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鎧の魔王のファンタジア  作者: 長月充悟
真竜湾攻略戦
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9、コンラートと勇者たち




 ■■■







「あの少年は起きたのか?」


 砂に上がった海竜に食事を与えていた竜騎士エリシュカは、小屋から出てきたリリアナに気づく。


「起きたけど、少し食事させて水分取らせたら、またウトウトし始めたよ」

「まだ小さいのにな。少年兵というヤツか」


 なおコンラートは十五歳で成人しており、どこの国でも戦闘に参加していておかしくはない。


「それで、ここを離れる準備は整ってきたの?」

「セラとアーシャが、ゴーレムを使って近くの町まで物資を買いに行っている。メンシーク卿は少し大きめの船を譲ってもらえるよう、交渉に行った」

「そっか……やっと帰れるんだね」


 すでに一年以上、真竜国を離れていた。望郷の思いというよりは、やっと目的に辿り着くという安堵だった。

 それに反し、竜騎士エリシュカは硬い声で、


「だといいが」


 と独り言のように呟く。


「昨日戦った、小舟に乗ったEAの話?」

「ああ。あれが大挙して押し寄せれば、四匹しかいない竜騎士では対処できまい。必ず抜かれる。そして一機でも辿り着かれたなら、港町は大きな被害を被るかもしれん」

「そうなったら……帝国が船に乗っていっぱい来る」

「そうだな。制海権を得たなら、向こうには移動手段は山ほどある。不安定な海の上でなければ、奴らも竜騎士と戦い易くなる。何よりも」

「うん……ヴィート・シュタク」

「そうだ。あの男が上陸すれば、何が起こるかわからん。私たちも海上戦に介入できるのが一番良いが……」


 エリシュカが腕を組んで考え込もうとすると、海竜が小さな唸り声を上げて、大きな頭を竜騎士に擦りつける。


「こらっ、満足したなら、一眠りしろ。私は遊んでる暇はないぞ」


 竜騎士が笑いながら、海竜の鼻先を撫でてやる。


「すっかり慣れたよね、海竜君」

「頼れる相棒だ。しかし、レクターが手に戻って来たのは丁度良いな」


 二人とも、小屋の近くに寝かされている鎧を見る。白地に青い線の入ったEAだ。


「うん。聖騎士用のセインツレイダーだから、ちょっと適正のある人はいないけど、それでも誰かが使えば大きな力になるよ」

「さっき少し見たが、中身は帝国にだいぶ変えられているんだな、リリアナのレクターと」

「あれかー……いいなぁ、帝国は。着心地が良くて」

「そうなのか?」

「うん、中の魔導緩衝材も滑らかなの! 私のなんか、ごわごわで素肌に当たるとちょっと痛いもん……」


 嫌そうに大きなため息を吐くリリアナの姿を見て、エリシュカが微笑む。


「リリアナ、エリシュカ、戻ったわよ」


 黄金のゴーレムの肩に乗るアーシャと賢者セラフィーナが、彼女たちに近づいてくる。


「おかえりー。どうだった?」

「色々手に入ったわよ。情報もね。後で話し合いましょ。ところで、あの子は?」


 セラがゴーレムから飛び降りる。カバンからいくつかの荷物をリリアナに渡していった。


「さっき起きたよ。今はまた寝てるかも」

「そう。ちょっと色々聞きたいことがあるから、起きてもらうけど大丈夫そう?」

「体に悪いところはなさそうだけど……セラさん」

「わかってるわよ。私たちは帝国じゃないんだから、酷いことはしないから」

「良かった……」

「でもヴィート・シュタクの部下だから、色々と聞けると良いんだけどね」

「それは……そうだね」

「じゃあ、行きましょ」


 賢者が小屋へと歩いていく。他の三人もその後ろをついていった。











「……何も喋んねえぞ、オレは」


 手足を縛られたままのコンラートは、椅子に座って見下ろすセラフィーナに反抗的な目を向ける。


「そう。まあいいわ。ところでヴィート・シュタクってどんな人?」


 警戒する帝国の少年に対し、賢者はなるべく優しげに世間話のように振っていく。


「いやだから、何も」

「好きな食べ物は? 恋人とか、そういうのはいる?」


 部屋の真ん中で、火の付いた薪が小さく弾ける。

 冬の海岸にある漁師小屋とはいえ、アーシャによって修繕されたその場所は、充分に暖かい。


「……知らねえ。だけど、黒豆茶は良く飲んでる」

「黒豆茶か。苦みがクセになるわね。私も久しぶりに飲みたいかも」


 勇者や竜騎士はコンラートの後ろの壁にもたれかかって、不測の事態に備えている。アーシャだけは個人では戦力を持たないので、セラの少し後ろで座って火に当たっていた。


