何故、あなたは生きてるの?
さて、短編ということで若干駆け足気味ではありますが、ある程度はまとまっていると思います。それで、お願いなのですがこの小説を読んでくださった方々に評価もしくは感想をお願いしたいと思います。どこがよかった!などという簡単なものでもかまいませんのでお願いしたいと思います。連載して欲しいとなれば喜んでさせてもらいますのでどうかお願いしたいと思います。それではどうぞ、まだまだ文章力に問題はありますが、お楽しみ下さい。
『何故、あなたは生きてるの?』
〜プロローグ〜
殺風景な渓谷………近隣の町や村はすべて荒廃しており、住んでいるのは盗賊、テロリストなどなど……隠れ家の数は非常に多く、普通の人はまずやってこない。
しかし、ある日この地に五人の人間がやってきた。その五人がやったことといえば、ただその町や村を通過しただけ………無論、そこにいた盗賊たちはその五人の荷物を奪うために襲い掛かった。だが三十人以上いた盗賊たちはその五人が通った後すべて息絶えてしまっていた。
そして、その五人が向かった先にあったのが殺風景な渓谷………クマでもすんでいそうな洞窟に五人のうちの一人が手を触れ、なにやら言葉をつむぐ。すると、これまでたんなる洞窟だったものが………神々しい真の姿を現した。五人は静かにその洞窟の中に滑り込むようにして入り込む………
彼らが入って五分、その洞窟内には人々の叫び声、銃を乱射する音などが聞こえるようになった。
「侵入者だ!神をお守りしろ!」
「こちらDブロック!駄目です!最終防衛ラインを突破……うわぁぁ……!!」
「ちっ……ここも壊滅か……一体、世界をどうしようというんだ!?」
警報が鳴り響き、区切られた場所は赤い光が緊急事態をずっと教えてくれていた………この場所を守っていた人物たちは今では殆どが自らの血の海に沈んでいる。
現に、この場所で生きているのはもはや片手で事足りるほどの人員なのだ………
ズドン!!
と、先ほどまで報告を受けていた人物もこの銃声を機に命を失ってしまう………これで一人さらにこの場所で生きている人間の数が減ってしまう。
「昔は崇拝されていた神様ももはや人にとって必要なくなった………いまや人の技術力は飛躍的に伸びたのだ……ならば、神をも超えてしまった技術力を持っているものこそが新たなる秩序の元に作られる世界の神となるのは当然だろう?」
倒れた男を踏みこえ、そんなことを口走る一人の男………この男はたった五人という少数でこれまで全世界の軍事力を結集しても破ることが出来なかった聖域を荒らした一人である。
「世界は生まれ変わる、我らの手で………」
男は再び一歩を踏み出し、仲間の下へ走り去ったのであった。
その日、これまで全世界の人たちが信じる、信じないを別にして、これまで世界を見続けていた神様は消えてしまった………そして、全世界は五大国に分かれ、巨大な権力争い、世界を手に入れるためのゲームが始まったのだった。
『何故、あなたは生きてるの?』
〜本編〜
人間、何故生きているのだろうか?俺はそれが不思議で不思議でならない……。
世界は五つに分かれ、人は未だに争っている。
争いのない世界などというものは本当に夢うつろの世界だったのかもしれないとそのニュースをこの前聞いて実感した。
神をしとめたいま、神はこの世界に五人おり、その五人の勢力範囲内ではそれぞれの世界が形成されており、その中ではこれまで正しかったことが正しくなくなっていた………例えば、重力のせいで落ちてしまう水が、家をつくることができたり、命なんてないはずの人形が荒廃した町をうろついていたりと………めちゃくちゃであった。
俺が住んでいるこの場所はまだそういった現象が来ていないようだし、調べようにも世界の通信機器は確実にお釈迦となっている。
この国のことなら知ることが出来るのだが他の五大国と呼ばれている場所のことを知ることが出来ないのだ。
それもまたその五大国に君臨している一番上の者がしたものなのか、はたまた消えてしまったといわれているこの世界の本当の神様が残した最後の抵抗なのかもしれないと噂されていたりもするのだが………今の俺にはどうでもいいことだった。
それより眠いのだ、俺は。そんな根暗なことを考えている間だって眠ればすっきりめっきりシャッキーンとなって暗いこの気持ちを払拭させ、青春まっさかりな日々を過ごせるに違いないのに何故、俺はこんなに暗いことを考えているのだ?こんなことを考えていてはモテナイ男になってしまう!あ〜ヤダヤダ。
四月八日の朝、まだ数学の太目の教師がやってこない………いまではいつものことなのだが、その間俺は眠気に襲われる。そんなことしょっちゅうかもしれないのだが、俺としてはとても大事なことであり、生徒会長が同じクラスにいようと、このクラスの学級委員長が俺に注意しようとしてもこればっかりはやめることが出来ない………というのも、昨夜はずっと起きていたからだ。つまり、徹夜。
