主人公は遅れて現れる……あの、僕が主人公じゃないの?
絶望に沈むウーラさん、帝王の高笑いが響く。
肩の荷が下りたような顔をしているベロニカたち反抗組織の皆。どうやらウーラさんがいい人過ぎて騙してるのが辛かったようだ。
「ふふ、ただ泳がすだけのつもりだったが、お前の御蔭で裏切り者のマルサだけでなく皇国からのスパイまで炙りだすことに成功した。本当に君はよく役に立ってくれたよウーラ。自分でも知らないうちに彼らを裏切っていた訳だ。自分たちのスパイだらけの抵抗組織に連れて来て信用させるという行為でな」
いや、帝王さんや、僕らは別にウーラさん信頼してた訳じゃないよ。抵抗組織に向ったのもベロニカさんに連れられたからだから、むしろウーラさんよりベロニカさんに裏切られたんだよね。
まぁ、ソレ言ったところで意味は無いんだけどね。
「くくく、はーっはっはっは。所詮貴様の願いなど独りよがりだったということよ」
帝王の言葉すらも聞こえていないウーラさん。
もはや彼には敗北の二文字以外に存在しなかった。
信じた仲間は全て敵。理想が実現すると思った次の瞬間全てを失った彼には、もはや再起することは不可能に近い。
「さぁ、反逆者どもを捕らえよ。皇国の見せしめに断頭台にかけてや……」
帝王が告げたその瞬間、城を盛大に揺らす爆音が響いた。
「な、なんだ!?」
連続して各所から爆発音が響きだす。
振動する謁見の間で、ウーラさん以外が動揺を見せる。そこへ……
ドグァッっと爆音響かせ天井が吹き飛ぶ。
差し込む日差しに影が差し、ロープ一本でターザンよろしく僕らの元へと落下して来る一人の女。否、その脇には妖精のような小柄な少女、ルーカが抱えられ、そのルーカを抱える細腕が持つのは小型のマシンガン、否、否、否ッ、それはマシンガンと言っていいのだろうか?
通常のマシンガンの半分くらいの銃身。平たいフォルムに片手用の引き金。
僕は見たことないんだけど、そんな黒塗りの銃をタタタタタタと打ちながら迫ってくる。
あ、タダシさんの頭に風穴開いた。
僕は即座にヘスティカーナの背後に隠れる。
シークレットも同じ考えだったようで、二人してヘスティカーナの背後に入り顔を見合わせ照れ合う。
同じ考えでしたね。と同意し合う二人を見て、ヘスティカーナが複雑な顔をしていた。
「何、ヘスティカーナ?」
「我の後ろでイチャつくでないわバカップルど……ぎゃああああ!?」
あ、ヘスティカーナが打たれまくっとる。
床近くまで来ると、通り過ぎて直ぐくらいにロープから手を放した女がすたっと華麗に着地する。
セフィーリア様のご登場だ。
「こ、恐かった。滅茶苦茶怖かったよぉダイスケぇぇぇ」
そしてセフィーリアから解放されたルーカが僕の元へ泣きついて来た。
放置されたことよりもセフィーリアと二人きりだったことに恐怖を覚えて僕に泣きついて来たようだ。
「随分と萎れていますのね」
「……あなたは?」
力無く項垂れていたウーラさんに声を掛けたセフィーリア。ウーラさんが絶望した顔のまま顔を上げる。
「己の信じた相手が裏切り、周囲全てが敵に回った……だから、何? その程度で折れる程度の理想なのですか? 貴方が立ち上がった理由は?」
「それは……」
「譲れない思いがあるのでしょうッ。だったら、例え一人になろうとも、世界全てを敵にしようとも、立ち向かうしかないでしょうッ!! 絶望してる暇は無い、そんな時間すら誰も待ってくれない。嘆いている暇があるなら剣を取れ、槍を取れ、銃を取れッ!!」
なんだろう、凄く、重みがあるというか。
あ、そうか、セフィーリアさんの世界じゃ自分以外全員敵で殺さなきゃ殺されるから実体験じゃん。
しかも敵の総大将神様だし。
「その無駄に膨れた身体は何のためにあるッ、命を賭して自分のエゴを押しとおす物でしょうッ。それにッ、それに……貴方は、一人きりではないでしょう?」
カシャン、手にしていた銃をウーラさんの前へと投げるセフィーリア。
「貴方が抗わずして誰が抗うのですか。例え自分だけでも、目の前の敵全てを消し飛ばせば、己の理想を掲げられるじゃないですか」
そう告げて、今まで見せたことのないくらいのさわやかな笑みを見せるセフィーリア。
「ここに居ます……貴方の思いを成し遂げる仲間は、今、ここに居ます。なのに貴方は、武器を取らないのですか?」
「う、うぅ……おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッ!!」
ウーラさんは震えた。震えながら目の前に差し出された銃を取る。
自身の危機に駆け付けた、たった一人の味方の言葉に、彼は絶望を吹き飛ばしたのだ。
なんか……マンガとかだとヒロインとヒーローの役割っぽいよね。
……あれ? おかしいな。この世界のプレイヤー、僕なんだけど。セフィーリアさん、コラボガチャのコピーでしかない筈なんだけど?
あれぇ? 主役って、なんだっけ?