赤子の向う先
あ――――。
赤ちゃんがハイハイして進んでいく。
ベビー服を着たまま地面を這いまわり、ただただ薄暗い路地裏を進んでいく。
可愛いと言えばいいのか恐怖を覚えればいいのか。
赤ちゃん自体は普通の赤子にしか見えないのだが、行う行動が突飛過ぎる。
赤ちゃんなのに国内一周でもするつもりなのだろうか?
路地を進む先に眼が逝っちゃってる感じのお兄さんがぼーっと佇んでいたが、赤ちゃんはその隣をゆっくりとハイハイ。
二人は邂逅しながらも全く無関心で交差してしまった。
双方口からは「あ――――」と声が漏れていてちょっと怖かった。
サシャが邪魔だよ。と二人で男を蹴り倒す。
壁面にゴスッと顔を打ってたけど大丈夫だろうか?
なんかもう絵面的にゾンビみたいになってるぞ?
赤ちゃんはさらにすすんで黒く濁った水溜まりに侵入。
全身を泥に塗れさせながら楽しげに進んでいく。
珍しくセフィーリアさんが両手を出して抱えあげるべきかと戸惑ってあわあわしていたが、赤ちゃんはそんなこと気にせずハイハイしながら水溜まりを突破。
あわあわしてるセフィーリアさんは無駄に可愛らしかった。
本人に告げたら射殺されそうだから黙っとくけど。
それにしても、赤ちゃんは何処まで突き進むんだろう?
「あ、ダイスケさん、この先袋小路ですよ!」
いち早く気付いたのはシークレット。
ということはここで赤ちゃんの旅は終わりかな?
まさか壁に向って突き進んで無限ループだったりしな……馬鹿なッ!?
一番奥の壁までやってきた赤ちゃん。どうするのかと見ていた僕らの前で、彼は垂直に壁を登っていく。
もちろん、ハイハイしながらだ。
え? ちょ、待って? 壁? え? 壁を赤ちゃんが登ってる?
「だぁー」
だぁー。じゃないっ!! なんだこれ!? これはさすがに仕様とか言える段階じゃないぞ!?
まさかロッククライマーの前世を持つ赤ちゃんか? あるいはムキムキマッスルベイビーとか!?
思わず駆け寄り赤ちゃんが登っていた壁を調べる。
バグで壁じゃなくて道になってる、って訳じゃないな。
やっぱり赤ちゃんに問題ありか。
「ナルタ、確か飛べたよな」
「はい、可能でしたマスター」
言葉使いやっぱりおかしいよナルタさん。まぁいい。んじゃ、頼む。
「あの赤ちゃんを上から追ってくれ。僕らは遠周りして来る」
「了解しました。空より監視されます」
バーニア吹かして空へと舞い上がっていくナルタ。
誰かついでに付いて行かせれば良かったかなと思ったけど後の祭りである。
僕らは路地裏を後にしてイリス指示の元先回りするために移動する。
思えばルーカ浮いてるんだから偵察いかせりゃ良かったな。
そうだ、ルーカは僕らの上空から赤ちゃんの居場所を教えて貰おう。
と、言う訳でルーカにお願いして空から赤ちゃんの居場所とナルタの居場所を教えて貰いながら先回りを行う。
すると、丁度壁を垂直に下りてくる赤ちゃんと遭遇した。
建物の屋上からハイハイしながら壁を伝って下りてくる赤ちゃん。うん、恐怖しかありません。
「つか、恐っ」
「アレはヤバいでしょ」
「我の身体であればあの行動も出来なくはないが……」
蛇腹だもんな。いや、出来ることに驚きだよヘスティカーナ。
間違っても僕の前でやらないでね。もしやったらセフィーリアさん近づけるからなっ。
さて、赤ちゃんは、といえば、無事に地面に降りてさらにハイハイ。
そして大通りへと戻っていくと、直角に折れ曲がって大通りを真っ直ぐに歩く。
これは、ループ行動かな?
そう思っていると、なんと井戸端会議中の奥さんの方へと向いだす。
その近くには木製の乳母車。
器用に登って自ら乳母車に収まった。
すると、井戸端会議中だった奥さんたちの会話が一段落。
「いい子にしてた? そろそろ帰りましょうか?」
そして赤ちゃんが大冒険にでていたことなど全く気づいてない奥さんは、乳母車を押しながら話し相手に別れを告げて去っていった。
すげぇな。井戸端会議で暇だった赤ちゃんが散歩に出かけたことに気付いてないとか。
そして自力で壁登ってここに戻ってくるタフ過ぎる赤ちゃん。
この国、やべぇや。
「バグなのか仕様なのか判断しづらいな」
「多分駄女神仕様なんじゃない?」
「ルーカの案採用しとこう。他には何かないかな?」
グルって見て回ると、大通りの一角に一際ヤバいのがいらっしゃった。
物凄いムキムキでブーメランパンツ一丁と靴しか穿いてないおっさんが居る。
ワカメのようなロングヘアで茶色のおっさんは、大通りの中央で仁王立ちしている。
「あれって、見たことあるな」
「既に手に入れてるキャラね。狂人エイドリー」
「うん、狂人過ぎるね。関わり合いにはならないようにしたいです」
たぶん、無理だろうなぁ。




