第八球「ヘッドアップ」
スローピッチルールでの初めての試合、ナッちゃんは1死満塁のチャンスで三振を喫してしまった。
試合もコールド負けで悔しいデビューとなった。
次の試合の間に練習をすることになったが・・・そこで平松さんがナッちゃんに声を掛ける。
次の試合が始まるまで休憩を兼ねて十分くらいの時間が空いた。その時間を使ってさっきの試合で満足に打てなかった人らがバッティング練習を始めた。
「それじゃナッちゃんから打ってみるか」
私が最初に打たせてくれることを決めたのは平松さんだ。次の試合もピッチャーをやるって言ってた。
「いいとこで打てなかったのは緊張したからだよ。まぁ次、頑張ればいい・・・って言いたいけどちょーっと気になるところがあってな」
「気になるところ?」
「ちょっとバットを構えてごらん」
平松さんが私に打席での構えをするように促す。私はさっき打席に入った時と同じようにバットを構えた。
「うん、構えはオーケーだね。ただ打つ時に膝のタメが少し無くなってるんだよね。意識してないかと思うけどスイングの時に少し膝が伸びているんだ」
「打ちに行ってしまっているからですか?」
「その通り。打ちに行くことに意識がいっちゃってて、膝が伸びちゃってるのかな。それでスイングの後にバランスを崩してしまっていたんだ」
確かに当てに行くことと振りぬくスイングをすることだけを考えていたかもしれない。それだけ高いボールが衝撃的だった。
「そうなると手打ちになってしまい打球に勢いがなくなってしまう。本当に『当たった』だけになってしまうってことだ。打つ際にちょっとガマンしてみるといいかもしれないね。それと、上を見すぎてるかなって」
「ヘッドアップしているってことですか?」
ヘッドアップ…バットを振る際に顔が上がってしまいボールを上手く捉えられないこと。その原因として引き手側でない肩が、引き手側の肩より下がっている為にアゴが上がった状態でスイングしてしまい凡打になってしまうこと。
確かに放物線を描いて落ちてくるボールを見るため、ファストピッチの時と違って目線は斜め上を向かなければならない。
「まぁ、そういうことかなぁ。落ちてくるボールに合わせようとすればするほど、意識しちゃってボールを追っちゃうから余計に目線が行っちゃうんだよな」
「対処法は『アゴを引く』ってことですか?」
「それもあるけど、もう一つ秘訣があるぞ」
平松さんはバットを構えている私の両手を上からかぶせた。
「・・・こうして、バットの握りをもう少し絞るんだ。左手の甲は相手ピッチャーに、右手の甲はキャッチャーに向ける感じにしてみるといい」
「少し、スイングの入りが窮屈になりそうですね」
「スイングをする時はいつもどおりに戻してもいい。とはいえ意識して絞っている分、慣れるまでは多少そう感じるかもしれないな」
バットを絞るからかちょっと違和感がある。ここまで絞って構えたことは無かった。
「まぁ、まずは打ってみようか」
私の両手から手を離すと、平松さんがボールを持ってマウンドくらいまでの距離まで小走りで向かった。その間、2・3回スイングをしてみる。膝を曲げて下半身に重心を置き、意識的にアゴを下げて両手を絞るようにお互いの手の甲を前と後ろに向けるようにして構えたままスイングをした。
違和感は多少あるけど、今のままでは全く打てないのだからやってみる価値はあるかと思う。
「それじゃ投げるよー」
平松さんが私へボールを投じた。綺麗な放物線を描いたボールだ。ボールを目で追うが、膝を曲げてアゴを引くことを強く意識したので視線が少し落ちているので、先ほどよりかは見づらい感じだ。落ちてくるボールに合わせてバットを振りぬいた。しかし、バットにはボールが当たらず足元にボールが落ちた。
「うーん、まだスイングが少し早いかな。それじゃもう一球いくよ」
続けて平松さんがボールを投じる。またしても綺麗な放物線を描いたボールが落ちてくる。ちょっと打つタイミングを遅らせてボールに合わせて振りぬく。バットにボールが当たった感覚があった。しかし、打球はゴロで右へと逸れていった。
「もうちょいだね。まだ早いみたいだな」
引っ張っている右に流れきっているところをみるとまだ早いのかもしれない。
「少し、センター方向に打つことを意識してみるといいかもよ。でも俺に当てるなよー」
平松さんがもう一球投げた。今度も同じようなボール。次こそはと今まで教えられたことを意識して振りぬく!
感触あり。金属バット特有の高い衝撃音がした。打球は低い弾道のライナーで右方向に飛んでいく。守っていた人のところまでライナーが地面に落ちてボールが弾んでいった。
「よーしOK! 今の感じなら大丈夫だ。膝も伸びて無いしスイングも悪くなかった」
「ありがとうございます!」
「この感覚を忘れなければいいぞー」
それから五球ほど打たせてもらったがいい当たりが続いた。今度こそ大丈夫だ。次の試合はもっと活躍できそう!
その後、他の選手も何人かバッティング練習をしてから次の試合の開始時間になった。
「それじゃ練習切り上げて試合に入るぞ。まずは整列だ!」
平松さんの号令の下、練習をしていた人もベンチにいた人もホーム付近に集まり、バッターボックスの内側の線に沿って一列に並び始めた。相手チームも同じように打撃練習をしたり休んでいたりした人が列を作り始めていた。
「では二試合目を始めます! 互いに礼!」
「おねがいしまーす!!」
次の試合が始まった。打順と守備は前の試合と一緒だって平松さんが言ってた。
さぁ名誉挽回・汚名返上と行きますか!
つづく
ヘッドアップって意識しててもなかなか治らないものなんだよねぇ…。