「………ぐぅ」
クラスの喧騒が聞こえてくる中で俺は徐々にこのリアルの世界から脱出し、他の誰もが侵入できないであろう、俺だけの世界………夢の世界へとえっちらおっちら船を漕ぎ出していたのである。いや、既にあちらの世界にいくことが出来たのであろう、目の前には後姿の美少女がいる。場所は何もないただの黒い世界。
髪は金髪、黒いワンピースのような服にカチューシャをつけている。
その少女がこちらを振り向く。予想を裏切らない美貌をもち、目は真っ青で引き込まれそうなカリスマ性も持っていると俺はこの時点で痛感した。一度人を引き寄せたらその魅惑的な瞳でそれこそ全世界の男どもをどこにでも連れ去ることが可能に違いない。
『何故、あなたは生きてるの?』
にこりと微笑み、それだけの言葉を俺へと残す。
「それは……」
答えることが出来ない。どんな人間でさえ、最後は死んでしまうのだ………いつ死ぬか、という違いぐらいなのだと俺は思う。
『それなら、私と一緒に地獄に来ない?』
とても魅力的な提案である。こんな美少女を彼女にもてたら俺はそれこそ地獄に落ちてもかまわないだろう………まぁ、日ごろの行いが若干悪い俺が普通に生きて死んだところでいくところは地獄だろうが………。
俺は差し出された白く透き通るような手をじっと眺め、ちょっとの間だけ悩んだ。
どうせ、このまま生きていてもいいことはない………そんな気持ちが俺の心を一挙に支配していく………。
俺はその手を握り締めようと手を差し伸べ………
『ストップ!本当にいいの?』
「え?」
後ろからそんな声が聞こえてくる………俺は目の前の少女の手を握ることなくそのまま後ろを見ることとなった。
「………?」
後ろにいるのは白いワンピースにカチューシャ……先ほど俺に手を差し伸べてきた少女の白バージョンだった。
『あなたは誰かと約束をしたんじゃない?』
「約束?」
いつ………したのだろうか?俺は悩み、考えた。
『よくよく考えてみて、あの子の手を握ることはそれこそ、夢の世界だけでなく現実の世界でも出来ると思うの。だから、今あなたがあの子の手を握ることはないと思うの』
手段はわからないのだが現実世界でも………つまり、起きている場合でも俺は黒いワンピースの女の子の手を握ろうと思えば握ることが出来るのだろう………どういうことだろうか?
『そうはさせないわ』
後ろを振り返れば先ほどの黒いワンピースの女の子が自ら俺の左手を掴んでいた。
「!?」
俺は左手から何か黒くてどろどろしたような感じが徐々に体に近づいてきているの悟ったのだが、何故かその手を離すことは出来ない。
『強引ね、そんなにこの子のことが気に入ったの?』
そして、それに抵抗するかのように白いワンピースの子が俺の右手を握る。握ってくれることによって左手から迫ってきていた黒い何かは徐々に後退していっていた。
『ええ、気に入ったわ。心の闇を抱えながら、その闇には堕ちない。素晴らしいじゃない?私の闇に落ちるかどうか試してみたいのよ』
両手に花のこの状況………だが、実際は本当に命を………多分、俺の命をかけているのだろう。
『死神にしては強引じゃない?いつもだったら死期を越えたものしか連れて行かないでしょう?』
『まぁね、でもお気に入りだからお手つきだってするのよ』
こんな美少女に言われてめちゃくちゃ嬉しいんだが………その、ねぇ、夢とはいえ、自分の命をかけているのだ。
『こうやって無意識的な夢の世界でしか姿を現せない死神が何故、この子を狙うの?』
『ふふ、あなたは知らないでしょうけど………もう少しで私、この世界とはおさらばするのよ。この子達のいる現実世界にいけるのよ?すごいことじゃない?』
『!?』
『あらあら、忘れているのはどっちなのかしら?私たちは一心同体のはずよ?』
よくわからないが話はどんどんと進んでいっているのだろう………俺にはよくわからないことだが。
「…………!………!」
「?」
俺の耳に名前を呼んでいるような声が聞こえてくる。両手引っ付いている二人のことなどかまっていられない状況になってきたようだ。つまり、数学教師がやってきたということなのだろう。
俺の意識はそのまますうっっと……浮上していったのが目覚めの合図だった。
「あ〜この教室にシグマ・T・ローレンっているでしょ?いたら手をあげて、時間がもったいないから」
しーんとなっている俺のクラスの連中。そして、ドアのところには見たこともない女性が立っていた。
「あの、どなたでしょうか?」
このクラスにいる絵に書いたようなまじめな性格の生徒会長がクラス全員の意見を反映してその女性にたずねる。
「ん?あ〜そかそか、皆はまだ知らないのか………あたしのことを知らない奴は手をあげて地面に伏せる」
「何故?」
生徒会長は相手がスーツ姿の目の前の女性を不審人物であるということを認めつつある………そして、次の瞬間には彼女は不審人物どころか………
ズドン!!
