神様喧嘩する
「ここはグッドエンド一択でしょっ!!」
「いいや、ここは感動のデッドエンドだろ!」
その日、黒いだけの世界に、ぷるんとした三角形型のまるっこい頭と触手の胴体を持つ生物と、メガネを掛けたいかにもニート喪女娘ですと自己主張している女が怒りをたたえた顔で睨み合っていた。
ホイホイ君と駄女神様の二人である。
「ホイホイ君のシナリオで行くと魔王ちゃん死んじゃうでしょッ、下手したらダイスケ君がこっち攻め込んできかねないわよ」
「ここは運命に抗おうとして結局悲劇で別れるのが一番いいんだよ。魔王を倒してハッピーエンド。それでいいじゃないか」
「リーハちゃんの恋心が実る方が皆の受けはいいって!」
今、二人は魔王リーハちゃんをシナリオ上で殺してしまうか、生かすべきかで意見が分かれて喧嘩の真っ最中である。
リーハを次の章終了で死なせるのがホイホイ君の描く正規ルート。
これはあくまでソシャゲ世界なのでプレイヤーが満足できるリーハ生還ルートが駄女神。
ダイスケからすれば駄女神案を採択するところだが、この世界を作ったのはホイホイ君。
製作者が死亡説を唱える以上無碍にする訳にはいかないのだ。
よって二人の意見は平行線を辿ることになる。
「わかったわ。ならダイスケくんに選んで貰いましょ」
「それだとそっちの意見が採用されるだろ、ここは魔王が滅びる一番メインのポイントだぞっ」
「だからこそ、そこで奇跡が起きて復活した魔王が正式に仲間になってハッピーエンドでしょ」
もはやこれ以上話しても互いに譲ることは無い。
理解した二人はむぅっと睨みつけた後、同時に溜息を吐いた。
「妥協案にしましょ」
「妥協できるかな、正反対の意見だと思うけど?」
「抜け道を用意しておいてダイスケがそこを選べたならリーハが仲間になる、みたいな?」
「……わかった。でもどちらを選んでもこれ以上文句は言わない、いいね?」
妥協案が示され一応の終息を試みる。
結局知らないままに選ばされることになったダイスケ。
この話を聞けばふざけんなっと地団太踏むことだろうことは分かり切ったことであったが、二人揃ってラストの改変を始める。
「こっちはこのままシナリオを進める」
「わちきは抜け道を作成してそこに組み込む。さぁ見付けておくれよダイスケ君」
「今回はエピローグで死ぬようにしておく。逃げ場は無いよダイスケ君。リーハオリジナルとはここでお別れさ。最悪ゾンビとして生かす方法はあるけども……」
ゾンビ、好きだなぁ。とホイホイ君を呆れた顔で見つめる駄女神。
せっかくなのでプログラミングの合間にオーガキングにネコミミを付ける。
魔王城に出現する敵にホイホイ君が気付かないようにと少しずつおかしなギミックを付けて行くのだが、彼が気付いていないのでどんどん魔改造が進んで行く。
「おっと流石にSAN値直送はマズいか」
「何が、マズいって?」
「はひゃい!?」
直ぐに気付かれキマイラにタコ足をくっつける改造データは殺処分させられたのであった。
ついでにネコミミオーガも陽の目を見ることはなかった。
「マロン、大変ッ!!」
「おお、アルセちゃん、突然だね。どうした?」
「アルセ? グーレイさんと宴会してたんじゃないの、私を退けモノにしてー」
ふーんだ。と拗ねてみせる駄女神だったが、アルセの血相がおかしいことに気付いて怪訝に眉をひそめる。
「何か、あったの?」
「グーレイ消えた。あの人の異世界転移に巻き込まれた。どうしようっ」
「うわーお」
宴会中に何か事故が発生したようだ。グーレイ神が飛ばされたそうだが、仮にも神だ。そこまで問題は無いだろう。
「まぁ、少しくらいフォローはしとこうかね。ホイホイ君、またちょっと留守にするからしばしよろしく」
「りょーかい」
「あちしが組んだプログラム消さないでよー」
「ちゃんと組み込んだよ。あ、でもクトゥルフキマイラとかは修正しといたからね。やらせねぇよ?」
「ガッデムッ!!」
折角ふざけて作ったイベントキャラは水泡に帰した。
「全く油断も隙もない。グーレイさんが達観してるの君のせいじゃないだろうね」
「失敬な。あちしとグーレイさんはズッ友ですぜ」
「グーレイは出来れば切り離したい腐れ縁だって言ってた」
「酷いよグーレイッ!?」
しくしくと泣き真似している駄女神がアルセに連れられ去っていく。
一人残ったホイホイ君は再び世界に視線を向けてプログラムを打ち込み始める。
「さぁ、最終章で一旦終わらせるのは哀しいもんね。裏ボス作っておかないと」
ダイスケは今だ知らない。
魔王を倒して終わりではないことを。
そう、魔王の先には神がいるのだ。魔族の神、そう、魔神というなの裏ボスが。
「あ、この魔神駄女神が改変してやがる。畜生なんでこんな面倒臭いロックまで掛けてウサ耳付けてやがんだよッ、レオタードとか網タイツとか男に必要無いだろうがっ」
駄女神が居なくなって安堵したのもつかの間。駄女神への怒りを強め続けるホイホイ君であった。