3.
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階段を降りるにつれて、数人の声が聞こえてくる。
あぁ、またか。
そう思って、階段から顔を覗かせると、案の定、みんな揃っていた。
しかも、全員でお喋りしている。
私はいつもの光景に呆れしか生まれない。
が、一応私がリーダーだ。
どうにかしなければならない。
どうやって注意してやろうかと考えて、結局いつも通りが一番効くことを知っている。
私はわざと歩く音を響かせる。
そして、俗に言う、黒い笑みを顔に貼り付け、息を吸いこんだ。
『こんばんは。
碧海、了、冥賀さん、遥さん、楓ちゃん。
皆さんお揃いで。
お元気でしたか?
まぁ、元気でしょうね。
それよりも遥さん、お店閉めたのにまだお客さんがいたんですね。帰ってもらわなくていいんですか?』
あー、これこれ。
この瞬間はなかなかの見ものだ。
私より背が高い遥さんでさえ、小さく見えるし、碧海や楓ちゃんなんかはもう、小動物だ。
了はあまり表情には表れないけど、焦っているのが分かる。
冥賀さんは顔面蒼白って感じ。
当たり前のことだけど、弁解の余地なんて誰にも与えるはずがない。
だって必要ないから。
私は口角を上げ、遥さんを見た。
今日は遥さんから。
「あ、あの、悠陽ちゃん。
お客さんじゃなくて、みんな、TFPのメンバーでしょ?」
ビクビクしながら答える遥さん。
私より年上だし、従兄弟なのにね?
『あぁ、確かにそうでしたね。あれ、冥賀さん、今日は早めに仕事を切り上げてきたんですね。』
次は冥賀さん。
この人の反応が1番面白い。
「あ、あぁ、今日は予定があったからな。」
言葉は堂々としているけど、顔面蒼白で、今にもあの世へ飛んでいきそうなほどだ。
『あれ、今日って何かありましたっけ?碧海、知ってますか?』
私の親友でもそんな簡単に許すことは出来ない。
「え、あ、う、う、ん。
今日はほら、あの、TFPが集まる日じゃん?」
もう何を喋っているのかすら分からない。
舌を噛んだらしく、顔がすごいことになっている。
『そうでしたか。
えっと、今って何時でしたっけ?了、教えてくれませんか?』
了はこうなることを分かっていて、みんなに付き合っていたんだと思う。
まぁ、こいつが一番の悪だ。
「…20時15分。
悠陽、悪かった。」
で、こうゆう奴に限って逃げ方がうまい。
まぁ、今回はよしとしておこう。
「あ、了ずるい!」
了を指さしながら碧海が叫んだが、私はそれを笑顔で静止する。
『あぁ、ありがとうございます。
さすが了。
引き際がわかってますね。
あ、楓ちゃん、これからは、くれぐれも大人達に流されないように、気をつけないといけませんね?』
碧海の妹の楓ちゃんは恐らく、悪い大人達に引き止められていただけだと思う。
「は、はい!
悠陽さん、ごめんなさい。」
ほら、ちゃんと謝ってくれた。
碧海よりもしっかりしている。
『楓ちゃんも偉いね?
自分が悪かったことを認めて謝ってるんだもん。
謝り方を知ってるもんね。
それに比べて大の大人のくせに、謝ることができない人がいますね?
一体誰でしょうか?
碧海、どこ行くんですか?
今の話、聞いてましたよね?
碧海は誰だと思いますか?』
さぁ、2ラウンド目に入ろうか。
ちょうどいい。
本人は気配を消しているつもりだろうけど、丸見えの子からいこうか。
「ひ、ひぃ!
ご、ごめんなさい!!
許して!
これからはちゃんと時間守るから!」
まぁ、半強制的に謝らせる事が出来た。
『はぁ。
で、遥さんはどうしますか?』
今度は遥さんに詰め寄る。
「あ、ゆ、悠陽ちゃん、ごめんね?
忘れてたわけじゃないのよ?
ただ、みんなが来て、思い出したのよ。
次から気をつけるから、ね?」
やっぱり、遥さんは直前まで忘れていた。
遥さんは忘れっぽい人だから、なんとなく、そんな気はしていた。
『忘れてたんですね。
まぁ、いつものことですし、もうなんとも思いません。
あとは、あなただけですね、冥賀さん。』
さ、一番厄介なやつのお出ましだ。
「お、俺はちゃんと20時にはここに来てたぞ!
碧海は5分ぐらい遅れてたけどな!」
ほら、もう既に面倒くさい。
冥賀さんはいつも必ず言い訳をしてくる。
本当、予想通りすぎて、何も言えなくなる。
しかも、自らを年下と比べるとは。
なんとも呆れてしまう。
だからと言って、遅れて来た奴をそのまま放置にはしないけど。
「な、ちょっとだけじゃん!」
碧海に微笑み返すと、彼女から笑顔が消えた気がした。
『…冥賀さん、私、昨日ちゃんと連絡しましたよね?
集合場所はどこでしたっけ?』
話を本題に戻す。
「ちょ、ちょ、ちょ、ちょ、ちょっと待て!
落ち着けよ、な?悠陽。」
今度は私を宥めにかかってくるらしい。
『私の質問、聞いてましたか?
答えになってませんよ?』
とりあえず、身体共に隅へ追いやっていく。
「い、いや、だからさ?」
冥賀さんは、後ろへとゆっくり下がっていく。
さぁ、もう、袋のネズミだ。
「雅さん、そろそろ謝った方がいいと思うよ。」
碧海が楽しそうに言った。
「え、ちょ、碧海!
りょ、了!何とかしてくれ!」
「俺は知らない。」
見事に冥賀さんの希望は打ち砕かれた。
「お前ら、酷すぎるだろ!」
『誰が酷すぎると?
2人はちゃんと罪を認めましたよ?
私との約束を破ったひどい人は誰ですか?』
小さなお店で叫ぶ馬鹿に制裁を下す。
「うわ、わ、悪かった!
この通り、許してくれ!!
俺には妻と子供が…!」
『いませんよね?』
無駄な嘘を。
というか、私をどれだけ恐れているんだか。
「…はい。
すみませんでした。」
『もういいです。』
私が素っ気なく言ったせいか、1分ごとに冥賀さんからの謝罪の嵐。
もちろん、こうゆう場合は無視するのが得策だと決まっている。