「は〜い、がっちがちの生徒会長だかクラス委員長がしゃしゃり出てこなくて結構結構ってね………おとなしくそこで座ってて。弾と時間が勿体無いから」
その右腕に握られていた拳銃からは煙が少しのぼっており、生徒会長の顔のすぐ左を通過したであろう弾丸は見事に教室後ろの壁にめり込んでいた。
教室中か静かになり、全員が全員、目の前の女性が誰にしろ本気であるということを悟った。いわれたとおりに手をあげて地面に伏せた………生徒会長はそのまま椅子に座り、動かなくなる。弾があたっていないので死んでいないと思われるが、きっと頭の中が混乱しているだけなのだろう。
「おっと、そこのクラスのアイドルっぽい子………シグマ・T・ローレンってどいつ?」
「あ、あ、え、えーっと………」
申し訳なさそうな顔をしてこちらへと顔を向ける。俺はぎょっとなりながらもゆっくりと視線を向けてきた相手の顔を正面から見る。
綺麗な女性だ。
「おっと、お姉さんのすばらしいお顔に見とれるのは嬉しいんだけど……いつでも見れるようになるからおとなしくこっちに来なさい………変な気はおこさないでね?何もとって喰おうとはしないから」
にやりと微笑む女性に俺の第六感が何かを感じ取る………足が動かない。
ズドン!
「さっさと来る!この子の顔に傷をつけるよ?」
にこやかにそういい、女の子は悲鳴を一度だけ上げるが女性に睨まれて静かになった。
「わ、わかった」
もはや抵抗することがどれだけ無駄で愚かな事か俺は悟り、おとなしく動くようになった足を動かして一番後ろの席から教団へと移動する………途中、夢の中のように誰かが俺のことを止めてくれるようなことはなかった。
「ん、よろしい………さって、あんたたちの数学を受け持っている田中先生はちょっとばかり縄プレイで縛ってあるから………適当に助けに行ってあげてね♪特別講師のゲリラ授業これにて終了。また来て欲しいときは呼んでね?」
誰も絶対に呼ぶことはないだろう………俺はそう思いながら、そのまま教壇に残されるのかと思ったのだが………
「ほら、あんたはこっち………妙な真似すれば………」
再び『ズドン』という音が聞こえてくる。
「あんな風になるからね?」
携帯で助けを呼ぼうとしていたのか、はたまた時間を確認しようとしていただけなのか知らないがとりあえずクラスメートの一人の携帯に弾丸がのめりこんでいた。
「………」
「ま、暴れられても困るから………」
女性はスタンガンを取り出すとそれを俺の首筋に押し当てた。
「念のため………ね」
―――――――
目が覚め、意識が戻ってくると自分があんまり広くない部屋にいることがわかった。一瞬だけ何故、こんなところにいるのだろうか………という考えが頭をめぐったのだが教室であったことを鮮明に思い出すと自分が融解されたのだと言う事実に結びついた。
「誘拐………」
まさか誘拐されるとは思ってもみなかった。俺の家は別に金持ちでもなんでもないからきっと金銭目的の誘拐ではないだろう。それならば、なぜだろうか?考えても理解できないし、犯罪行為をするような連中のことなんて考えるだけ難しいことに違いない。俺は考えることをあっさりとやめると逃げるために部屋を静かに出た。
部屋を出ると約八メートルぐらいだろうか?その先にはアパートの出口が見えた。途中のところには風呂場に向かう脱衣所と廊下をはさんでもう一つの部屋に行くための扉が見えた。
脱衣所のほうからはシャワーの音が聞こえてきており、間違いなく先ほどの女性が今シャワーを使用しているのだろう。今が平時でなんでもなかったら俺は間違いなく除きにいっていたかもしれない。だが、今はそれどころではない。
俺はまっすぐ入り口へと向かってしのび足で向かい、玄関の扉を開けようとするのだが………
「………あれ?」
ノブをひねっても開かないのだ。こちら側に鍵はあるし、あせるあまり鍵がかかったままでノブをひねっていたというわけでもない。それに元から鍵はかかっていなかった。
「くそ!どうなってんだよ?」
ガチャガチャとノブをひねるだけの音が響き、俺のあせりは段々と大きくなっていく。
「新聞ならもうとってるわよ〜?」
「!?」
