表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
すろぴ  作者: 虎昇鷹舞
1/15

第一球「スローピッチって?」

ウィキペディアにも単独項目として載っていないスポーツ「スローピッチ」。

ローカルルールが多数存在する上に国内に統一したリーグや機構も存在しないスポーツ。

少しでもプレイ人口が増え、統一ルールとかができればと思い執筆を始めました。


スローピッチの楽しさ・難しさ、チームプレーの楽しさ、自分の壁を乗り越えることの難しさを伝えられれば幸いです。


かつてヤクルトスワローズに所属した『赤鬼』の異名を持ったスラッガー、ボブ・ホーナー(在籍:1987年)は言った「地球のウラ側にもうひとつの違う野球ベースボールがあった」と。

バリバリのメジャーリーガーがメジャーリーグから離れて1年間在籍したヤクルトでの日本のプロ野球体験は「メジャーの野球と違い非常にスリリングだった」と言っていた。


私も今、未知の野球を体験している。その野球はピッチャーの投げるボールがまるで空から落ちてくる私の知らないベースボールだった。



・一週間前



「お父さんの代わりにお手伝いできる?」


夕方、学校から帰ってきてすぐにお母さんに聞かれた。お母さんは台所に立って夕飯の支度をしている。


「手伝いってお店の?」


私の家は花屋さん。お父さんとお母さんで切り盛りしている街のささやかなお店で、お彼岸のシーズンともなるとお手伝いの人を入れるくらい急に忙しくなる。私もその時期になるとお店の手伝いをやってきたのでそのことかと思った。


「ううん、今度のお手伝いはお店の方じゃないの」


お店じゃないってことは町内会のお手伝いかな? 町内の掃除とかお祭りとかのお手伝いとかもあったし・・・。


「それって、いつ?」


多分、私に頼むくらいだから土日の学校が無い時だと思うけど、友達と遊ぶ予定と被ってなければいいな・・・。


「一週間後の土曜日のお昼頃なんだけど、ナッちゃん予定ある?」


ナッちゃん、私「三浦なつみ」のことをお母さんは呼んでる。ちなみにお父さんも友達も学校の先生も同じように私のことを『ナッちゃん』って呼んでる。ありきたりだけど、変なあだ名を付けられるよりは、ね。


「土曜日のお昼なら部活も無いし、友達と遊ぶ予定も無いから大丈夫だけど、何するの?」


学校の部活は調理部に入っている。ちょっと『いろんなこと』があって最初からは入ってなかったけど、先に入ってた友達に誘われて入ったんだ。主にお菓子とか作ってるかな。


「ナッちゃん、ソフトボールできたでしょ? お父さんの入ってるチームの試合が土曜日にあるんだけど、お父さんお仕事でどうしても抜けられなくなっちゃったの」


「それで、私がお父さんの代わりに試合に出るの? でも私・・・」


ソフトボールは小学校の頃から近所の町内のチームに入ってて中学でもやってた。で、高校に入ってもまではしてたけど『いろんなこと』があって、やめちゃった。だからソフトボールの練習も試合もしばらくしてなかった。


「大丈夫よ。お父さんのチームだもの。みんなナッちゃんのこと知ってるし、それにお手伝いで行ったことあるでしょ?」


お父さんの入ってるチームは町内のお店をやってる人で作った草野球のソフトボールチーム。みんなお店をやってるからお仕事の関係で参加できなくなることもあるから時々助っ人として試合に参加したこともあったんだ。それなら大丈夫かな…。


「うん、いいよー」


「ナッちゃん、助っ人してくれるか。いやー助かったよー」


お父さんがお店から台所の方に顔を出した。冷蔵庫を開けて中から麦茶を出して飲んでいる。一休みがてら覗きに来たみたい。


「お父さんのチームって町内のお店の人のところだよね?」


「そうそう、来週試合があるんだけど、お父さんちょーと抜けられない仕事が入っちゃったからナッちゃんにお願いしたいのよ」


麦茶を豪快に飲みながら私の方にウインクする。私のお父さん、ちょっとユニーク。仕事中や試合の時もいつも気合が入るからって髪型をリーゼントしてるし。お店の中に流してる音楽もロック系の音楽なんだよね。あと、最近はスマホの自撮りに凝ってて色んなところに行った写真とか撮って私たちに見せるんだよね。


「試合はどこでやるの? いつもの河川敷の野球グラウンド?」


私の住んでる町には大きな川があってその河川敷に野球のグラウンドとかサッカー場とか色々と並んでいる所があって、そこで色んなスポーツの大会や町内の運動会をやったりしてる。以前、助っ人で参加したときもそこで試合をした。


「そうそう、いつものとこ。それじゃヨロシク!」


そう言ってお父さんはお店の仕事に戻っていった。私は部屋に戻って押入れの中を物色した。季節はずれの服とか読み終わった本とかの奥のスポーツバックを取り出す。


「久しぶりの出番だね」


バックの中からグローブを取り出した。白とピンクのツートンカラーのグローブ。中学に上がったときにお父さんに買ってもらったもの。

最近、手入れしてなかったから試合までに手入れしとかないといけないや。ちょっとグラブの表面がカサついている。手入れ用のクリームを引っ張り出してグラブに塗り始めた。



・その翌日の昼休み


「で、ソフトボールやるんだ。大丈夫なん?」


私と教室でお昼ごはんを一緒に食べている豪快な体型のクラスメイトが話しかけてきた。彼女の名前は「辻鯨子つじ・くじらこ」。私の幼馴染で小学校の時からずっと一緒にいる子。

