3、それぞれの作戦準備
■■■
メノア帝国、右軍大将アネシュカ・アダミークは、肌を叩くような風雪の中、荒々しい海を睨んでいた。
「どう思う?」
艶のある長い黒髪が激しい風に攫われ、顔の左半分を隠す革のマスクが露わになる。
「……厳しいですな。毒殺作戦は成功したようですが」
同じような軍服を着た壮年の軍人が、苦虫を噛み潰したような顔で答えた。
アネシュカが遠見の魔法で見ているのは、海上で軍船を焼く竜の姿だ。その上には軽鎧を着た竜騎士が乗っている。
「未だ健在か。見えるのは聖色竜四匹と言ったところか。下級の竜は潜入工作で死んだようだが……」
「あれだけでも厄介ですな」
北西三カ国連合のうち二つを滅ぼしてから二年以上。
最後の一国を滅ぼすために海を渡る手段を考えるが、ことごとく竜騎士によって阻まれてきた。
相手は長距離を苦も無く移動し、小回りも効いて船を焼く炎も吐ける。
飛行船を出すことも考えないでもないが、大きな船体で空中戦に勝てるとは思えない。
ゆえに今回は真竜諸島共和国に潜入している工作員によって、竜騎士の乗る竜たちを毒殺した。
だが、残念ながら上位の竜たちは生き残ってしまったようだ。
「とりあえず、長距離砲撃型ボウレで追い払え!」
将軍の命令に、大きな弓型武装を持ったEAが歩いてくる。
自らの身長ほどもある弓を構え、弦を弾いた。それは緑のレクターから解析された兵器だった。
光る魔力の弾が何発も飛び出していく。
それは通常のボウレと違い、一ユミルほども届く魔力砲撃を放つことができる。
「ちっ、かわしたか。逃げてくぞ。救助急げ! ボウレはそのまま撃ち続けろ」
彼女の号令に従って軍が動き出す。
「威力偵察、というには派手すぎるか」
「密偵を使って毒殺した我々に対する意趣返しでしょうな」
毒殺が成功したとの一報が入り、偵察のため艦船を出した。
だが、港を出港して間もなく、真竜諸島のある北西の方角から竜騎士が飛来したのだ。
「そうだろうな。とりあえず作戦の詳細は練り直す」
「了解です。作戦本部を招集します」
「いや、全力で救助に入れ。それが終わってからで構わん」
「はい」
部下が走って行くのを見送り、アネシュカは再び荒れる北の海へと視界を戻す。
そこは真竜諸島共和国に繋がる内海に面していた。
今は厚い雪雲に覆われ見えないが、数百ユミルほど先には真竜諸島がある。円形にくりぬかれたような大陸北西の地形に、東から南西へと延びる三日月型の列島だ。
「ふん……まあいい。作戦全体としては順調だ」
艶のある黒髪が再び突風に煽られる。
いつもなら、上位竜二匹程度と下位竜五匹程度で編隊を組んで襲ってくる。それが今回は四匹の上位竜のみだ。
聖白竜と呼ばれる筆頭騎士の騎竜はヴィート・シュタクが殺したので、残り四匹となった。一匹ずつは確かに強力だが、数が少ないならやりようはいくらでもある。
それでもやはり、自分の軍が蹂躙されているのは面白くない。
憎々しげに海の向こうを睨むアネシュカの顔を、冷たい空気が舐めた。
「これで遊んでなどいたら、折檻だぞ……ヴィル」
■■■
日差しがクソ熱いのに背筋に寒いものが走ったぞ。なんだ?
「隊長? 聞いてんのか?」
「何でもない。さて、調子はどうだ、コンラート」
我々シュタク特務小隊は、帝国南方にある砂浜に飛行船を止め、準備に入っていた。
オレはいつものシュタクの格好に戻り、南国仕様の涼しげな軍服を着ている。
「……何でオレたちだけ、こんなに泳いでるんだ? って言ってんだ」
コンラートが不満を隠さずにいる。そりゃそうか。
「仕方有るまい。次の作戦はEAで波乗りする予定だ」
砂浜から続く遠浅の海の上では、ミレナが赤いレクターのまま小舟の上に立ち、遠くに浮かぶ的に魔力砲撃を撃っている。
「こんなバカバカしい方法で、ホントに勝つ気かよ隊長」
青色のレクターは右半分が海中に沈んで、足と手だけが海面から飛び出している。
もちろん、さっきまでコンラートが乗っていたものだ。今はボウレたちが回収に向かっている。
「バカバカしいとはオレも思うがな、コンラート。だが命令だ。しっかりとこなせるようになっておけよ」
「くそっ……こんなんばっかだ」
「本番の海はここと違い冷たいし深いぞ。落ちないようにな」
「……マジやめたくなってくる」
「ボヤくな。ほら、また行ってこい」
「わかったよチクショウ」
コンラートが青線の入ったEAへと、肩を落として向かう。
何か元気ないな、こないだから。憎まれ口が減るなら結構だが、やる気も減るようでは困る。
コンラートが向かう先では、ボウレたちが引き上げたレクターをひっくり返していた。中から海水と小魚が落ちている。
やれやれと内心でため息を零しながら、オレは大きな日傘の下にある椅子に腰掛けて足を投げ出した。
「あれー? コニーはまだできないの?」
