魔王陛下、おばちゃんに敗北する
リーハはおばさん達に掴まってしまった。
矢継ぎ早に質問しながらもその返答を聞く気が無いおばさん達は自分たちの話をブチ込んで行き、さらにリーハが言葉を返す暇すら与えず話題を次々に変えて行く。
そしてリーハだけが付いて行けずに苦労している様子が遠めに見えた。
たまに振られる話に頷くより早く話題は別の話に入り、リーハの割り込む隙が一つも無い。
その内リーハの許容量が一杯になったのか、ふらふらし始める。
これはダメだな。流石の魔王陛下でもおばちゃんパワーにはかなわんか。
リーハが倒れないうちにそーっと近づき、おばちゃんたちに気付かれることなくリーハを回収させて貰う。
もはや死に体のリーハは僕の腕の中で静かに息を引き取った。
いや、死んでないけどさ。
精神的には殺されたようなモノである。可哀想に。
しかし、こうなるとおばちゃん達と会話するのは難しい。
とはいえ、召喚石自体は指輪に付いているので直ぐ分かる場所にある。
「そうだ、暗殺猫ミケ君の出番だ!」
猫にお願い。アレ盗って来て。
え、盗むのかめんどくせぇ。とばかりに耳の裏を撫でまわすミケ。
撫で終わった手をぺろぺろと舐めて仕方ねぇなと動き出した。
ゆっくり、そろりそろりと近づく猫。その姿はどう見ても草食動物を狩ろうとしているライオンとかチーターの類だ。
そして一定のところまで近づいた瞬間、その姿が掻き消える。
おお、流石暗殺猫。一体何が起こった!?
と、思ったら悠々とした足取りで戻ってくる猫が別の場所に居た。
口元には指輪を咥えている。
おお、すげぇ、おばちゃんに気付かれることなく奪取しやがった。
貰った指輪を速攻アイテムボックスにしまい込み、猫の頭を撫でる。
そんな事より飯出しやがれ、とぽしぽしと僕の靴を叩く。
ショップを出してアイテムを見る。お、あったあったイワシが……あ、お金足らない。
クソ、こうなったらデイリーミッションの金貨集め行くしかないか。セフィーリアさんの宝石買わなけりゃ、買わなけりゃなぁ……チラッチラッ。
「はぁ、仕方ありませんね。今回は手伝いましょう。この金額なら二回くらい、ですかね」
「一番難易度高い80レベル推奨の奴でお願いします」
「了解したわ。他のメンバーは?」
「リーハが使えない以外は誰でも」
リーハはまだ力尽きたままだ。この状態で戦闘に参加は難しそうである。
「じゃあナルタさん、ケンウッドさん、サシャちゃん二人と、ヘスティカーナさんね。ケンウッドさんがNPC枠でいいわ」
めっちゃメインキャラで行くねセフィーリアさん。
自分突出型じゃないんだ。
「あら、だって負けるの嫌だもの。しかも他人に足引っ張られるとか最悪ですわ」
なるほど、負けず嫌いなのは知ってたから、確かに彼女らしいと言えばらしいメンバーか。
んじゃよろしく。ミケ、もうちょっとだけ待ってね?
仕方ねぇなぁ。とミケが欠伸をして僕の頭に乗ると、そこで丸まって寝始めた。
あの、重いんだけど?
ミケが寝てしまったので無理矢理振りはらうこともできず、頭を動かせない僕はその場で棒立ちになる他なかった。
セフィーリアさん、早く、早くお金を集めてください。僕の首が限界迎える前に。
あ、なんかこの台詞ヒモっぽい。
そしてしばらく、待っていると、お金を稼いで来たセフィーリアさんたちが戻ってきた。
お金を受け取りミケ用の餌を買う。
好感度アップのアイテムだからかただのイワシなのにめっちゃ高いの。
折角手に入れたお金は直ぐに無くなり再び素寒貧。財布を振ってもゴミしか出てきません。
ミケはイワシを買った瞬間起き上がり、雪の上に置いたとたんに猫まっしぐら。
イワシと戯れる猫をしばし見つめる僕らは残虐な食事シーンの筈なのにほっこりしてしまった。
さて、やることは終わったしそろそろ次の10章行っちゃうか。
流石に氷や雪の街にこれ以上留まりたくないし。寒くなくなったっていっても冷たい物を触れば冷たいんだよ。
なので出来るだけ早く温かい場所に行こうと思います。では10章1話をタップして、皆でジャンプ、行ってみようか。最近この移動ばっかりだよね神様? 実は気に入ってる?
と、いうわけで、10章が始まるらしい王国の手前へと移動。
風雪地帯から一点、緑あふれる草原と目の前にそびえたつ城壁。否、街壁。
入口はかなり厳かな作りの鉄門で、兵士が何人も見張りに立っている。
入国管理も徹底されているようで、かなり長蛇の列が出来ていた。
僕らは律義にこれに並ぶ。
街中で闘いあるのかなっと思ったけどイリス曰く、ここで並んでればいいらしい。
どうなるのか知らないけど、それでイベントが起こるのなら……
「き、貴様は、魔王グレヴィウスリーハッ!!?」
兵士さん達が一斉にやって来て槍を突き出す。
え、我か? と小首を傾げる魔王陛下様、あ、いきなりバトルの予感がします。どうしよう!?