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すろぴ  作者: 虎昇鷹舞
7/15

第七球「緊張の好機」

ナッちゃんが参加したスローピッチの試合は同点の緊迫とした展開。

そんな中、チャンスでナッちゃんに打席が回ってくる・・・


4回裏、試合が大きく動いた。平松さんの二者連続ファーボールをきっかけとなった相手チームの猛攻は凄まじく、打者一巡のつるべ打ちになり一気に7点を失うことになった。私の守備機会も多かったけど、送球はすぐ近くまでカバーに来てくれた屋鋪さんが投げてくれたので失投も無く無事に守備もこなせた。ライナーも取れたし、距離感が少しは掴めてきたかな。

しかし、ピンチを凌いだ後にはチャンスは巡ってくるもの。この不思議は野球もソフトも一緒。次の回の5回表、ワンアウトの後に相手チームに緩みが生じたのか何でもないショートゴロを一塁に返す際に暴投をしてしまいテイクワン(ボールが場外に出てしまいプレー続行ができなくなる状態になった際に打者に与えられる完全進塁権のこと。簡単に言うと無条件で一つ進塁できること)になってから急にリズムが崩れた。

ファーボールにヒットが続いてなんと私の打席まで回ってきたのだった。3点を取りなおもフルベース、満塁での打席だ。

相手チームの内、外野は前進守備を敷いている。先ほどのボテボテの当たりを見てタイミングがまだ合っていないと思われてるのかな。それで併殺狙いの守備位置か。ショーフィルがセカンドベースに入ってるし、ボテボテを打ったらそれこそおあつらえ向けの併殺になってしまう。次こそはしっかり打たないとね。


「表情が硬いぞーリラックスしないとー」


タイムリーヒットを打って一塁にいる平松さんが緊張していた私に呼びかけた。


「はっ、はい。すみません!!」


なんかぎこちない返事をしてしまった。この緊張感、久しぶりだなぁ。不慣れなスローピッチの打席とはいえ、ここはシッカリ決めないと!

さっきのことを考えると初球から高いボールで来るはず。追い込まれるまでは目線とかタイミングとか細かいことは気にしないで、ただ一つ「振りぬく」。これだけにこだわる!

フルベースで連打を打たれているところもあって相手も焦っているはず。私が打席に入る前、内野の人がマウンドに集まってピッチャーに向かって檄を飛ばして鼓舞してたし。そういう時は間を取るのも大事なんだよね・・・私の時は無かったけど。


私が打席に入って試合が再開される。さぁさぁ勝負勝負! 相手投手が投じたボールはそれほど高さはなく、ストライクを取りにきた抑えた感じのボール。ここはしっかり捉えて引き付ける様に・・・振りぬく!


快音が響いた。打った感触もあった。しかし、打球は一塁線の遥か右をライナーで抜けていきファールになった。振りぬいたのが少し早かったのかな・・・でも感触は悪くなかった。


「惜しい、惜しい! ナッちゃん、合ってきてる!」


ベンチにいる高木さんからも声がかかる、ベンチも私のファールに歓声が一瞬上がり、ため息に変わっていた。自分でも手ごたえが掴めてきたのがわかる。最初は驚きと不安だらけだったけど、そうも言ってられないし!

気分を入れ替えて打席に入る。仕切りなおしの第二球、今度は高い高いボールが放られた。さっきと同じように、タイミングを合わせて、振りぬく! あれ? ボールを捉えた感覚が無い? 空振りだ! ボールはストライクゾーンに綺麗に落ちてバウンドした。

気が逸っている。自分でもそれがわかった。

『打たなきゃ』

この思いが強い分だけ焦りが生まれてしまった。これでツーナッシングと追い込まれた。ファールを打ってもアウトになってしまう。更に『打たないと』という思いが全身を駆け巡る。


「落ち着いて、落ち着いて!」


ベンチから声が飛ぶ。もちろん落ち着かないといけないのはわかっている。相手投手は追い込んでるのだから高いボールを2球は放ってくるのは確実。


「すみません、タイムお願いします」


主審にタイムをお願いして打席を外して二、三回軽くスイングをした。ファールだけでいい当たりも打てている。タイミングさえ合えば打てないってことはない。

スイングをした後、一つ大きく息を吐いて改めて打席に入る。主審からプレイの声がかかる。相手投手は高いボールを投げてきた。それもとびっきりの高さ。ボールでも構わないといわんばかりのボールの高さである。ボールを目で追うが思ったよりも高かったからか距離感が微妙に分かりづらい…。

頂点に達したボールがゆっくりと落ちてくる。これはストライク? だとしたら凄いコントロール力! もう、振るしかない!!


