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鎧の魔王のファンタジア  作者: 長月充悟
正義のような幻想
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断章:『商人の復讐』『真竜国事変から三ヶ月後の皇族の会話』

スホルテン

真竜国議員で帝国の内通者 第三章で鉱山掘ってた人間


ハナ

初登場 アネシュカがアイツは腹黒と発言してた人物。

ザハリアーシュ

第2皇子で今は皇太子 脳筋皇子






   ■■■断章:商人の復讐






「さて、皆さんは選ぶことができます」


 真竜国の東の港で、屈強な傭兵達を従えた男が、避難してきた神殿の巫女たちに告げる。

 巫女たちは身を寄せ合って怯えていた。


「な、何をですか、スホルテン議員」

「ここから裕福な暮らしを期待することはできません」

「話が違うわ! わ、私たちは」

「ええ、ええ、そうでしょう。貴方たちは避難民と別れて、レナーテ様の教えを引き継ぐため、アエリア大陸の神殿に厄介になるつもりでしょう。ですが、誰がその旅費を出すのです?」

「そ、それは私たちには持ってきた蓄えも」

「ああ、それで足りるんですかねえ? 女性たちだけの集団で護衛もなくて。しかもいずれも名家のお嬢さんたちだ。つまり、世間知らず。信頼できる人間を雇えるとも限りません」

「なら、ブレスニークに行くわ!」


 巫女の一人が震える声で宣言する。

 今、彼らがいる港では他の避難民たちが、ぎゅうぎゅう詰めの状態で輸送船に乗せられている。そちらに同乗すると彼女たちは言い始めたのだ。


「おや、それは構いませんよ。ですけど、それでどうやってレナーテ様の教えを引き継ぐんです?」

「それは……し、神殿を建てて」

「一から神殿を建てるのは大変ですよぉ。しかもメノア大陸でレナーテ様の教えなんて教えてたら、こわぁい帝国が来てしまうかもしれない」


 小馬鹿にしたような調子のスホルテンに合わせて、周囲にいた傭兵達が下卑た笑みを浮かべる。


「だ、だったらどうしたら良いって言うのよ」

「良い働き場があるんですよ。貴方たちぐらいの、あー、上玉? なら結構稼げるんでしょう?」

「なっ!? 私たちはそんなこと致しません! 汚らわしい!」

「体を売るのが汚らわしい?」

「そうです! あの女のようにはなりたくありません!」

「あー、そう来ましたか。でも、そうすると貧しい旅になるかもしれませんよ? でも、今ならホンのひとときです。男性に抱かれるだけで優雅な船旅と馬車旅、それに信頼できる案内人も付きます。どうでしょう?」

「そ、そんなのできるわけがないわ! 私たちは誇り高きレナーテ神殿の巫女なのよ!」

「へえ? まあ、良いです良いです。じゃあ、頑張って下さい。でも今なら、ほんの少しで済みますよ? 皆さん、飢えてますからねえ」


 傭兵達が口々に笑い声を上げる。


「……あの」


 そんな中、恐る恐る手を上げる一人の巫女がいた。


「おや、何でしょう? そちらのお嬢さん」

「……私、経験がありますから」


 他の女性が驚いて、そちらの巫女の方を振り向く。


「あら? レナーテ神殿は純血が求められると聞いていたのですが」

「……深くは聞かないで貰えると」

「ああ、わかりました。では、貴方が代表で?」

「は、はい」


 怖がりながら、その巫女が前に出ようとする。

 だが、先ほどまでスホルテンと話していた巫女が、


「そんなことさせられないわ! 私が!」


 と押し止めようとした。


「い、いいの。私が犠牲になれば」

「いえ、私は巫女長に貴方たちを導いて、レナーテ様の教えを広めるよう言われたのです。それにレナーテ様は勝ちます。すぐに戻って来られます!」

「で、でも……」


 巫女たちが自己犠牲の精神を発揮し始めると、スホルテンが傭兵達を顔を見合わせて肩を竦める。そして、彼女たちに向かい、


「まあ、とにかく決められたわけですね?」


 と笑いながら問い掛ける。


「き、希望者だけよ。それで何とか工面してちょうだい!」

「わかりましたわかりました。でも、その前に、一つ、ご伝言があります」

「伝言? 誰から?」

「では読みますね」


 コホンとわざとらしく咳払いをしたスホルテンが、懐から取り出した手紙の中身を読み上げる。


『神殿にいた間、散々蔑んだ目で見てくれてありがとう、レナーテ神殿の巫女さんたち。体を売る決意をした気分はどうかしら? エディッタ・オラーフより』


 その内容を聞いて、傭兵達が下品な大笑いをし始める。

 反対に巫女たちは愕然とした表情に落ちていた。


「え、エディッタって、あのときの娼婦……」

「ええ。まあいいでしょう。エディッタさんは、その決意が見たかっただけなので。彼女から便宜を計らうように言われています。自分を陥れた人間と同じになりたくないそうで」