脱衣所のほうから音が聞こえてくる………どうやらあの女性の耳に玄関を出ようとしている俺の音が新聞の勧誘に来た人だと受け取られたらしい………凄絶な勘違いだ。
音を立てるのやめて息を潜める。
「………あら?帰ったのかしら………」
シャワー室からは再びシャワーが水を流す音が聞こえてきて、俺は安堵の息を漏らす。そして別の脱出ルートを探すために来た道を戻ろうとして……
ガタンッ!!
「っ!?」
左右に立てかけられていた変な棒のようなものを倒してしまった。すぐ近くから再び女性の声が聞こえてくる。
「時間差攻撃?やってくれるじゃないの………わかったわよ!いけばいいんでしょ、行けば!ちょっとまって!せめてタオル巻くから」
脱衣所に女性の顔がちらりと見えたのを確認すると俺は慌ててその反対側にあった部屋へと静かに滑り込み………女性が通り過ぎるのを背にした扉から伝わってくる静かな足音の振動で感じ取った。
「?」
女性が不思議がっているような雰囲気が壁越しに伝わってきたのかどうかはわからないが彼女は今頃不思議に思っているはずだ。
「空耳……かしら?」
「………ふぅ」
シャワーへと戻ったのを確認し、一難去った俺は改めて部屋を探すことにした。
「?」
その部屋はとりあえず暗くて、電気をつけたほうがよさそうだった。だが、何がいるかわからないのだが、電気は危険かもしれない。
一か八かで電気のスイッチを手探りで探し出し………俺はそれを見つけ出してONを押そうとした。
「はい、ストップ」
「!?」
後頭部に何か筒のようなものが押し当てられる。俺の動きはそこで完璧に止まっていた。
「扉を開けられたのに気がついていないなんて不意打ち喰らったらどうするの?」
今まさに不意打ちを喰らう寸前まで来ている。これはもう絶体絶命なのだ。
「この部屋には立ち入っちゃ駄目。わかった?わかったら右手を上げてね」
素直に右手を上げる俺に後ろの女性は銃を下ろしてくれたようだった。
「物分りがよくてよろしい。話をしてあげるからあんたが始めて目を覚ました部屋で待ってて。今、あたし素っ裸なのよ」
着替えてくるわと彼女は言い残し、後ろから人の気配が消える。俺は脱衣所を見ないようにして先ほどの部屋へと戻ったのだった。
部屋には殺風景な光景が広がっている。古いテレビ、台所に小さめの冷蔵庫。カーテンは一応あるのだがところどころ破れていてあまり役に立ちそうになかった。
「お待たせ」
後ろから声が聞こえ、そちらのほうを見るとスーツ姿ではなくスーツ姿であった。何故かその手にはラップの芯が握られていたりする。
「はい、さっきあんたに押し当ててた銃の正体」
「………」
「人間ってさ、こんな風にすぐに騙されるの」
いっていることは非常に正しいだろう。つまり、さっき俺は電気をつけても別に死ななかったというわけである。
「っと、無駄なことをしている場合じゃなかった………あのさ、シグマの両親の職業言ってみて」
彼女はテレビをつけながらそんなことを聞いてきた。
「俺の?」
「うん、そう………お、映ってる映ってる」
テレビには俺の学校が映っており、一人が行方不明となったと表示されていた。
「えっと………サラリーマンとどこかのパートじゃなかったっけ………」
「ふんふん、息子にもそんなこと言ってたのか………あのさ、あんたの両親はそれはもう偉大な悪の科学者でね〜……人型のやばいもん作ったんだよ」
突拍子もない言葉に俺は言葉も出ない。
「あ、その顔は信じてないって顔してるな〜?うんうん、何も知らないガキはこれだからな〜……とりあえず、あんたの両親はやべ〜もん作ってそれが手に負えないと知られただろうから今頃息子置いて高飛びしたかどっかの研究所に拉致られたに違いないね。嘘だとおもうならケータイで確認してみなよ………あ、そういやばれないようにもってきてない……か」
一人でぶつぶつと彼女はそういうと黙り込んでいる俺を見て言った。
「シグマ、あんたさ、死相が出てるね」
「……死相?」
思わず聞き返す。
「ああ、こんな職業していると死ぬ人間の顔見るといっぱつでわかるんだ。死神がついてるって感じなんだけど………」
ピンポーン♪
「すみませ〜ん、新聞どうですか〜?」
「おっと、無駄話していたからもう来ちゃったか……」