『カレーは飲み物』という言葉を身をもって示してくれる子でとにかく食べることが大好き。今日も重箱のようなお弁当をモリモリ食べている。その食べっぷりを見ているだけでお腹一杯になりそう。

絶対に食べ残しはしないのがポリシーで、それを守っていたらこんなになっちゃったって昔、言ってたっけ。


「う、うん。お父さんのところだから大丈夫かなって。みんな知ってる人だし」


私はお母さんが作ってくれた人並みの大きさのお弁当を食べている。鯨子のに比べたら重箱一組よりも小さいかもしれない。


「そうなんだ。まぁナッちゃんが自分で決めたんだったら、いいんじゃないかな。周りがとやかく言うもんじゃないし」


重箱のようなお弁当をすべて平らげて満足そうな鯨子がお腹をさすりながら笑顔で答えた。


「そうだ、鯨子も来ない? 鯨子のお父さんもチームにいるんでしょ?」


鯨子の家も私の家の近くで食堂をやってて、鯨子がお店の手伝いをしている姿もしょっちゅう見かけた。


「試合は今度の土曜日のお昼頃だっけ? 家の手伝いも夕方からでいいって言ってたから大丈夫だよ」


「ありがと、やっぱりちょっと不安だったんだ。久しぶりだしね」


「それじゃ、私もグラブ持ってくわ。キャッチボールくらいはまだできるし」


鯨子も私と一緒にソフトボールをやっていた。でも小学校までで辞めてしまった。家のお手伝いをやるからって言ってたけど、それが嘘なのは私は知ってる。

でも言わないであげてる。私に対してもソフトボールを辞めたことを何も言わなかったように。



・そして試合の土曜日


「『スローピッチ』?」


河川敷の野球グラウンドで私は聞きなれない言葉を聞いた。今日はそのルールで試合をするという。


「何でもアメリカじゃソフトボールのルールはファストピッチよりもスローピッチの方がメジャーなんだってさ」


私と一緒に学校のジャージを着て参加している鯨子がお父さんから聞いた話を教えてくれた。相手チームは米軍基地の中で働いている人で結成したチームだとか。

ファストピッチよりもメジャーなルールだなんてどんなルールなんだろ…。


「さっきググったら検索でルールがヒットしたよ」


鯨子が検索をしたスマホの画面を見せてくれた。そこに書かれていたルールをまとめると…


・ボールは革の3号ボールを使用する。

・ピッチャーの投げる投球は山なりでなければならず、ウインドミル投法は禁止。

・2ストライク後のファウルは三振扱いでアウトになる。

・バント、盗塁、ホームへの滑り込みは禁止。

・ワイルドピッチ、パスボールでも走者は進塁できない。

・守備はファストピッチルールの9人に1人を加えた10人で行い、ショートフィルダーと呼ばれる10人目の選手は、どこを守ってもよい。

・ファストピッチルールと対照的に点が入りやすく、年齢・性別を問わずレクリエーションとして楽しめる。

・他にローカルルールが多々存在する。


「随分とルールが違うんだ。でも鯨子のお父さん達は何度かやったことあるみたいなんだね」


「そう、前もってそのルールでやるって分かってたらお父さんも教えてくれればよかったのに…。ナッちゃんは初めてやるわけだし。そだ、とりあえずキャッチボールしよっか」


鯨子が革の3号ボールを借りてきて私に山なりのボールを投げる。グラブでキャッチするとズシっとした重みを感じる。これが革のボールの感覚なんだ。ゴムボールとは全然違う。

ボールを手にとって拳で叩いてみる。コツ、コツと軽い音がした。


「とりあえず、軽く投げてみたらー?」


鯨子が肩をぐるぐる回すアピールをしながら声をかけてきた。軽くなら大丈夫かな・・・。


「うひゃぁぁ」


私の投げたボールは鯨子の頭を遥かに越えてすっ飛んでいってしまった。


「おっ、ナッちゃんのボールはイキがいいねぇ。最近仕入れた魚でもこんだけイキのいいのはいないぜ」


周りでキャッチボールをしていたチームのおじさんたちに笑われてしまった。でもこの笑い方は私を気遣っての笑い方なのがなんとなくわかる。

真っ先に声を出したのは魚屋さんをしている松原さんだ。チームの人も年齢がさまざまで20代の人から60代の人までいる。


「まぁ、久しぶりなんだから楽しんでいってよ。みんなでフォローすっからさ」


私の肩をポンとグラブで叩いて松原さんが笑顔で声をかけてきた。50代ぐらいの人で頭が綺麗にツルツルだったけど、いつもニコニコしている人。

そうだ笑顔、笑顔。笑顔でプレーするんだ。



新しいソフトボールとの出会いがここから始まった。

初めまして虎昇鷹舞こしょうようぶです。

知人に影響されて一念発起してなろうに投稿を始めます。


ナッちゃんと一緒に自分も成長していくので、これからもよろしくお願いします。


スローピッチは楽しいぞ!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