「な、なら、お、お金は」

「下品ですねえ、お金お金って。彼らに護衛もさせますよ。風体は悪いけど信用できる男たちです。きっと守ってくれます」


 その言葉に安堵する巫女たちに対し、スホルテンは背中を向けて歩き出す。


「ぎ、議員、どこに行くんです?」

「私ですか? 私は首都に戻りますよ。元々、向こうとの内通者の一人ですから」

「な、何ですって!?」

「ああ、理由は聞かないでくださいね。恥ずかしいから」


 背中を向けたまま手を振り、スホルテンは東の港から去って行く。


 ――スヴェン君。また、ヴレヴォに支店を出すことになりそうだよ。


 彼は心の中で思い出していた。

 真竜国の商人でありながら、理想に燃えていた時期があった。

 戦争が始まる前に、帝国と真竜国の架け橋となるために、ヴレヴォに支店を出していたのだ。そこの店長を、信頼できる義理の息子に任せていた。

 だが、北西三カ国連合によって焼かれ、義理の息子も死んだ。

 その恨みを持って、帝国の内通者となった。

 一流の商人であった彼にとって、真竜国の情報を流すことなど造作もなかった。

 帝国の密偵を匿い、竜の毒殺を手助けした。帝国の渡海作戦のときに、勇者たちを引きつけるために鉱山を掘ったのも、帝国の指示で行った。

 エディッタがエディッタなりに意趣返しをするのも手伝った。彼女はどうせレナーテ神殿の世間知らずの巫女たちには、何もできないとわかっていた。その上でからかったのは、真竜国の民が愕然とする顔を、一回ぐらい間近で見たいと思ったからだ。

 何はともあれ真竜国議員スホルテンは、商人として復讐を果たした。

 そしてまたヴレヴォに店を出せるようになったことは、商人としては心躍る話だ。


「ざまぁみろ、真竜諸島共和国」


 かの国の陥落に一役買った内通者は、呆ける巫女たちを置いて、これから先の未来に足を進めるのであった。








 










   ■■■断章:真竜国事変から三ヶ月後の皇族の会話。






 帝城内にある皇族用の庭園は、暖かい日差しと柔らかな微風に揺られ、二人の皇族を持てなしていた。


「ようやく少し落ち着きましたわ、ザハリアーシュお兄様」


 一人は二十歳程度の美しい女性だ。帝城の黄金と呼ばれるハナ・リ・メノア第一皇女であった。

 彼女の長い金髪の輝きはエルフの手繰る糸よりも眩しく、その頭に乗せた白銀のティアラにも劣らない。純白の煌びやかなドレスも帝都一の匠が三年がかりで拵えた物であり、身にまとうことを許されるうら若き乙女は、帝国には彼女しかいない。

 しかしその美しさにも関わらず、深窓の皇女として、秘した花として、あまり姿を現さない人間でもあった。


「そうだな、ハナ。すでにレナーテ討伐戦から三ヶ月経つが、未だに信じられぬ」


 相手をしているのは、帝国の皇太子であるザハリアーシュ第二皇子だった。

 こちらは身長も高くがっしりとした体格であり、南方出身の母から受け継いだ褐色の肌と逞しい筋肉が戦士の風格を醸し出している。しかし格好は皇太子らしく、豪奢な白いローブを羽織っており、服装は大帝国の次の頂点に相応しい物と変わっていた。