彼女はそういうと俺に立ち上がるように指示した。当然、俺は動かない。すると女性は俺と目線を合わせてしゃべり始めた。
「………無理やり連れてきたのは謝る。だけどこのままあんたを見殺しにするわけにはいかないんだ。ほら、みてみ……この国じゃあんたをどうしても捕まえてどうにかしたいらしい」
テレビのアナウンサーは無慈悲に俺に告げた。
『………先ほど入ってきた情報ですが、連れさらわれたと思われていた少年はこの国の転覆を狙っている武装グループの幹部であったようです』
「………」
「まったく、もうちょっとましなでっちあげ方法がなかったのかしらね〜」
どうでもよさげにそう言っている間もピンポ〜ンという音は絶え間なく、徐々に早くなってきている。今はもう『すみませ〜ん!』という音など聞こえてこない。
笑える状況だ、いや、マジで。これがドッキリなら手の込みすぎた悪戯だ。笑う以外にないだろう。
未だに動かない俺にどう思ったのか女性は立ち上がって真剣な声で俺に伝える。
「………シグマ・T・ローレン。今あなたはとても重要な場面に立っており………死神の手を握るか、生きるために生神の手を握るのか………」
その質問はどこかでされた気がする。そう、ここに来る前見た夢だ。
俺は当然、生きる道を選んだ。何故、こんなことが起こっているのか、それを知ってから死んでも間違いではないはずだ。
そのとき、どがん!という音が耳に聞こえてきた。
「タイムオーバー……ね」
俺の手を掴み、隣の部屋に入る。女性は扉に鍵をかけると電気をすぐにつける。先ほどの部屋に人がなだれ込んでくるのが手に取るようにわかる。
「これでも時間稼ぎしか出来なさそうね……早くどうにかしないと」
「え?」
そこには静かに眠っている………夢の中に出てきた少女によく似た人物が鎖で縛られていた。青いワンピースを着ている。
「さっさと解いて、あんたがしっかりしないとこの子、動かないわよ」
「動くって………機械なんですか?」
鎖を解くのを手伝い、女性に尋ねる。
「いいや、違う。そんな安っぽいものなんかじゃないと思うわよ〜」
鎖は完璧にはずされ、その瞬間に前に少女は倒れそうになり………
「あいたたた……ティルムさん、もうちょっと優しくといてもらえるとありがたいんですけど………」
「文句言わない、ほら、きちんといわれたシグマ・T・ローレンを連れてきたわよ」
「え?本当ですか?」
俺に気づき、がばっと立ち上がるとしげしげと眺める。
「ふんふん、本物ですね………で、私は何をすればいいんですか、シグマさん?」
「は………って、俺はどうすればいいんですか?」
たずねられた俺は当然のようにやるべきことなどわからない。近くに立っていた女性にたずねることとなる。
「このままじゃあたしたちは殺されるわ」
「………」
「というわけで、ルーチェに吹き飛ばしてもらって」
「誰を?」
扉が遂に壊され、銃を構えた特殊部隊みたいなのが入ってきた。
「あいつらを」
「お、お願い!急いでどうにかして!」
躊躇なく、俺の口からはそんな声が発せられていた。そして、少女は指をぱちんと鳴らし………見ることのできないほどの光が部屋を覆った。
「………あれ?」
目を開けるとそこにはもう誰もおらず、たっているのは俺ら三人だけとなっていた。
「ふぅ、静かになったわね………どうせすぐに増援が来るわ……この国を潰してもいいけど、有名人になってサインを求められすぎても困るから逃げるわよ」
こっちよといわれるままに俺たちはついていったのだった。
―――――
連れてこられたのは近くの公園だった。
「自己紹介がまだだったわね、あたしの名前はティルム・ソルタ。で、さっきあたしらを助けてくれたこれが………」
「ルーチェ・ゼロオーです、よろしくお願いしますシグマさん」
「はぁ、どうも………」
頭を下げ、丁寧に自己紹介してくれたルーチェさんに俺も頭を下げる。
「あの、それよりこんなところにいても大丈夫なんですか?」
俺はティルムさんに尋ねた。ここは四方から公園内を確認することが出来るのだ。それに、先ほどのアパートからは目と鼻の先だ。増援とやらが来たらすぐにばれて逃げ場を失ってしまうのではないだろうか?
