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階段を上がり、全員が所定の位置についたころ、冥賀さんの謝罪は50回を軽く超えていた。
「悠陽、悪かった!」
大声で謝罪を繰り返すこんな痛い人、無視するに限る。
『…とりあえず、今回の依頼内容について説明していきます。』
「悠陽、悪かった!
本当に…この通りだ!
申し訳なかった!!」
冥賀さんは正座をし、前に手を付き、頭を下げた。
さすがにここまでされると、許してあげなければ、私の人間性が疑われてしまうかもしれない。
『冥賀さん、もういいですから。
それより、資料を見てください。
説明ができません。』
私はできる限りの優しさを醸し出しつつ、答えてあげた。
今度は何度も「ありがとう」と繰り返す。
「冥賀さん、すこし黙っていただけます?
目障りです。
それに、悠陽ちゃんが説明できないんですよ。」
今度は遥さんが制止する。
冥賀さんは、赤い顔を資料で隠してしまった。
『では、静かになったことですし、会議を再開します。』
⚪︎依頼人No.010
吉田 誠
37歳
T市在住の会社員
妻子持ち
⚪︎依頼人の妻
吉田 晶子
32歳
専業主婦
⚪︎依頼人の娘
吉田 莉織
7歳(小学2年生)
貯金の持ち主
⚪︎依頼内容
娘の貯金を取り返してほしい。
娘が一生懸命、妻の手伝いをし、豚の貯金箱に貯めていた貯金額、10円玉100枚ほど=約1000円。
妻のへそくりや、家にあったお金も取られていたが、何よりも娘の貯金を優先して欲しい。
⚪︎事件内容
9月14日もしくは、15日の空き巣被害に遭う。
家は一戸建て。
被害にあった日は家族で温泉旅行へ行っており、おそらく、その間に金品を盗まれた。
⚪︎警察情報
聞き込みや証拠品から容疑者が浮上したが、現在行方不明。
捜索に行き詰まっている。
⚪︎容疑者
福嶋 義昭
顔写真あり
大阪府出身
30歳
1年前に電気会社からリストラされる
半年前から行方不明
〈特徴(半年前)〉
左手首にリスカの痕
身長170cmほど
ある程度の説明は終わらせた。
「ねぇ、悠。
吉田さん家以外のT市で起きた空き巣被害は調べたの?」
碧海が資料から顔を上げてこっちを見た。
『そんなこと、朝飯前。
昨日、冥賀さんから資料送ってもらった。
3ページを見て。』
5人とも、ペラペラと紙をめくる。
「あ、あった。
うわ、多いねー。」
「え、こんなにあるんですか?!」
楓ちゃんの目が今までに見たことないぐらいにまで開いている。
「この町は少し異様だな。
普通、1軒が被害に遭っただけでも、すぐに自治会で近隣住民に知らせて、何かしら対策をとるはずだ。
俺達警察だって、注意喚起ぐらいはする。
だが、吉田家の周りには3軒も被害に遭っている家があるのに、自治会では何も問題にはならなかったそうだ。」
冥賀さんもわけがわからないといった様子で首を横に振っている。
「警察は注意喚起はしたんですか?」
碧海が珍しく鋭いところをついている。
「あー、いや、それは俺の管轄外だから分からない。」
冥賀さんが言うには、注意喚起を行う局は生活安全局とかいうところらしい。
ちなみに、冥賀さんは刑事局の局長さんだ。
これでも一応、お偉いさんに入るらしい。
「そうですか。
ねぇ、悠。
それも調べる?」
碧海が言っているそれは、生活安全局がなぜ注意喚起を行わなかったのか。
確かに気になるけど、今は先に優先すべきことがある。
『いや、それは今じゃなくても、大丈夫だと思う。
それより、まずは容疑者の福嶋義昭を探さないと。』
私は福嶋義昭についてまとめたページを開き、写真を見る。
この写真がいつの時のものかは知らないが、少なくとも、リストラ前だということは分かる。
リストラされた人がこんなに笑顔なわけがない。