「あんな苦えもん、どこが良いんだよ」


 コンラートが顔を逸らし、吐き捨てるように返答した。だがセラフィーナはニコリと笑った。


「何回も飲んでると中毒みたいに虜になるのよ。恋人とかいそう? モテるんじゃない?」

「怪しい仮面だぞ。ああ、何か研究者とは仲が良さそうだったな。あとは公爵令嬢か」

「公爵令嬢? さすが英雄さんね。私とどっちが綺麗な人?」


 わざとらしく青く長い髪をかきあげる。

 その様子をちらっと見た後、コンラートは、


「女にゃ興味はねえよ」


 と言う。


「あら? まさか」

「ち、ちげえよ! オレは剣一筋なんだ!」

「あ、そういうことね。あなたはかなりの腕前だものね」


 今度は心底尊敬しているかのようにおだてる。


「……ケッ。大したことねえよ。そこの勇者の方が強えじゃねえか」

「そりゃあ、リリアナは勇者だからね。でも、リリアナと対等に打ち合えるだけで大したものよ。これはホント」

「……へっ」


 自嘲する様な笑みを浮かべるが、そこまで悪い気はしてないらしい。

 セラフィーナは今までの会話である程度、コンラートという少年を把握し始めていた。

 剣に自信があり、少年らしさを強く残した、ガキ大将のような十五歳の軍人だ。これならまだやりやすい。


「でも、ヴィート・シュタクが迎えに来ないわねえ」


 わざとらしく小さなため息を吐く。


「来ねえよ、アイツは」


 その言い草に、セラフィーナは内心でおやっと思った。

 あまり仲が良くないのだろうかと疑問を抱いた。


「まあ、血も涙もない男って噂だしね……」


 少しだけ探るように、噂という単語をつけて少年の上司を下げて言う。


「……ふん。あんなヤツ」

「どうしたの? ケンカでもしてるのかしら?」

「普段から仲は良くねえよ。でも仕事だしな」

「でも、仲が良くない人が上司だったら、やりにくくない? 例えば、作戦の方針とか」


 賢者は不自然にならないように会話を繋ぎながら、脳内では目の前の少年から情報を引き出す言葉を探していた。

 腕に自信があって、ヴィート・シュタクを好ましく思っていない。

 そして今までの、目の前の少年のレクターの行動を思い出す。


「作戦なんて、仕事だ。関係ねえよ」

「でも、嫌な仕事はなるべくしたくないじゃない。私だってそういう思いはいっぱいしたわ。わかるわよ」

「……ケッ」

「そうねえ。作戦とはいえ、あなたみたいに強い人が、罪もない人を殺すのは似合わないと思うし」


 その言葉に、コンラートの肩がびくっと震えた。

 やっぱりそこか。

 上手く探り当てたとわかり、ほくそ笑む。


「さて、食事にしましょ。リリアナ、手の縄は解いてあげて」


 賢者は立ち上がりながら、勇者に声をかけた。

 あとは食事をしながら引き出せばいい。

 踵を返し肩越しにチラリとコンラートの顔を覗く。

 黙って縄を外されている青い髪の少年は、苦虫を噛み潰したような顔をしていた。










 木の器に盛られたシチューを持ったまま、コンラートは考え込んでいた。

 あの隊長は助けに来るのか。

 テオドアとミレナは来ようとするかもしれない、と思う。

 何せ付き合いは軍の学校以来だ。口に出すのは憚れるが、コンラートに取っては友達と言える存在だった。


 ――隊長はどうだろな……。


 常に生意気な態度だった。やはり心象は良くないはずだと知っている。

 どうにも口が悪いのは自覚している。それでも、最近は軍の偉い人間相手に押し黙るぐらいの分別を得ていた。

 しかし、ヴィート・シュタクは怪しい風体のくせに、妙に気易い。反抗的な態度でも笑って流す余裕を持っていた。

 逆の言い方をするなら、軍の英雄だと聞いていたのに、拍子抜けした部分でもあった。

 それが少し気に入らなくて、コンラートはまた悪態を吐く。

 そんな繰り返しだった。

 ミレナに何度も注意されていたが、彼女も半分諦めていた。

 そういうこともあって、自分が隊長からの心象が良くないだろうと思っている。

 反対に、コンラートがシュタク少佐に失望した部分もあった。

 仮面の男がとてつもなく強いことぐらいは、コンラートも理解している。彼が敵わなかった剣聖をあっさり葬り、勇者相手にも一人で互角以上に打ち合う。

 そんな自分より強い男が、ボラーシェクの戦いでは人質を取り、力なき住民を虐殺していった。


「どうしたの? コンラート君? あんまり口に合わなかった? 野菜と鶏肉多めで一応、帝国風にしたつもりだったけど」


 隣に座っていた勇者が、心配げに覗き込んでくる。