「ストライク! バッターアウト!」


主審のコールがグラウンド内に響いた。思い切って振ったバットは空を切り、ボールはストライクゾーンのマットの上に落ち、転がっていった。 ストライクを空振りしちゃったの?

確かにボールの高さに戸惑いはあった。しかし、ストライクのボールを打てなかったことは事実だった。


「惜しい惜しい! 次、ガンバだぜ」


次の打者の高木さんが私の肩を叩いて励ましてくれた。わかってるんだけど・・・悔しい。バットを戻してベンチに座り、大きくため息を吐いてしまった。


「まぁ、最初だから仕方ないと思うよ。スローピッチの打撃って慣れるまでタイミング取りにくいって言うからさぁ」


スコアブックを付けながら鯨子が隣に来てくれた。本当に知らない世界だった。タイミングさえ取れれば当てられると思っていただけにショックは大きかった。


「難しいなぁ・・・」


悔しさから自然と言葉が洩れた。こんな感じ、いつ以来だろう。



その後の試合展開はよく覚えていない。その回の追い上げもそこまでで、三点止まり。その次の回に再び相手チームの大量点を奪われ、15点差がついてしまい結果的に5回コールドゲームとなってしまった。


「いやー負けた負けたー、気持ちよく打たれちゃったなぁ」


ホームベースを境にして相手チームと整列をする際、笑いながらやや自虐的に平松さんが笑っていた。それをチームのみんなが突っ込む。


「お前がファーボール連発すっからリズムがズレちゃったじゃないか」


笑いながらサードの田代さんが平松さんの肩を揉む。田代さんはファーボールの直後にゴロの処理をファンブルしてしまったのだった。


「人ノセイ・・・ノーノーデース。ソレヨリ礼デース」


主審に入っていたレオンさんがそこに割って入って一礼を促す。


「そうそう、一礼の後にハイタッチをするんだよ」


平松さんがそう教えてくれた。どうやるんだろうって思いつつ、主審のレオンさんが相手チームの勝ちを宣告して、お互いに一礼した。


「お疲れ様。いいスイングしてたからタイミングが合ったらもっと打てるようになるよ」


相手チームのピッチャーをしていた人と握手をした時にそう言われた。やっぱり慣れが大事かぁ…。


「それじゃハイタッチしていくぞ」


相手チームの人が手を上げてマウンド方向に歩き出す。すれ違いざまにハイタッチをしていく。私らはその逆にバックネット側に向かって歩いて、ホームベースのところでUターンして自分のチームの人とハイタッチをしていく。


「おつかれさま。次もまたヨロシク!」


「バッティング惜しかったよー」


「また、ヨロシク!」


そう一言、二言交わしながら次々とハイタッチをしていった。ぐるっと二周くらいしてお互いのベンチに引き上げた。なんとも和気藹々とした感じ。試合後にハイタッチってしたことが無かったから不思議な感じ。


「試合後のハイタッチって、お互いの健闘を称えてるんだよ」


ベンチにいた鯨子が教えてくれた。そうなんだラグビーのノーサイドの精神みたいなものなのかな。


「お疲れさん、少し休んだらもう一試合あるけど、どうする?」


平松さんが私に聞いてきた。私としてもこのままじゃ終われないし、終わりたくない!


「大丈夫です! 次も行けます!」


ちょっと語気が強くなって答えてしまった。


「オッ、まだまだ元気だね。次はいい当たり打ってリベンジしようぜ!」


「はい。このまま終わっちゃったら悔しいです!」


『悔しい』この言葉が今の自分の思いだった。試合の雰囲気は楽しいけど悔しさが勝ってる。なんとかしなくっちゃ・・・。


「それじゃ、外野の芝生で軽くバッティング練習しとこっか。高いボールのタイミングが慣れてくればもっとしっかり打てるハズだよ」


さっきの試合で隣を守っていた屋鋪さんが練習に誘ってくれた。他にも何人かが既に外野の芝生の方に向かって歩いている。


「ありがとうございます、是非よろしくお願いします!」


私は疲れが多少残っている中、外野に向けてグラブを持って走り出した。次はもっと上手く打つんだ! そう思うと居ても立ってもいられなくなっていた。こういう時は練習あるのみだしね。


スローピッチに興味ある方が一人でも増えればと思い書いております。

埼玉地域で試合をしていますので実際にやってみたいという方も歓迎しております。

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