大会は始まらない
椅子に座ってしばしゆったり、弁当大量に持ちながら周辺を歩いていた売り子さんを呼んで人数分の弁当を買っておく。
大した金額じゃなかったけど、人数が多かったので物凄い金額になってしまった。
また金欠である。
「ふむ、この弁当というのはどうやって食べる?」
「あ、そっか、リーハは箸とか使った事ないか」
そう言えば普通に箸渡されたけど、この世界の住民は箸使えるのかな?
シークレットを見る。
割り箸を袋から取り出したはいいが、二つがくっついた状態を見て固まっている。
他の面々も同じだ。セフィーリアさんも初めて見るようで小首を傾げている。
神様、箸の使用法ぐらい普及させようよ。なんで現物あるだけで使い方わからないんだよ。オーパーツじゃないんだぞ?
「えーっと皆注目」
僕の言葉に皆の視線が僕に来る。
これは割り箸といってこうやって二つに割ります。
「おおっ!」
リーハの箸を使って皆に見せる。
上手く割れなかったせいで変な感じになっていたが、一応食べるには問題は無いはずだ。
「箸の持ち方はこう、それで、こうやって摘まんで食べます」
「まぁ、凄い」
豆を掴んで持ち上げてみせた僕にセフィーリアが思わず呟く。
自分でやってみてころんと転がった豆を見てむぅっと唸っている。
そして何度かやってびきりとイラつきを覚え、さらに激しく掴もうとして逃げられ、最終的にズブッと一気に貫いた。
「刺せば、問題ありませんよね?」
「そう、ですね」
子供がしそうな握り箸で食べ始めるセフィーリア。
皆も箸が使いづらかったようで真似をして食べ始める。
見ていた周囲の観客から含み笑いが漏れた。セフィーリアさんの銃が火を噴いた。
「むぅ、やはり難しいぞご主人様よ」
「仕方ないなリーハは」
魔王様から箸を受け取りハンバーグらしき物を掴んで持ち上げる。
「はい、あーん」
「えぅっ!?」
「あーん」
「いや、そのあの……」
急に慌てだした魔王様は周囲を物凄い速度で確認し始め、顔を真っ赤にする。
あれ、怒っちゃった?
けれど仕方無い、と観念したようで遠慮気味にあーんと口を開ける。
そこにハンバーグの欠片を投入。
「あーずるいですよダイスケ様。私も、私もあーん」
コピーパルマが自己主張して来た。
はいはい、卵焼きでいいか?
「あ、あーん」
え? シークレットも?
じゃあえーっと、ご飯で。
「あーん」
はいはい、次はムナゲスキーね。んじゃ……何故居る!?
おっさんが期待する顔で口を開けて待っていた。僕は思わずご飯の上にあった梅干を放り込んだ。
「すっぱぁぁぁぁっ!?」
そこら辺を転がり始めるムナゲスキー。
ああ、びっくりした。何でこいついるの?
「なぜってダイスケよ、儂放置して行っただろ、頑張ってここまで自力でやって来たのじゃ」
それはそれで驚きだわ。
そう言えばどこぞの宝石商の所に放置したままだった気がする。
あそこから自力で動いて来たのか。危険だな。うん、ストック行きで。
「え? ちょま……」
危険人物は速攻排除だ。危ない所だった。
「おー、できた! できたよイリス!」
「はいはい、よかったですね」
後ろの方では豆を掴んで有頂天になってるルーカ、イリスに見せようと掲げた瞬間豆がぽろりと落下して足元を転がった。
「ぬあああああぁぁぁぁ!?」
「……馬鹿ね」
イリスさん辛辣っす。
にしても、まだ始らないのか?
皆良く待ってられるなぁ。
というか、近くに座ってるおっさんの会話がループしてないか?
ん、待てよ。3話終わって座るだろ。
んで大会開始の挨拶を司会さんがする。
「おかしいですね、まだ始まりませんか? 食事が終わってしまったのですが」
僕は辿りついた結果に気付いて顔を青くする。
だが、黙ってる訳にはいかない。
これ以上時間を掛ければ掛ける程セフィーリアさんが凶悪になって行くからだ。
だから、僕は皆の目の前で出来るだけ不自然さを演出せずに4話をタップした。
「オイ、ちょっと待ちましょうか、ダイスケさん」
「な、何でしょうセフィーリアさん」
「まさか、とは、思いますが……タップ待ち?」
「あ、あはははははぶゅっ」
ぱちゅーんと僕の意識が一瞬消えた。
だと思った、そう来ると思ったよ。
だから即座にタップしたんだ。
後になる程酷くなるから。
今更だけどそうだよ。
僕がタップしてオリジナルストーリー進めないとそりゃストーリーが進まないよね、大会始まらないよね。
ごめんなさい、動きが無かったのは僕のせいです。
タップ待ちだったようで司会者さんが名前を呼び上げ第一試合が始まった。
勇者対勇者、殆どのメンバーは昨日と一緒で、前回魔王チームが居た場所に新たな勇者チームが入っているくらいだ。
ちなみに村人君たちの出番は8戦目だそうだ。