ヘタレー君明日からがんばる
ベスト8の最終戦はリーハ、セフィーリア、ヘスティカーナ、ケンウッド、タダシ、ゲリンデル。
これに対抗するのは勇者チーム。
前回適当に流したチームだったんだけど、よくよく見れば勇者ヘタレー君がいる。
彼は周囲を見回しながら何故僕はここに居るんだろう?
みたいな顔をしている。
あの子は何故格闘大会に出場しちゃってるんだろう?
プルプル震えながら魔王様に怯えるヘタレー君。
魔王はもう既に必殺の構えを見せている。
うん、一撃粉砕確定っぽいな。
「では、試合、開始ィ――――ッ!!」
「クハハハハハハハ!! 塵芥どもよ天を見上げ絶望せよ! 我が名はグレヴィウスリーハ! 貴様等を悉く撃ち滅ぼす者である。星屑達乃虐殺!!」
開幕必殺が刺さる刺さる。
勇者たちは阿鼻叫喚の地獄絵図。
逃げまどう人間達を前にして、魔王陛下は高笑いを浮かべていた。
「流石は魔王というべきか、まさに圧巻、まさに圧倒ッ、魔王を倒せる勇者は居ないのかァ!?」
司会者さんが嘆くように告げる。
観客席からも不安の声が漏れる。
勇者大会に乱入した本物の魔王。これを倒せる者は、果たして……
「っと、待った! まだ我々の希望は潰えてないぞーッ、見てくれ皆、戦場にただ一人、勇者が残っているぞ――――ッ!!」
司会者さんが指差すその先に、そいつは頭を両手で押さえてうずくまりながら、一人だけ生き残っていた。
「なんだと!? 我が必殺を耐えきったと言うのか!?」
ヘタレー君、何気にスキルに有用なの持ってるんだよなぁ。
特にパッシブスキルの敵先制攻撃回避とか。
スキル隠れるとか。
自分が生き残ることだったら特化型と言ってもいいかもしれない。
御蔭で魔王の必殺から生き残ることが出来たようだ。
しかし、まだまだ後が控えている。
ゲリンデルによる連続即死攻撃。
セフィーリアさんによる銃乱射。
ヘスティカーナによる尻尾攻撃。
ケンウッドによる連続即殺攻撃。
タダシによる強烈な切断攻撃。
しかし、ヘタレー君はそのことごとくを隠れ身で避けきる。
流石に2ターン目に突入するとは思っていなかったリーハ達は想定外のことに驚き目を見張る。
セフィーリアさんも険しい目をヘタレーに向けた。
「これは、どうやら手を抜けないようですね?」
「ひえぇ、ぎ、ギブ、ギブアップッ!!」
ジャコン、と何やら初めて見るような武具を取り出したセフィーリアを見て、ヘタレー君は即座に自分から舞台を飛び降りた。
あまりの早業に、自分から敗北したと言う事を魔王チームが理解するまでだいぶ掛かった。
「しょ、勝者魔王と仲間達!!」
なんか熱い闘いになると期待していただけに、観客からブーイングが飛ぶ。
ヘタレー君はそれに焦って慌てるように立ち去って行ったのだった。
うん、まぁ、所詮はヘタレ野郎だったか。
本気出せばそれなりに強そうなんだけどなぁ、残念な奴だ。
イベントとかこなしたら性格変わるんだろうか?
そうだとすると逆に厚かましい人になりそうだからいっか。
「そ、それでは気を取り直しまして、ちょいと休憩だ! 休憩後はベスト4の闘いだぞー!」
結局残ったのはリーハオリジナルチームとリーハ1号チームだけだったな。
「ネビロヌは出てないけどよかったの?」
僕の斜め後ろに座っていたネビロヌが頷く。
「我が出たところで大して変わるまい? 死者がおらんし、ゾンビ化されても問題になるだけ。ならば大人しく観戦に回っておく方が良い」
「確かに、そうか……」
タンクとしては充分役立ちそうだけどなぁ。
なんたって不死者だし、何度倒されても立ち上がるしな。
でも、誰にも選ばれなかったみたいだし本人も出たくなさそうだから放置でいいや。
一応レベルは上げておいてやるか。
「しっかし、レゴウの奴が裏切らなければ……」
「あのオナラ男を選んでおかなければ……」
「魔王同士で潰し合いなどしばければ……」
なぜか魔王のコピーがリーシャとハルコを押しのけ、僕の両脇となぜか太ももの上に陣取り反省会を始めている。
なぜ、ここでする?
あとリーハ5号はお尻を押しつけないでください。
そもそもお前らドラゴン部分はどうした!? あれって着脱可能なのか?
この三人、普通に人体部分だけになってるぞ? なんだこれ、魔王って着脱式生命体だったのか!?
「ところでダイスケよ」
「はぁ、何かなリーハ5号」
「うむ、ここにおる三人の我、どれが一番可愛らしい?」
は? いや、全員一緒じゃん?
魔王達による無茶振り。
同じものから一番可愛いのを選べとか、出来るかッ!!
結局試合再開までのらりくらりと躱すことで難を逃れる僕だった。