「今でも信じられませんわ……お父様とアダミーク閣下が……」

「オレもだぞ。お二人とも、あれほどの戦役で生き残った人間だ」

「ヴィレーム兄様を守られてなんて……しかも帝国の祖と同じ勇者に……」


 悲しげに目を伏せるハナ姫の姿は、まるで雨露に濡れる花のようだった。その姿を見てザハリアーシュも痛ましげな顔を浮かべた。


「勇者は特級冒険者により連れ去られ、そのままブレスニークに逃げたそうだ。兄上も何を考えておられるのか」

「エリクお兄様ですか……お優しい方です。きっと勇者様をお癒やしになられたいと思ってらっしゃるのですわ」


 いかにも世間知らずというように、一番上の兄に対し良い方向の予想をする。ザハリアーシュとしては苦笑いで答えるしかない。


「ヴィート・シュタク少佐がヴィレームだとはなぁ。オレは知らなかったが、お前はどうだ?」


 話題を変えるために、今度は弟である第三皇子のことを問い掛けた。

 ハナは首を横に小さく振り、


「私はシュタク少佐というお方にお目にかかったことが、数えるほどしかございませんわ、お兄様」


 と申し訳なさそうに答える。


「まあ、お前が公式の場に出るのは、謁見のときぐらいだしなあ」

「これからは表に出て、ザハリアーシュお兄様のお役に立てるように頑張ります!」

「オレがおらぬときに、帝城に全く皇族がおらぬでは困るからな。母上と協力してやってくれ」

「お任せください!」


 ハナが無邪気に胸を張る。

 皇太子としては、この妹で大丈夫かという不安には駆られるが、何とかなるかと楽観的な気持ちでいた。

 ザハリアーシュ・イェデン・メノアは、南方出身のの大らかな性格の母を持つ男であり、その影響を大きく受けている。皇族にしては珍しく善人過ぎる男であった。


「ところでザハリアーシュ兄様、ヴィレーム兄様は?」

「ヴィレームは、何やら飛び回ってるぞ。シャールカを連れて」

「シャールカを?」


 指を顎に当てて小首を傾げると、彼女の流れる砂金のような髪が揺れる。


「ああ。ブレスニークのシャールカだ」

「謀反人の娘として裁かれたと思っていたのですが?」

「オレもアイツが何を考えてるかは知らん。ただブレスニーク家の勢力圏近くを中心に、色々と連れ回しているようだ」

「ああ、さすがはヴィレーム兄様ですわね」


 華奢な妹が手をポンと一つ叩いて笑顔を浮かべると、筋骨隆々な兄が怪訝な顔を浮かべた。


「ん? わかるのか?」

「餌でしょうか。お魚を釣るみたいにパクパクっと食いつかれるのを待ってるのでしょう」


 大げさなジェスチャーを交えて説明するハナに、ザハリアーシュは多くの皺を眉間に集めた。。


「ううむ……オレにはわからんが、何の意味がある?」

「ヴィレーム兄様は婚約破棄をされたのでしょう?」

「そうだな」

「継承権のない第三皇子とはいえ、婚約できていたのはブレスニークが公爵家であったからこそ」

「それはそうだな。ヴィレームには悪いが、庶子では伯爵令嬢か男爵令嬢、というところが慣例だ。逆に言えばブレスニークが無くなれば、第三皇子と結婚するなどできないからな。父上のお気に入りの皇子でもあったわけだし」

「おそらくシャールカはどうしても添い遂げたくて、半端な行動になってしまったのですわ。愛、愛ですわ」


 帝国の花と呼ばれる姫は、自分の頬に手を当てて、いやいやと恥ずかしがる。その愛らしさに、周囲に控えていた人間たちの頬も自然と緩んでいった。

 反対にザハリアーシュは、よくわからんとばかりに唸り声を上げる。


「愛なぁ……しかし、それならヴィレームはシャールカをどうするつもりだ?」


 その問い掛けに、ハナ・リ・メノアは清楚な微笑みを兄に向ける。


「死を覚悟して残ったシャールカを、生きて向こうに返すつもりですわ。帝国にいれば殺すしかありません。それを作戦に使うと言って引き連れ回す。今、ヴィレーム兄様に逆らえる人間は、皇太子であるザハリアーシュ兄様しかいらっしゃいませんから」

