でも闘うのは僕らなんだよね
立ち上がったウーラさんとセフィーリアが武器を構える。
兵士や抵抗勢力たちも覚悟を決めてウーラさんと対峙。
しかし、そこまでだ。
セフィーリアさんも動かなくなったメンバーを見て困った顔でこちらを見た。
「あの、そろそろ9話、始めてくださいません? 折角ノリに乗って来ているのに水を差さないでいただきたいのですが」
「え? ここそういう感じ!?」
まさか僕が何かしないと動かないとは。仕方ないなぁ。と僕は9話をタップする。
「ええい、ウーラなど捨ておけ、そこの邪魔な皇国スパイを排除すればウーラなど塵芥も同然だ!」
あっれぇ? なんか会話の辻褄が合わない気がするぞ?
セフィーリアさん倒そうとするならともかくなぜ僕ら?
あ、もしかして、絶望気味のウーラさん助けるのって僕の役目だった?
だから整合性がおかしいんだ。
セフィーリアさんが僕がやること奪っちゃったけど、もともと彼女は僕の味方だ。
つまりプレイヤー側がウーラさんを元気づけたから国王たちはセフィーリア個人じゃなく僕ら皇国から来たスパイ共って認識になったんだな。
普通の人たちならこんなことにならないんだけど、イベントキャラたちだから神様が台詞をある程度決めてるんだと思う。
まぁいい、戦闘メンバーを……あ、今回ウーラさんとセフィーリアが使えない。
別の場所で闘ってる設定になってるんだろう。
んじゃ、魔王陛下、出番です。
適当に選んで戦闘投入。
開幕必殺により全員参加型だったらしい敵戦力が一瞬で消え去った。
消え去った抵抗勢力と兵士たち。闘いにすらならなかったよ可哀想に。
今ので死んだのか、それとも撤退したのかは僕には分からない。でも、残るは帝王と王子、宰相、そしてベロニカだけだ。
「馬鹿な!? あの数を倒した、だと!?」
「フハハハハハ、貴様等雑魚共がどれ程群がろうとこの魔王に敵う訳がなかろうが!」
「ま、魔王だと!? なぜ魔王がここにっ!?」
あ、そこ反応しちゃうんだ?
「フハハハハハ、我が何処に出現しようが我の勝手だろう。貴様等人間の都合など知らんわ」
クァーッハッハッハ。と高笑い浮かべる魔王様。
ちょっと可愛いと思ってしまったのは秘密だ。
なんか背伸びしてた子供が褒められて得意げに胸張ってる感じで可愛いんだ。
女性として可愛いと思う理由じゃなくて、こう、娘が褒められるのを綻んだ顔で見つめる父親の心境というか。
思わず頭撫でてリーハはえらいなーとか言いそうになってしまったよ。
下手にそんなことしたら魔王様に敵認定されかねないからやらないけど。
危うく手がちょっと出そうになってたんだよね。慌てて右手を左手で止めたんだ。
「くぅ、こんなはずでは……ええい、こうなれば仕方あるまい!」
と、立ち上がった帝王。まさか自分から闘いを?
思った瞬間、帝王様がグッと身体に力を入れる。
むくり、ぼこり、彼の身体が脈打ち始め、徐々に肥大化していく。
あー、なんか嫌な予感がするなぁ。
これはちょっと人外さんとの闘いの予感が……
2メートルを越える大男と化した帝王は、おおよそ人間を止めてしまっていた。
「馬鹿な、これは……」
さすがに驚くウーラ。その近くには慌てて逃げたベロニカ。
二人とも絶望的な眼で帝王を見上げていた。
「グハハ、我は魔王四天王が一人、ガルガンラヴォスであるっ」
は? 魔王四天王?
思わずリーハを見る。
リーハさんは困惑していた。
「なにしとるんだガルガンラヴォス? 人間界進出など指令しとらんが?」
あ、一応魔王四天王本人なんだ?
「我等四天王で誰が一番人間共に恐怖を与えられるかを今競っておるのです魔王様。この国は私めが対応しておりましてですね」
恐怖を振りまくように正体を露わした筈のガルガンラヴォス。魔王様が相手だったため平身低頭。上司に窘められている平社員のおっちゃんみたいな感じで頭掻きながら頷いたり頭下げたりしていらっしゃる。
威厳? 魔王四天王としての威厳は既に地に落ちてるといっていいです。
「最近見ないと思ったらお前らそんなことしておったのか」
「いやー、だってやることなくって暇でして。ゲリンデルが暇つぶしにやらない? とか言うものでつい。魔王様もやります?」
「ん、面倒だからパス。今はそんなことよりも面白い物を見付けたのでな」
「そうですか。まぁ見ててくださいや」
「ん? いや、覚悟しろよ」
「え?」
10話、戦闘開始。
魔王四天王VS魔王陛下、戦闘開始ッ。
そう、リーハは相手が魔王四天王だから今回はパス。なんてことはする気なかった。
だからこそ、彼女は遠慮なく必殺の一撃を叩き込む。
そう、魔王様だからこそできる開幕必殺である。
まさか魔王が敵に回ると夢にも思っていなかったガルガンラヴォスが呆然としたまま空を見上げる。
「クハハハハハハハ!! 塵芥どもよ天を見上げ絶望せよ! 我が名はグレヴィウスリーハ! 貴様等を悉く撃ち滅ぼす者である。星屑達乃虐殺!!」
「う、嘘だろぉぉぉぉぉぉ―――――――――っ!!?」
奴は……きっと最弱だったんだよ。ご愁傷さまです。