駄女神がやらかした弊害
「誰……だと?」
ぴくり、こめかみをピク付かせる皇帝陛下。
宰相も怪訝な顔をしている。
どういうことだ?
「パルマ、どういうこと?」
「わ、わかりません、ただ、父とは別人にしか見えなくて……宰相さんも違うし」
「な、何を言うのですか皇女! あなたの父親に対して何たる無礼ッ」
「違……お父さんじゃない。どうして? なんで?」
困惑するパルマ、父じゃないと言われてショックを受ける皇帝。皇帝を侮辱されて激昂する宰相。
もはや収集付かなくなりそうな謁見の場に、二人の男が現れる。
「おうパルマ。帰って来たんだってぇ?」
「やぁパルマ。また会えて嬉しいよ」
二人の皇子だ。
その顔を見たパルマは絶望した顔で二人から距離を取ろうとする。
しかし、あまりにも衝撃的だったのだろう、腰を抜かし、へっぴり腰でサボに抱きついた。
「パルマ?」
「違う、お兄さんたちじゃない。なんで、なんで見知らぬ人たちが親兄弟になってるの? 怖い、恐いよサボ……」
「パルマ……ダイスケ、どういうことだ? 彼女の記憶がおかしいのか? それとも皇城の住民がおかしいのか、分かるか?」
「いや、僕に聞かれて……待てよ、皇城の住民がおかしい?」
その言葉を聞いた僕の脳裏で、繋がっちゃいけないニューロン同士が手を結んだ。
例えば、の話である。
例えば、駄女神が皇城内部を全て消し去った。
それを神様は必死に直した。うろ覚えの所を適当に補間して、イベント作って前と同じような状態にしたとして、それが本当に消え去った皇城と瓜二つだったか? という気付きたくない疑問である。
「皇帝様、宰相様、あとお兄さん方も、ちょっとだけ、待ってください」
震える手で、僕は神様にメールする。
ただの仕様であってくれ。別人に入れ変わっていてその謎を解いて行く仕様だと言ってくれ。
そして地下牢に囚われた本当の皇帝たちとパルマが再会してのハッピーエンドだと言ってくれ。
断じて……断じてっ!
新しく作った王城内部の王様たちの顔が思い出せなかったから適当に作り直した。だからパルマの知っている父や兄じゃなかったというオチだけは止めてやってくれ。それこそ本当の絶望皇女になってしまうからっ。
生まれてからずっと過ごして来た父や兄たちの姿が人生の途中で唐突に変化したというトラウマを彼女に植え付けるのだけは、あまりにも可哀想だから止めてくれッ。
―― あ、それ城内作り直した時に覚えてなかったから新しく作ったけど本人だから ――
「神ェ――――――――――――――――――ッ!!!!」
僕は慟哭した。
世界中に届けという程の怒りを迸らせた。
この世界はクソだよ。こんなのクソゲーだよ。
酷過ぎる仕打ちだよ。
パルマが一体何をしたってんだ!?
「突然絶叫して頭大丈夫ですか?」
嘆く僕を見たセフィーリアさんが汚物を見るような眼で僕を見ていた。
違、違うんだ。気違いさんじゃないんだよ!?
待って、引かないで、違うの、僕はパルマの境遇に嘆いて、あ、シークレット、そんな痛い人見るような眼で見ないで、イリス、理由分かってるだろ、そんな生温かい眼で僕を見ないでっ。
「あー、その、結論から言うとね、パルマ」
「わ、私? な、何?」
気を取り直してパルマに真実を告げることにした。
告げたくはないけど告げないことにはパルマがおかしくなったように家族に取られかねないしな。
「ここに居る皇帝陛下、それとお兄さんは君の本当の家族で合ってる」
「え? で、でもっ」
「哀しい、事件があったんだ。駄女神により元の皇帝たちは逝ったんだ。神様が新しく創った皇城での彼らの容姿は覚えられて無かったんだ」
「そ、それじゃ……」
「容姿は変わってる。でも君の父親である皇帝も、兄二人も、宰相も、君の知っている人物だ。容姿だけが変わってるけど……な」
絶望するパルマ。今までの記憶にある家族と今の家族の整合が付かないのだろう。
サボも流石にこれはない、とパルマを抱きしめ一緒に涙を流していた。
「やっぱり神を名乗る存在は一度殺した方が良さそうですね」
「セフィーリアさん、貴女の抹消リストに駄女神マロンも入れといてください」
「マロン……ね。ええ、地の果て越えてでも必ず殺してやるわ」
なんと頼もしい。
皇帝たちも神による奇跡か何かだと理解したようで、そうか、自分の容姿変わっちゃってたのか、と困惑しながらもパルマの奇行に納得していた。
自分を拒絶した訳ではなく、神によりいつの間にか容姿を変えられていた自分に戸惑っていただけだと理解してくれたようだ。
といっても、新しく創り直した訳だから別人と言われてもいいっちゃいいんだけど。
本当のパルマの家族は、駄女神により一瞬で葬り去られたのだ。
あの人、最初は頼りになる人かと思ったけどマジ駄女神だな。