼女が見たのは、雪だるまが光を放ち終えた後の姿。


 ダメージを与える目的ではない。

 彼女の身体を無理矢理押し出し、彼の元へと届ける一撃。

 ふわりとヘリから飛び出したパルマを、ダイスケはしっかりと受け止める。


「あ……」


「パルマ、大丈夫か? 今、閃光に撃たれてた気が」


「雪だるまさんが……私を押してくれて……」


「雪だるま、アイツ……」


 見上げる先には、プロペラが徐々に止まり、ゆっくりと降下を始めるヘリがあった。




 ヘリの中、ダイスケの元にパルマが向かった事を確認し終えたシュヴァイツァーは内部に引っ込み、皆を見回す。

 ゲリンデルにヘスティカーナ、トウドウ、動くよ雪だるま、村人にセルジュ。魔王の背に乗り切れず、ヘリに入ることになった面々は皆同じ顔をしていた。


「そんな顔すんじゃねぇよ。こいつはただの犬死にじゃぁねぇ。未来への種子を残す栄誉ある滅びよ」


「言葉を着飾っただけではないか。ふん、こんなことならずっと封印されておれば良かったわ」


「あら、そう言いながらも随分楽しそうに一緒に居たではないですかヘスティカーナ」


「お前こそ、ダイスケの元に居なくて良かったのか?」


「いいんです。どうせ一度は死んだ身ですし」


「さよならパルマ、それに、僕を見捨てないでくれたダイスケ君。幸せに」


 ふいに、彼らは押し黙る。

 皆が一斉に雪達磨に視線を向けた。


「「「「「「しゃ、しゃべったぁぁぁぁ!?」」」」」」


 そしてヘリは、虚空の彼方へと消えて行った……

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