「い、いや、大丈夫だ。食える」

「そっか。住んでたのは結構前だから、自信なかったの。でも良かった」


 ホッとした様子で、勇者が再びシチューを口に運ぶ。

 彼女をチラリと横目で見てから、コンラートも同じように暖かい食べ物を口に入れた。

 彼は自分でもあんまり認めたくないが、勇者の容姿が可愛らしいと感じていた。

 革の鎧こそ着ているが、話の中身は普通の町娘みたいだなと思っていた。


「なあ、勇者」


 思い切って話しかけてみる。今まで敵だった分、少し緊張した。


「リリアナだよー。名乗ったのになぁ」

「あ……悪い」

「ううん。で、何かな、コンラート君」


 妙に警戒心が薄いのが気に掛かったが、コンラートは息を飲んでから、


「オレのこと、隊長……シュタク少佐に頼まれたって言ったよな」


 と問い掛けた。


「ん……そうだね。アイツと一緒に遺跡の地下に落ちたとき、水と食事を分けてもらったの。だから、これでおあいこ! 借りは返した!」


 不服そうに答えるリリアナだったが、どこか楽しそうに見えた。

 ユミル神殿の地下に落ちたときは、勇者とも途中まで協力して戻って来たと彼も聞いた。

 なのにボラーシェクの廃城では、住民を虐殺した。

 その事実がコンラートの頭を混乱させる。あれからずっとだった。


「……なあ、賢者」

「セラフィーナよ、コンラート」

「……セラフィーナ……ヴィート・シュタクはまた、あの城みたいなこと、すんのかな」


 彼は誰かに否定して欲しかった。

 なぜなら、ヴィート・シュタクのことを、心のどこかで尊敬していたから。その強さに畏敬を抱いていたから。


「すると思うわ」


 だが、賢者は素直にそう答えた。


「……だよな」


 否定はもらえなかった。

 彼自身もそう考えていたが、否定して貰いたかっただけだった。

 当たり前だとわかっていても、なぜか落胆してしまう。

 賢者が真っ直ぐコンラートの目を見つめる。


「今、帝国が進めているっていうニーズヘッグという計画。これが完成すれば、また罪のない人たちが殺される。今度は真竜国で」


 真剣な眼差しである。

 コンラートはそれを受け止められず、周囲を見回した。

 一緒に食事をしているのは、いずれもヴィート・シュタクより弱い女たちだった。だが、誰もが賢者と同じ表情をしていた。


「コンラート」

「何だよ?」

「できれば教えて欲しい。あなたたちの作戦『ニーズヘッグ』の中身を」

「……敵だぜ。漏らすかよ」

「これを防げば、ヴィート・シュタクに虐殺をさせないで済む。そこからまた平和を模索したい。その後でなら、私はいくらでも罰を受けるつもりでいるわ」


 賢者セラフィーナは、敢えて偽りのない本心を語った。

 それが目の前の少年の心を揺さぶる、一番の手段だと思ったからだ。


「……そうかよ」


 コンラートは少しだけ天を仰いで目を閉じる。

 しばらく沈黙した。目に焼き付いているのは、楽しそうな声を上げて、人を殺していく黒いEAだ。

 周囲にいた彼女たちも黙って次の言葉を待った。

 次に瞼を開いたコンラートは、彼女たちと同じように真剣な眼差しを浮かべていた。


「……言うわけねえだろ。これでも帝国軍人だぜ」

「そう。まあ、冷める前に食べた方が良いわ」


 答えがないことを気にした様子もなく、セラフィーナは自分の食事へと戻る。他の人間たちも同様だった。

 その様子にホッとし、彼も自分の食事に戻る。

 何とか逃げ出すべきだと考えるが、相手は勇者や賢者だ。生身のコンラートで敵う相手ではないことぐらいわかっている。

 それにレクターも取り戻さなければならない。


 ――いくら隊長のやり方が気に食わねえとはいえ、さすがに帝国を裏切るなんてできねえよ。


 コンラート・クハジークは何とか自分自身を納得させた。

 彼の安堵の表情を見たセラフィーナは、内心でため息を吐く。


 ――素直に喋るとは思わなかったけど、あと一押しで行けそう。


 説得が一度で上手くいくとは彼女も思っていなかった。それでも手応えはあった。

 年端もいかぬ少年の心を操ろうとするのは気が引けるが、真竜国の人間の命がかかっている。

 どうにかして喋ってもらわなければ、と賢者はその頭を回転させるのだった。


















情報:リリアナは基本がその辺の町娘なので、普通に料理ができる。セラは壊滅的、アーシャはあんまり食べないので、気にしない。エリシュカは細かいことは気にしない。メンシークはめっちゃできる


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