勇者大乱闘
「俺だ!」
「私よ!」
「何言ってやがる。俺が魔王と闘うんだよ!」
何もしてない僕とリーハの目の前で、勇者たちが自分が闘うと自己主張。
その内荒くれ勇者っぽいのが近くのイケメン勇者を殴りつけた。
それがきっかけとなって周囲で乱闘が始まる。
魔王の前で、勇者たちが勝手に殴り合い始めました。
なんだ……これ?
勇者たちが勝手に自滅し始めたんだけど。普通皆で揃って魔王を倒そうってことにならないか?
「ダイスケよ。何が起こっているのか、説明して貰っても?」
「ああ、今、目の前で起こったことを言うぜ? 勇者が魔王を見付る。倒そうとしたら別の勇者が名乗りを上げる。互いに邪魔者扱いし始めて殴り合い。勇者同士で大乱闘。いまココ状態」
「つまり、我を誅せんとやってきた勇者どもが勝手に自滅し始めたと、どうしよう?」
どうしようもない。このまま終わるまで待っとこう。
そして僕らはゲリンデル二人が背後で蔑み合い、目の前では勇者の群れが魔王討伐権を争う姿を見ながら、ただただ立ち尽くすしかなく。
ようやく動けたのは、勇者たちの結果が出てからであった。
よろめきながら、残った最後の勇者が魔王の元へとやってくる。
剣を支えに近づいて来た彼は、魔王の眼前へと辿りつくと、両足でふんばり両手で剣を真上に掲げる。
「魔王、か、覚悟ぉッ」
「ていっ」
勝者、魔王。決め手はデコピン一発。
喰らった勇者はがはっと呻いて無数に倒れる勇者たちに仲間入りしたのであった。
「なっ!? へ、陛下。まさかこれほどの勇者を殲滅したのですか!?」
驚いたのはゲリンデル二匹。おっと失礼。二人のゲリンデル。
気が付けば魔王の前に無数の倒れた人の群れ。
最後に魔王を倒したい勇者の一人を倒したことで全員倒したと勘違いしたようだ。
魔王の実力を再確認したのか感涙に咽び泣いている。
流石ですね魔王陛下。とか素敵ですとか口から漏れている所を見るに、なんやかんやでゲリンデルはリーハに尊敬の念を持っているんだろう。
成る程、魔王様はちゃんと魔王様してるじゃないか。うん、自分で言っててよくわからないなこの台詞。
「えーあー、ダ、ダイスケ、そろそろ次に行こうではないか」
「そっすねー。ゲリンデルさん、どっかいいとこあります?」
「え? 私に聞くのか? んー、確かここから右に行った場所に教会があったな。なんでも勇者は死ぬとそこに飛ばされ生き返るのだとか。噂程度にしか聞いてませんでしたが、流石に私一人では調べきれないと思っていました。陛下がいらっしゃれば群れなす勇者とて烏合の衆。ならばちょうどいいかと」
「う、うむ?」
まさか同じく勇者だらけの場所に向かわされることになったらしい魔王様はひくりと頬をひきつらせる。
「我、こんな勇者どもの相手もうしたくないのだが」
「うん、諦めって肝心だよリーハ」
僕らはゲリンデルの指定した教会へと向うことにした。
道中バグを探しながら向って行くと、厳かな西洋風の教会がった。
問題があるとすれば教会の前に鳥居があることか。
「神様よこ……」
指摘しようとした瞬間、鳥居の姿が消えたけどな。
これ、バグだったか。バグだったよな。神様無言で消すのはどうかと思うよ。
くっそ、せめてもう一つのバグはッ。
「神様、あそこの樹が……指摘する前だよッ!?」
樹になった実がリンゴだったりミカンだったり一つの樹に複数の実が付いてたのを指摘しようとしたら栗の樹に変化してしまった。
どんなバグだよっ。
クソ、もしかして僕を監視してるのか? だから僕が見付けた瞬間そのバグを修正してやがるのか? いいだろう、その喧嘩買ってやる。絶対に修正前に言い切ってやる!
そんな決意と共に僕は教会の扉を開く。
ギロリ、教会に犇めく勇者たちが現れた魔王に視線を向けた。
あの、いきなりなんで抜刀しちゃってるのあんたら。
魔王ーっ!! とかなんで一目見ただけで分かるんだよ!?
「く、クハハハハハ、どうした勇者ども、我と闘いたいか? ならば一番強い勇者と闘ってやろう」
半ばやけくそ気味に告げる魔王様。
聞いた勇者たちは互いに近くの勇者を見る。
「う、うおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」
そして勇者たちの同士打ちが始まった。
ほんと勇者だらけだなこの国。
ゲリンデルは何でまたこの国にいるの?
「いえ、その、まさか勇者の国だとは思っていませんでしたので。こんなにうじゃうじゃ勇者がいると知っていれば近づきませんでした」
大乱闘スマッシュ勇者ーズ、みたいなノリで闘い合う勇者たち。
次々に吹き飛ばされ教会の壁と化す勇者。
司祭さまが教壇の影に隠れながら神様に祈りを捧げてます。
とりあえず、御愁傷様です。