「大丈夫大丈夫」
どこから大量に手に入れた自信なのか知らないが、本当に大丈夫そうだった。きっと、彼女の頭の中にはダース単位でしか数えることが出来ない数の自信が安置されているに違いない。
「それより、シグマ、あんたにこれからするべきことを教えておくわ」
「するべきこと?って、ルーチェさんが倒れているんですけど……」
気がつけばルーチェさんは動いておらず、ティルムさんにもたれかかっていた。
「もう稼働時間を過ぎてしまったからでしょうね………このルーチェはいまだ不完全体なのよ……半身を取り戻さない限り、まともにやり合えないわ……連合軍なんてこられたらさすがに死んじゃうわね………だから、今から三日以内にどうしてもルーチェを完全体にしないといけないの」
わかったかしら?といわれたのだが、どうやってやるのだろうか?
不思議そうな顔をした俺に気がついたのかティルムさんは一つ咳をするといった。
「………人間は誰しもが心を持っています。完全なる善など人間には存在せず、孤独な人間なんて存在しません……そう思っているのは自分だけで、世界の一部分に絶対に組み込まれているのです」
「はぁ?」
よくわからない。
「ここにあるのは確かにルーチェの体です。ですが、この体には心は入っていません」
「?」
つまり、心がないから不完全だといいたいのだろう。だが、それならどうしたらいいのだろうか?
「はい、ここに取り出したのはシグマ君を気絶させたスタンガン〜これでもう一度シグマ君を昏倒させます♪ていっ!!」
すぐさま俺の首にスタンガンが押し当てられる。
「じゃ、がんばってね〜」
そんな声が聞こえたかどうかわからないが………とりあえず、俺の意識は沈んだのだった。
――――――
目の前に広がるものは穏やかな闇だった。
「久しぶりね」
「!?」
今度は確実に聞こえる声に俺は驚いて後ろを振り返る。
「死神、ルーチェよ。あなたの両親には感謝してる」
「え?」
両親のことに触れられ、俺は驚いた。
「他の死神は知らないけどね、私は光に触れたかったのよ」
わけのわからないことをいわれているのだが、俺は黙っていた。
「けどね、死神だから光を持つもの………そうね、生きている者に触れればそのものを地獄に送ってしまうのよ。私たちが触れることが光に触れることが出来るのは命のともし火が消える瞬間の小さな光だけなの」
悲しそうにそう言って目を伏せる。
「………だけど、あなたの両親は違った。私を二つに分離させることによって……」
気がつけば後ろにはあの白いワンピースを着た女の子がたっていた。
「………いつでも私が光に触れることが出来るようにしたの」
「………」
「そして今、私たちはこうやって再び一つになれる………」
白と黒のルーチェは重なっていき、灰色のワンピースを着た状態となって俺の目の前へと現れた。
「…………これからはよろしくお願いしますね、シグマさん?ああ、呼び名はルーチェでけっこうです。親友ですから」
彼女は俺に右手を差し伸べてくる。
「勿論、ルーチェ」
俺はその右手をしっかりと掴んで頷いたのだった。
――――――――
それはよく晴れた日曜日の夕方だっただろう。少し帰るのが遅くなっていた当時の俺は慌てて帰っていた。
「ん?」
暗がりに一人の少女が泣いているのを見つけ、近づいていったのを覚えている。
「どうしたの?」
「友達が……いないの」
はじめ、俺は遊んでいた友達が行方不明になったのかと思ったのだが、そうではなかった。
「友達が………一人も出来ないの」
ああ、なるほど………この子はきっとこちらに引っ越してきたばかりなのだと俺は直感でそう考えたのだ。
「大丈夫だよ、僕が友達になってあげる」