「ヴィルは相変わらず甘いか。オレはその甘さ、嫌いではないぞ」


 ザハリアーシュが腕を組んで、満足げに何度も頷く。だがハナは愉快げに笑いながら、


「いいえ、お兄様、違います」


 と否定する。


「おう?」

「虫の群れに砂糖菓子を落としたのですわ。そのシュタク少佐という方の噂が本当なら」

「……そうなのか?」

「仮にもブレスニークの……聖騎士王家? そこの復興でエリク兄様が王となるにしても、ブレスニークの長女を娶る必要はございましょう?」

「筋で行けばそうなるな。あの家の二人の兄は、右軍の暗殺部隊が殺した」

「元々、大して当てはされてなかったのでしょう。エリク兄様を王とすることで帝国の血も主張し、長い目では帝国からの貴族の離反も狙う。まあ、そういう手だと思いますわ」


 妹が得意げに説明する内容に、ザハリアーシュは小首を傾げそうになるが、それでも理解はできた。


「ならば、なぜシャールカを連れ回す? 兄上が聖騎士王家を継ぐ正当性も失われるだろう?」

「ヴィレーム兄様は、シャールカを戻すことで聖騎士王家をより強固にまとめさせようとしてるのですわ。そう、まとめて、どーんとやるために。どーんと!」


 ハナが大げさに両手を上げて表現する姿は、微笑ましいものであった。しかし内容は過激に尽きる。


「まあ、王家として立ち上げるには、ブレスニークもやはり戴冠式なんぞを行うであろうし、その準備で人が集まる必要があるか」

「他の大陸の方も来るでしょうし、貢献した人間を報いる場にもなりますわ。それに新しい王家の力を示す必要も」

「もちろん、そういう場なら、向こうも最大の警戒をするんじゃないか、ハナ」

「そんなの、シュタク少佐の武力の相手にはなりませんわ。剣聖を部下に持ち、それよりも強い方ですわよ、お兄様?」

「……ううむ。しかもアイツ、何やらまた怪しげな人間を引き込んでおるからな。しかし、シャールカとヴィルの仲睦まじさは有名だった。そこまで非情になるか?」

「私の知るヴィレーム兄様なら、しないでしょう。ですけどシュタク少佐なら、すると思いますわ。お噂でしか知りませんが」

「仇を殺すために、自分の女すらくれてやるか……ヴィレーム……」


 自分では思いつきもしない考えに、ザハリアーシュはその大きな肩を落として残念がる。


「オレはアイツが皇帝なら良いと思うのだが」

「嘘でもそれはいけませんわ、皇太子殿下」

「すまんな、ハナ」

「それに今はシュタク少佐のお好きにされるが良いでしょう。そうすれば、自然と帝国はまた盛り返します」

「……それぐらいはわかる」

「だと思いましたわ」


 ばつが悪そうな顔のザハリアーシュに対し、ハナが意地悪げに笑う。


「しかし、お前、そんなに腹黒かったか?」

「あら、私、アダミーク閣下に腹黒と呼ばれるぐらいには、知恵が回るつもりでしたのよ、お兄様」


 今まで知らなかった妹の一面を知り、ザハリアーシュが困惑のため息を零した。


「ううむ……我が一族は大丈夫なのか……」

「逆にお兄様、私やヴィレーム兄様をまとめるには、お兄様ぐらいの善人が良いのです。悪意がなければ、私もヴィレーム兄様も悪意を持たずお兄様を立てる。それが我慢ならなかったのがエリク兄様」

「まあ、弟妹が盛り立ててくれるというのだ。オレも乗っかるぐらいの気持ちでいるとしよう」


 諦めたように呟く脳筋と呼ばれた次期皇帝を見て、妹姫が華やかな笑みを送る。


「それがよろしいですわ。それにほら」


 妹が手で指し示す方向を見ると、そこには皇族に使える執事が手紙を盆に載せて近づいてくる。恭しく差し出されたそれを受け取り、ザハリアーシュは中身を確認した。


「……おう、ハナの言う通りだったな」

「でしょう? で、詳しくは何と書かれてるのです?」

「シュタク少佐からだ。シャールカ・ブレスニークを、『魔弓の射手』を名乗る少女に奪われることに成功した(・・・・)、だそうだ」

「あら、そのような者がいたのですね」

「しかしな、これ、ヴィレームはこちらが見破っていることを前提に書いてるのだが」


 苦笑いを浮かべて手紙を懐にしまうザハリアーシュ。ハナはその兄をからかうように、


「そう書けば、お兄様はとりあえず作戦だったのだなとお責めにはならないでしょう?」


 と笑いを含みながら問い掛ける。


「……まったく、困った兄弟たちだ」


 大柄な兄は背もたれが軋むほどに体重をかけ、天を仰ぐのだった。

 同時に善人過ぎるザハリアーシュは、ハナと違う考えを思い浮かべる。

 ヴィレームは何としてもシャールカを生かすために、無理矢理このような戦略を立てたのではないか、と。







 それから九ヶ月後、つまりレナーテ討伐から一年の後。聖騎士王家は設立と同時に瓦解した。

 他ならぬヴィート・シュタクの手によって。








 





巫女「わたしが行くわ!

他「どうぞどうぞ

巫女「えっ!?



シャールカが添い遂げたくて云々は、ハナが勝手に言ってるだけ。本心は第五章で。



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