食事を作った犯人
「大丈夫ですか?」
シークレットの心配そうな顔が寝起きに見られた。
「ここは天国か?」
「アホか。全く我が作った物を食べただけで死ぬとはどういうことだ」
返答の合った声にいやー面目ない。と答えようとして急速に頭が回りだす。
今、なんと!?
「あのシチューを作ったのは、お前か!?」
「うおっ!?」
急に起き上がった僕に仰け反って見せたのは、なんと魔王陛下である。
なぜ、リーハが食事を!?
「で、どうだった。我の自慢の一品であるぞ」
ふふん、と胸を張るリーハ。セフィーリアさん、これって……
「何をトチ狂ったか我もやるぞ、とシークレットとパルマに混じっていたわ。よく気絶ですんだわね」
ちなみに残ったシチューは誰も見ていない間に処分されていた。パルマがぐっと拳を握って親指立てて来たので後でお礼言っとこう。
「で、で、どうだった? 美味かったか?」
マズイ、殺す気か。言うのは簡単だった。
でも魔王なのに凄く期待に満ちた顔でワクテカしている魔王様を見ていると、流石にそれを直で告げるのは良心が咎めるというか……
「そ、そだな、独創的で素敵な味、だったよ」
「そうかっ。そうであろうっ。ふはっはっはっは。見たかシークレット。我だって料理暗い出来るのだ!」
「え、ええ。そう、ですね……」
あのシークレットが凄く気まずそうに気を使っている。
「どうだセフィーリア! 素敵な味だと言われたぞ! よかろう、羨ましいか!」
「え、ええ。とても素敵なものでしたよ。きっと食べたら昇天してしまうことでしょう」
隠して、お願いだから毒物だったっていうのは隠して。
しかし、リーハがシチュー作ったってことはシークレットが作ったのは子羊のステーキ、になるのか。アレは確かに美味かった。
さすがシークレット。王女でありながら良妻賢母な気配がびんびんします。
「そうだ、セフィーリアたちにも振る舞ってやろう、まだシチューが余っておるのだ」
「え゛ぅ!?」
そう言いながら褒められた子供のように楽しげに厨房に去っていくリーハ。青白い顔でひくつくセフィーリアから視線で助けを求めるアイコンタクト。大丈夫、パルマがやってくれてるらしいよ。
「すまん、なんかなくなっとった」
「え、そ、そうですの残念ですわね」
「誰だ、我を魔王と知っての狼藉か、我が料理を盗むなどッ」
「きっと美味しそうに映ったんですよ。思わず食べて平らげてしまって、慌てて逃げたのでしょう」
と、パルマが告げる。
「む、むぅ?」
「それじゃ仕方無いよリーハ。今回は作ったという事実だけで、な。ほら、そろそろ出発するし」
「そう、だな。仕方あるまい。しかし、そんなに我が料理が気に入った奴がおったのか。次に作る時は縒りを掛けねばな」
あかん、これ以上魔王に料理させたら死人が出かねない。
なんとか注意を逸らさねば。
なんかこれ駄女神とかが料理系のイベントにしそうなんだよな。頼むぞホイホイ君。絶対に阻止してくれよ。
魔王が食事大会にでる、なんてことになったらパンデミック状態で死にまくるぞ。
まさに食品テロ状態になりかねない。
魔王の悪名が轟いちまうぜ。
「それじゃそろそろ行こうか」
「それはいいけど何処行くの、タップするんじゃないの?」
「とりあえずヒーロー君と合流しようかと」
「あ、それは無理よ」
イリスさん、どういう意味?
「次章タップしないと、まだゲリンデル倒したあの場所から動いてない筈よ彼ら」
また移動不可能状態になってるのかよ。
頑張れヒーロー君。すぐ動けるようにするからな。
というわけで最終章タップ。行くぞ魔王。君と闘う為に、君と魔王城を目指す!
「あれ? タップしたけど何処向かえばいいんだ?」
「あ、それはヒーロー達が来るまで待てばいいわ」
イリスさんや、あいつら結構遠くに行ってなかったっけ?
それからしばらく、結局宿屋備え付けの酒場でボーっとしとくことになってしまった。
魔王様が食事作ろうか? とわくてかして言って来るのでこれをなんとかやらせないようにするのが大変でした。
ちょっと目を離すと厨房に入ろうとするんだもんよ。
僕だけじゃなくシークレットやらパルマが止めても突撃していくからな、結局は僕が椅子に座って僕の上にリーハを座らせて拘束させるというセフィーリアの案を採用し、魔王の好感度が上がるらしいお菓子のアイテムを買うことになってしまった。
余計な出費が増えたよ。またデイリーミッションのお金集め周回しないと。
それでも数時間を費やすことになり、ようやく戻ってきたヒーロー君たちが目元にクマ作っていたのも無視する形で早速出発することになった僕らであった。
すまないヒーロー君、君等は寝ずに延長戦だ。