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重い瞼を開け、いつの間にか自分が寝ていたことに驚き、ソファの上で勢いよく上半身を持ち上げた。
寝起きのため、しばらくぼーっとしていて気がついたことがある。
さっきから、階段のドアがうるさい。
規則的に2回ずつ音がなっている。
さらにしばらく放っておくと、今までで一番大きな音がなった。
気づいた時には、私の体は何故か反射的に動き、ドアを開けていた。
「悠陽ちゃん、おはよう。
朝ごはんできてるわよ。
あとどれぐらいで降りてこられる?」
『お、おはようございます。
ご、5分で行きます。』
「そう?
じゃあ、待ってるわね。」
そう言って下へ降りていった遥さん。
ドアを開けるまでは自分の行動に首を傾げていた。
が、遥さんの顔を見て、自分の行動が正しかったことを確認できた。
こんなことは本人の前では絶対に言えないけど、朝の遥さんは例えるならば、そう、鬼だ。
いつもの綺麗な笑顔には影がかかっていて、頭にはツノが。
考えるだけでも、つい背筋を伸ばしたくなる。
遥さんが鬼になる理由。
その原因が私にあることは十二分に承知している。
私は朝に弱い。
起きる必要がなければ、夕方まで寝ている自信があるほど、朝に弱い。
遥さんはそれを知った上で、私に厳しくしてくれている。
それも承知している。
が、起きられないものは起きられない。
さらに、昨日みたいに仕事をしていて、知らぬ間に寝ていることも多々ある。
そんな状態で朝早く、起きられるわけがない。
それでも、遥さんが私の健康を心配してくれているのも事実で。
私は心の中で葛藤を繰り広げながら、5分で支度を済まし、下に降りた。
これこそ、遅れてしまうと、もう助からない。
私は席についている遥さんとテーブルを挟んで対面し、もう1度遥さんに挨拶をしてから席についた。
「昨日は何時に寝たの?」
フォークに刺したオムレツを口に運ぼうとした私の動きを止めたのは、遥さんの一言だった。
遥さんもフォークをお皿に置き、私の方を見ている。
『えっと…分かりません。
気がついたら、朝でした。』
こうゆうときは、ごまかさず、きちんと事実を述べた方が身のためだと、いつの日か悟った。
もちろん、いい顔はされないと思うけど。
案の定、遥さんは少し変な顔をした。
「依頼が入った日はいつもそうね?
まぁ、そうゆうところ、私もあるけど。
これはおばあちゃん達からの遺伝かな。
けど、私の母さんよりもゆりさんの方が強かったのね。」
遥さんは私を見て、ニコッと笑った。
「だって私より、悠陽ちゃんの方が強いでしょ?」
『さぁ、どうでしょう。』
私はわざと曖昧に返事を返した。
「ぜったいそうよ。」なんて、まだそんなことを言っていた遥さんをよそ目に私は朝ごはんに再度口を付け始めた。
『ご馳走様でした。
遥さん、明日は私が作りますね。』
「ご馳走様でした。
そう?
じゃあ、お願いしちゃおっかな。」
私達は食べ終えた食器を下げながら、明日の約束をし、遥さんはお店の準備に、私は仕事に取り掛かった。
2階の事務所に戻り、さっそく資料をまとめようと思ったが、さっきの遥さんとの会話を思い出してしまった。
私は自分のデスクの鍵がかかった引き出しから、ある資料を手に取った。
その資料は、父である彩木 裕斗が調べたもので母である彩木 ゆりが殺害されたときのものが数枚。
さらに、母が死んでから3年後、父が逮捕されたときのものが数枚ある。
1枚ずつ目を通し、再度引き出しの中にしまった。
気を取り直して、吉田さんの資料整理を進めていく。
この依頼は思っていたよりも面倒くさそうだった。
ついにこの時が来た。
ぎりぎりまで考えを深めていて、気がつけば20時まであと10分程だった。
みんなを集めるのは実に2ヶ月ぶりだ。
この仕事は人や物を探してほしいとか、そうゆう簡単な依頼なら、私一人で片付けられる。
私は、本当に必要な時だけ、みんなを集める。
その理由は、みんな、普段はきちんとした仕事をしているから。
みんなは、TFPに役立てるために働いているらしく、TFPが本業だと言ってくれたりもする。
でも、せっかくなら、犯罪に片足を突っ込んでいるような仕事より、普段のしている仕事を本業にすればいいのにと私は思うし、それが世間一般の意見だと思っている。
まぁ、少し変わった人達ってことを頭の片隅に留めておいた方がいいかもしれない。
ふと時計を見てみると、もう集合時間の20時だ。
秒針の音が静かな部屋に響く。
何度もそこへ目をやる、が、誰も来ない。
おかしい。
なんて自由な。
私はため息を一つ吐き、遥さんの元へ向かった。