契約破棄不可、強制執行
「……っは!?」
がばっと起き上がる偽ダイスケ。
僕が近くに居るのに気付いて慌てて立ち上がり距離を取る。
「クソッ、やりやがったなクズ野郎!」
うん、別に否定してもいいけどあえて肯定するよ。実際ミケがプレイヤー殺ししちゃったし。
「魔王共、必殺だ。奴らを殺せッ!!」
背後にいたリーハ五体に命令を送る。
しかし、魔王達は呆れた顔で溜息を吐く。
「……おい? オイッ! 俺様が命令してんだぞ! テメェらのご主人様が、ダイスケがッ! なんでテメェら動かねぇんだよ!?」
「滑稽よな小僧。既に勝負は付いた後だ」
「なんだとっ!?」
魔神様のお言葉にふざけんな! と睨みつける偽ダイスケ。
この異様な魔神に真正面からメンチ切るとか正気か?
僕なら速攻縮みあがってるところだよ。
―― はい、そこまで。契約通りあんたからアカウントは剥奪。ダイスケ君に戻すわよ ――
「ざっけんな! こんなの認められるか! 卑怯に卑怯重ねやがって! ふざけんなよ」
いや、卑怯なのはそっちだからね。アカウント奪った時点でまず卑怯者だから。
―― それはおかしいね。ダイスケ君は卑怯なことはしてないよ。ちゃんと契約ルールに従って闘った。そして彼に味方するオリジナルキャラが予想以上に多かった。それだけのことだよ ――
「卑怯だろうがよ! 初めから居た奴らは全員倒したんだぞッ! 俺の勝ちだろ!!」
―― 残念、そいつも間違ってるんだなぁ。最初に居たキャラの中で村人君は生き残ってたしミケも生き残ってた。ギドゥのまねをしてミケが自己判断であんたの意識を刈り取った。策士が策返されたからって言い訳してんじゃないわよ、ばぁーか ――
「この……クソ女神がぁぁぁぁ!!」
人を怒らせることに関しては駄女神さんピカイチだな。
地団太踏む偽ダイスケを見ながら僕はふいに隣に来た人物に気付く。
振り向けば、そこにはシークレット。
僕らは無言で見つめ合い、ふふと笑みを交わし合う。
なんだろうな。こうして顔を合わせただけで相手の思いが分かっちゃうのって。
なんとか、勝ったよ、シークレット。
―― さぁってあちしもあんまりあんたに関わってる暇ないんでぇ、ちゃちゃっと終わらせるわね。いやー、契約してくれていた御蔭で楽い楽い ――
「ざけんなっ。アカウント奪わせる訳ねぇだろ!!」
必死に奪わせまいと抵抗する偽ダイスケ。
傍から見てると一人悶えているのでちょっと怖い。
「クソ、クソッ、俺は、お、れ……お、お、お、お、おごごごごごごごごごごごぼげ」
ぎゃぁ!? 突然白目剥いて痙攣し始めた!? 怖っ!?
次の瞬間、はっと我に返ったようにぴくんっと反応するコピーたち。
僕の体に何かが入ってきた感覚ががががががががが!?
「だ、ダイスケさん!?」
「フハハ、偽モノもダイスケも痙攣しまくっておるわ、きしょい」
僕もですかぁ!? ふざけんな駄女神、テメェマジ死なす。シークレットの前で痙攣させやがって。
口から泡吹いてるじゃないか!?
アカウントが戻ったらしい。
全身の筋肉使った気がしてどさりと僕は力尽きる。
四つん這いになって荒い息を吐いていると、遠慮がちにシークレットが耳元に語りかけて来た。
「わ、私は、その、どんなダイスケさんでも、す、好き、ですよ」
嬉しいよ。嬉しいけどねシークレット。それもう少し別な時に聞きたかった。
うおぇ、気持ち悪っ。
なんか超振動した気分だ。巨大な局所地震が自分だけに襲いかかった気分です。
―― さぁて。きりきり吐いて貰おうか、君をこの世界に連れ込んだのは何処の神だ? ――
「はっ、言うとでも思ってんのか?」
―― 契約は履行させて貰うよ。破棄したくても無理、とくに神々の契約はね。私達でも破棄は不可能なのさ。と、言う訳で、強制執行 ――
「お、おごごごごごごごごごご!? エドラゴのギルガぁぁぁあぁぁぁ」
ひぃぃ、白目見ながら涎垂らし始めた!?
怖い怖い怖い。何コレ、強制執行怖すぎる。
―― ああ、ギルガの奴かぁ ――
―― 知ってるのかい駄女神 ――
―― 駄女神言うなし。ギルガ君はねぇ、あちしの元悪友って感じかにゃー。ちょっとやり過ぎな感じの奴だったから自然と距離を置いて連絡不能になったけどにゃー ――
つまり、駄女神並みに頭のやべぇー奴ってことか。納得したわ。
―― ちょっとダイスケ、あんた今変なこと考えなかった!? ――
変なことってなんだよ。普通に常識的なことしか考えてないよ。
―― さて、とりあえず、この偽ダイスケ君どうすっかな? ――
―― ハレン・チー王国にでも投げ捨てとけば? ――
流石にそれは可哀想過ぎるだろ。
とりあえず元の場所というか世界に戻してやったら?