役不足のラスボス
「あ、ダイスケ、あそこに敵性反応」
一番最初に気付いたのはルーカだった。
入口手前の柱の陰に敵性存在、多分ここのラスボスがポップしたらしい。
近づいて行くと、アーッと叫びながらゾンビが一体出現した。
さらに扉が破られ、無数のゾンビが雪崩込んでくる。
ネビロヌさんよろしくっす
さっそくお披露目ネビロヌ先生。
あいわかった。と披露するのはスキル構成にはない特技、そうゾンビを操る能力を駆使して同士打ちさせて行く。
うわーお、折角のゾンビだらけの全員出撃イベントが一気に意味不明なゾンビの乱闘場面に早変わり、ラスボスとして登場したゾンビがおろおろとしている。
なんか、凄い困惑してるぞこのゾンビ。ゾンビらしからぬ動きして……って、待て、なんか見覚えあると思ったらこの人宰相さんじゃねぇか。
宰相ゾンビはなんとか戦闘をしようとしながらも仲間が乱闘してるので何してんの、止めろよ、一緒に生者を襲おうぜ? そんな感じで僕らとゾンビ達の間を行ったり来たりしていらっしゃった。
で、魔王陛下の開幕必殺が突き刺さる。
次々に消えていくゾンビ達。
カミナさんの必殺が追撃として襲いかかる。
光属性の全体攻撃を受け昇天していくゾンビの群れ。
あ、宰相ゾンビが消滅した。
そしてミッションコンプリート。
こんなんでいいのかよ!?
イベントクリアらしく、宰相ゾンビの傍に血清がドロップした。
どうやらこれを打ち込めばゾンビ化を直せるようだ。
一個しか手に入らなかったんだけど、一人しか使えないのかなこの注射器。
「あ、それ何回でも使えるタイプですね」
「え? じゃあ使い回し? なんか別の病気にかかりそうなんだけど?」
「そこは仕様なんじゃない?」
イリスの言葉に驚く僕に、ルーカが呆れた声を出す。
一応運営に問い合わせてみたところ、ルーカ案が採用されているらしい。
誰に打ち込んでも病気にはかからんよ。と言われた。
かからないかもしれないけど生理的に嫌だろ。ゾンビに突き刺した奴だぞ?
ま、まぁナイチンゲルダのアレも同じようなもんだし、仕様で問題無いってことだから、それに僕が使う訳じゃないし、でろっでろになってるゾンビに突き刺さった奴でどう見てもゾンビウイルス付いてるだろって思える状態でも刺したらゾンビ化が治るから大丈夫なんだ。うん、そうだ。そう思おう。
しかし、原因倒したらゾンビ全員元に戻るって状態じゃないのか。そうなると面倒臭いことになるんだけど……あ、そうだ。
そうだよ、僕の仲間に入ったネビロヌならゾンビを集めることが出来るんじゃないか?
彼が操れば攻撃される心配も無いだろうからゾンビ化させられる心配も無い。
とりあえず城内に残っているゾンビを入り口前に集めて貰う。
敵が出ることが無くなったので僕らは安全に元の道を戻る。
正直ゾンビの出ないハザードダンジョンとかどうなんだろうとか思ったりもしたけど、安全ならそれに越したことは無い。
「……って、ゾンビいるし!?」
3階あたりにやってくると、ゾンビが階段前に陣取りあーうー言っていた。
「ふむ。どうやら遠くに居たゾンビはまだこの辺りを歩いているようだ」
「そっか、んじゃ襲ってこないんだろ。ちょっと元に戻して来る」
階段向ってゆったり歩くゾンビ君に注射器を打ち込む。
変化は……なかった。
小首を傾げ、ルーカに抗議の視線を送る。
「うーんどうもこれは元からゾンビだったっぽいね。ゾンビ化を直せるのはゾンビになったキャラみたいだから、この城内にいるゾンビは治らないんじゃない?」
「それも仕様か。でもどうしよう、なんかこの上の方ゾンビが鮨詰め状態なんだけど」
「消してしまって良いのではないか。カミナに任せればよかろ」
ヘスティーナが至極まっとうな意見を告げる。
まぁ、そうだよな。どうせ戻らないゾンビなら一瞬で消滅して貰うか。
んじゃ、カミナさんよろしく。
そういう理由で、地下二階と地下一階の掃除をカミナさんに頼む。
魔法一回唱えるだけの簡単な仕事である。
二回唱えただけで終了し、僕らは再び陽の目を拝むことに成功した。
さぁって、ここで再びネビロヌよろしく。
街中のゾンビを集めることにした。
すると、僕らが直した以外の住民ゾンビが一人、また一人とやってくる。正直気持ち悪い。
ナイチンゲルダ二人とともにゾンビ化を解いて行く。
元に戻った住民は何でこんな所に居るんだ? と口々に告げて去っていく。
なんだろう、このやる瀬なさ。せめてありがとうくらい言ってほしいんだけど。
まぁ、一人でも放置したら蔓延する可能性があるから全員元に戻すけども。あと、城内への入り口はセフィーリアさんにお願いして爆破。ガレキを崩して完全に入口を塞がせて貰った。
ただまぁ、2章エンディングを選ぶといろいろ問題になりそうなので選べなくなったのが痛いな。
最悪第1章選んでみるか。運が良ければあの村から始められると思うし。