既定路線をぶち壊せ
僕はアイテムボックスを必死に探す。
気分は慌てる猫型を自称する青狸だ。
そこいら中にこけしやら何やらいらないモノが散乱する。
「ちょ、ちょっとダイスケ?」
「時間がないわ。残りHPは5、4、3……」
あった!
振りかければいいのか? でも飲ませた方が、死にかけなのに飲めるのか?
方法は……そうか!
僕は死人すらも蘇す奇跡の水を、自分の口に含む。
残り2秒。
リーハの身体を持ち上げる。
残り1秒。
口移しで奇跡の水を飲み込ませる。
頼む、効いてくれッ!!
残り0秒……
くたり、力の抜けたリーハの身体に、間に合わなかったことを悟る。
力無く僕の腕がリーハを地面に降ろした。
「死んだ……?」
そんなっ。シークレットが口元を両手で隠し涙する。
お前くらいだぞ、魔王なのに死ぬことを悲しまれるのは……
「神め……」
セフィーリアが拳を硬く握り込む。
ルーカとイリスが辛そうに顔を背けた。
皆が涙し、すすり泣き、仲間として一緒に闘った日々を思い儚む。
僕も涙がこぼれてくる。
ごめんなリーハ。君も助けられるって僕、こんなことになるなら進まなければ良かった。君が生きてるまま、勇者の街でずっと……ずっと……あれ? なんで、こいつ顔真っ赤にしてんだ?
うっすら目を開ける死んだ筈のリーハ。
再び目を瞑ってなぜか唇をタコのように……あの、え? どゆこと?
なんですかそのキス待ち顔は?
え? 生きてる? 死んだんじゃ? まさか、奇跡が、本当に!?
って、なんか生きてるの言いだしづらいな。皆凄い泣きだしてるし、一部号泣始めてるじゃん。四天王のコピーとかゲリンデルオリジナルとかヘルファータとか。
なんでヒーロー君まで泣いてんの?
「あー、えー……いや、やっぱなんでもない」
生きてるって一言言えればいいんだけど、なんでだろうね。この空気。
こいつ生きてますよっとか言いづらいんだけど。
「ダイスケさん……」
「セフィーリアさん?」
「死体、焼きましょう。皆で弔いましょう。そして誓いを胸に……神を討つ」
怒りを湛え、復讐者が告げる。
でもねセフィーリア。こいつ生きてんだ。
しかも今の言葉聞いて物凄い勢いで震えだして焦りだしてるんだ。真っ青でガクブルしてるんだ。
「私達は必ず貴女の仇を……」
あ、気付いた。
「……仇を討つわ。ええ。貴女を焼いて弔った後に、ええ、ええ。絶対に焼いて……」
セフィーリアさんの視線が痛いです。なんでそんな汚物を見付けたような眼をしていらっしゃるんですか。僕関係ないよね?
「介錯は、必要かしら?」
「待って、僕違う。僕違うからっ」
かちゃり、こめかみに当てられた銃口に僕は慌てて否定する。
「でも、生きていると教えませんでしたね?」
「だって、だってなんか言いだしづらい雰囲気だったんだもん。こいつも死にまねしてやがるし」
僕とセフィーリアの会話に、皆がん? と泣くのを止める。
訝しむようにリーハを覗き込み、生存を確認。
「ダイスケぇ? これ、もしかして……生きてる?」
「あはは、ルーカ。どう見ても生きてるよ。なんか生きてたよ」
「魔王ぉぉぉぉっ!!」
ふざけんなっとルーカによる渾身の一撃。
ぽこんっと頬に一撃喰らったリーハは観念したのかクワっと目を見開く。
「おお、魔王よ、死んでしまうとはなさけない。くらい言わんかダイスケ。死んだと思ったのになんか生きとったぞ我。しかもなんか誓いの、誓いのき、ききき、キッスされて気絶してしまったのだ」
あれは誓いのキスとかじゃなくて人工呼吸とかの意味合いだよリーハ。
キスにカウントしちゃいけない奴。生死掛かった状態で相手を救護するための行為だからね。
―― そ、そういうことかあぁぁぁぁぁッ!!? ――
うわっ、なんだ? 神か。
―― くっそ、人命救助、そう来たか。なんて悪運だよダイスケ君。駄女神が唯一生還出来るようにプログラムしたの魔王とキスだぞ。ピンポイントで生還させるとか君の運はどうなってるんだッ!! ――
運? ああ、そっか。ついさっきまで☆5や☆4が出なかったのはリーハ生還させるために運を溜めこんでいたからか。いや、ただの偶然だけどな。
まぁ、そう言うことにしとこう。ありがとう神様。ホイホイ君や駄女神じゃないどっかの幸運の女神様に祈りを捧げておく。
なんとか、魔王様生還です。
知らないうちに生存条件を満たしていたようだ。
シークレットがアレはキスではないですよね? と困惑気味に尋ねて来た。どうやら心配だったようだ。大丈夫、ただの人工呼吸みたいなもんだよ。
シークレットもする? え? 遠慮する? 恥ずかしいから? いや、それなら誰もいない場所で……え? 神様見てるからやだ?
神ェェェェェェ……ッ!!
今なら僕は怒りで神を殺せる気がする。