子どもながらに良くあることだと俺は思っている。
「………本当?」
「うん、本当」
「じゃ、親友にもなってくれる?」
その当時、俺は親友と友達が若干違うものだと知らなかったのだが………目の前の少女が笑う姿を見たいという下心?かどうかわからないがそんな気持ちで首を大きく縦に動かしていた。
「うん!僕たちは今日から親友だ!」
「………ありがとう」
派手に喜んではくれなかったが、その顔は笑顔があふれていて、俺はとても嬉しかった。その後、暗くなるまでずっと遊び、その子と別れることになった。
「遊んでくれてありがとう」
「いいよ、また今度遊ぼう?」
そういったのだが、彼女は首を振った。
「無理……」
「何で?」
「それは………」
言いよどんだ少女に俺は一方的に告げていた。
「………絶対に遊ぶよ!いつだっていいから、いつか絶対に僕は君と遊ぶんだ!いい?約束だからねっ!!」
一方的に約束し、俺は既にその場から走り去っていた。
約束は………これまで一度たりともはたされたことなんてなかったし、俺は既に忘れていた。
――――――
「お、二日で帰還か………ぎりぎりね」
「ティルムさん!?」
スーツがところどころやぶけ、血が流れている姿のティルムさんがその場に立っていた。周りには何人かの男たちが立っており、彼らはその手に刃物をぎらつかせている。しかし、何人かの似たような服の人はその場に倒れていた。
「飲まず食わずのところで悪いんだが、ルーチェ、力を貸してくれ」
「わかりました、ティルムさん!」
右手をぱちんと鳴らし、俺たちを囲んでいた人たちは姿を消していった。
「………ふぅ、任務完了………死ぬかと思った〜」
相手がいなくなったとたん、ティルムさんはしりもちをつき、青い顔をこちらに向ける。よくよく見れば大袈裟に斬られており、わき腹辺りからは血がとめどなく流れている。
「あ〜輸血しないと死ぬかしら………」
自嘲気味に笑ったが、傷が痛むのか顔をゆがめる。
「ティルムさん……早く、救急車を……」
俺は立ち上がったが足をティルムさんが掴む。
「まった、いまさら助からないから………放っておいてかまわないわ」
「な、何を言っているんですか!?」
「ま、命の恩人の……息子を………助けれて……よか………」
多量の血を吐き、ティルムさんは俺の足を掴んだまま動かなくなった。
「え?う、嘘ですよね?」
血だまりが出来、俺の目の前で死が生まれる。
愕然としている俺の肩にルーチェの手が触れる。
「大丈夫ですよ、シグマさん」
ルーチェは左手をティルムさんの右手に当てると目を閉じた。それだけでこれまで真っ青になっていた彼女の体に血の気が戻っていく。
「………リビング・デッドって職業につけたほうがいいかしら?」
俺の足を掴んでいた手を離し首をコキコキと鳴らすティルムさん。
「よ、よかったぁ………」
「大袈裟大袈裟。ルーチェをなめてたら世界がほろぶって」
けらけらとティルムさんは笑い、俺は安堵のため息を吐く以外に出来ることなどなかった。
「さ、ここにいても警察が来るだけ!さっさとおいとまするわよ?」
走り始めたティルムさんの後を追って、俺とルーチェは走り出した。
「シグマさん、明日どこかに遊びに行きませんか?」
「ん?そうだな……どこかに行くか……」
「ティルムさんもいればもしものときも大丈夫ですよ、きっと」
きっとルーチェが一人いれば大丈夫だと俺は思う。
「ほ〜ら、さっさときなさーい!!」
ティルムさんの呼びかけに俺たちは元気のいい返事で頷いた。
「はーい!!」
なんとなくだが、それはまるで小学生ぐらいの子どもがしたと思われる返事に聞こえたのは俺だけだったのだろうか………
〜END〜