第三球「プレイボール」
スローピッチに挑戦するナッちゃん。
いよいよ試合開始です。
試合前にベンチにチームのメンバーが集まっていた。みんな商店街で見知っているおじさんたちだ。
「それじゃスタメンだけど、今日は三浦さんの代わりに娘のなつみチャンが来てもらったぞ」
歓声が沸くメンバー。その中でも『JKキタコレ!』とか言ってテンションが上がっているのは居酒屋で働いているレオンさん。この人がスローピッチをみんなに紹介したって平松さんが言ってたな。
なんでもレオンさんの母国、アメリカではレクリエーションで行われるほどポピュラーなスポーツで、俳優のデンゼル・ワシントンが凄腕の正義の味方をしていた映画でも、ホームセンターで働いている人らがレクリエーションでスローピッチの試合をするシーンがあるんだとか。
「キレイナ、ガールでオイラのテンションもハイテンショーン!」
明らかにみんながからかって教えた変な日本語を使うレオンさんは本当に気さくで陽気な人なんだけど、怒るとすっごく怖いって鯨子が言ってたっけ。確かに笑顔がちょっと笑ってないっぽいし…、あっ目があっちゃった、えへへ…。
「それじゃ、ナッちゃんから一言挨拶もらおっか?」
「はっ、はい! 三浦なつみです! 今日はお父さんの代理で参加しております! 久しぶりのソフトボールですがみなさんの足を引っ張らないよう、頑張ります!」
平松さんから紹介されて、帽子を取っておじぎをして挨拶をした。やっぱりこういう挨拶って苦手なんだよなぁ…。思わず帽子を深くかぶってしまう。
チームのみんなが拍手して歓迎してくれた。ちょっとホッとした。
「ナッちゃんはラストバッターの10番でライトに入ってもらえるかい?」
「はい、頑張ります!」
あっ、外野だ。確かに打球がかなり早いから内野は慣れるまで危ないって言ってたけどね。送球だけ気をつけないと…。
「スタメンはいつもの通り。相手のクリーンナップの時は4人守備で行くぞ」
4人守備? 強打者の時はショートフィルダーの人を外野に回すってことか。
「そろそろやるかーい?」
三塁側のベンチから相手チームの人たちが声をかけてきた。
「よーし、相手も準備できてみるみたいだし、行くぞ!」
一声出してみんなでベンチを出てホームベースを境に相手チームと対峙する。私は一番奥にこそこそっと並ぶ。ベンチには鯨子が残って座っている。スコアブックを付けるようだ。
相手チームの年齢層はこちらと同じくらいで若い人もいれば年配の人もいる感じ。
「最初はこっちの先行で二試合目は後攻だよ」
隣に並んでる髭がトレードマークの屋鋪さんが教えてくれた。
「礼!」
『お願いします!』
主審の合図でお互いに一礼をして試合が始まった。
「それじゃ、ナッちゃんにいいとこ見せて来ますか!」
先頭バッターの高木さんが私の方にウィンクして打席に入る。周りで「セクハラ」だとか言ってみんな笑ってる。
「相手のピッチャーのボールを見ておくといいよ。俺よりも投げるボールが高いから」
平松さんがそう言うと投球練習をしている相手チームのピッチャーを指差した。軽く腕を振ってボールを投じているのだけど・・・えっ? あんなに高いボールを上げるの?
軽く3メートル近くボールが上がっているだろうか。本当にホームベースの上に垂直に落ちてくる感じだ。しかもコントロールが抜群! 何球かボールを放ってるけどほぼ全部、ベースとベース後ろに敷かれているマットに当てている。
「俺もあそこまで高く上げると上手くコントロールできないんだよなぁ。風が強いと流れたりするからそれも考えないといけないんだよね」
そうかいくら変化をかけて投げてはいてもボールが高く上がるから風の影響ももちろんうけるんだ。そう考えてもピッチャーが一番難しいかも…。
相手ピッチャーの投球練習が終わって、高木さんが左打席に入り試合が始まった。
つづく
少しですが更新です。
やっとエンジンかかってきたのでこれからバリバリ書いていきますよ。