砂浜の外にある宿舎の方から、水着姿のエディッタが歩いてきた。
緩やかに波打つ茶色い髪を肩に乗せ、比較的大きな胸と腰だけを隠す緑色の水着を着込んでいた。頭には焼けないよう麦わら帽子を乗せている。
バカンス気分にも程があるぞ。休暇は昨日までだというのに。
手には二つの木製のカップを持っていて、一つをオレに差し出した。
「助かる。暑くて死にそうだ」
「進捗悪そうね、コニー」
「コンラートには向いてないんだよ。本番では無理させないようにしないとな」
オレの隣にあった椅子に座り、足を組みながら冷たそうな果汁に口を付ける。
「しっかし、あれ、ホントに行けるのかなー。ここらの波は穏やかだけど、北の海は荒いわよ、波」
「ここで駄目なら北でもできん。段階を踏んでるだけだ」
昨日は海に慣れるためのバカンスだった。本当だ。
コンラートが青い髪を撫でつけてから、海水に濡れたEAに乗り込む。
次に砂浜に置いてある小型艇に足を掛けた。人間なら三人ぐらい乗れるサイズだ。
その船は浮力の高い木でできており、縁を鉄で覆っている。今は見えないが、後部の水中には回転する羽根をつけていた。
レクターたちも、脚甲の付与魔法刻印を特別仕様に変えていた。船に敷き詰められた魔導素材を伝わり水中回転翼まで魔力を通して、水中回転翼を動かすことができるのだ。
そんな小型艇にEAが横向きに乗り、体重移動で曲がる。これを北の海で使うための訓練をしに、暑い南の海にまで来たというわけだ。
「あのクソ主任が考えた小舟、大丈夫なの?」
エディッタが足を組み替える。眉間には不安げに皺を寄せていた。
「小舟と言うな。不安になるだろう。『モーターボート』だ」
「リダリア語好きねえ、アイツ」
「リダリアのエルフらしいからな、元は」
「へぇー。隣の大陸から旅してくるエルフなんて珍しいわね。で、少佐は乗ったの?」
「残念ながら、バルヴレヴォは脚部装甲の換装ができなくてな」
「面倒くさかったからじゃ?」
「重いんだよ、あの鎧。小舟程度じゃすぐ沈む。なのでオレはEAなしで、この板を使って波乗り」
すぐ近くに転がっている、二等辺三角形の木の板を視線で指し示す。
「また珍妙なことを……」
「意外と楽しいぞ。波乗りは。お前も後でやってみるといい。運動不足解消になる」
「暇になったらやるわ」
「しかし、お前が新型機を間に合わせてくれたら良かったのにな」
「無茶言わないでよ。EAに触れるようになったのは最近よ。あんな繊細な魔法刻印の設計なんて、クソ主任しかできないわ」
「ならオレは、相変わらずこの板で波乗りをするしかないな」
沖から来る少し大きな波を捕まえて、その上に立ち、体重移動で操作しながら浜まで辿り着く。
これがやってみると意外と楽しいんだが、体力を消耗したので今は休憩中だ。
「言い訳が得意ねえ」
「責任だけはオレが取る。……あ、コンラートがまた落ちた。ミレナ!」
「は、はい!」
戻って来たばかりのミレナが、再び慌ててレクターに乗り込み、コンラートが沈んだ場所へと走り出す。
「大丈夫なの?」
エディッタが不安そうに尋ねてくる。気持ちはわかる。
「足が付くぐらいの深さだ。すぐに助ければ死ぬことはない」
「いや、そういうことじゃなくて」
「わかってる。言うな」
肘掛けに肘つき、大きなため息を吐いた。
生真面目なミレナは、猛特訓をして何とかできるようになった。
「テオドアはどう思う?」
「へ? い、いや、コンラートは……その、出さない方が」
何かと小器用なテオドアはすぐに慣れた。今は近くで砂浜に座り、休憩しているところだった。
「戦友だからな。間抜けな死に様は避けたいものだな」
「へ、へい……」
いつものふざけた調子がない。
まあ、脅しが効いているようだ。
こいつがブレスニーク公爵に繋がっているのはわかった。その企みの全容まではわかっていないが、今は泳がせることにしている。
どのみち、オレとシャールカが結婚するまでだ。アイツの名字がメノアに変われば、ブレスニークは粉砕されるかもしれんがな。
「無事みたいね、コニー」
エディッタが苦笑を浮かべながら教えてくれる。
ミレナのレクターがぐったりしたコンラートを担いで戻ってきたところだ。
「……ホントに大丈夫か、この作戦」
「アンタが言わないでよ……」
「だよな……」
オレは大きくため息を吐く。
まあいいか。
「シュタク少佐」
透明感のある声で背後から声をかけられ、首を動かし背中の方を見る。
「ん? どうした、ブレスニーク特別顧問」
そこには白いワンピースを着込み、お連れのメイドの日傘の下に収まったシャールカが立っていた。
「少しあちらでお話が」
「わかった……。ミレナ! 休憩だ。コンラートも日陰で寝かしとけ!」
「了解しました!」
オレの命令に、少し遠くから返事が聞こえてくる。
「じゃあ行こうか」
シャールカが頷いて歩き出す。
チラリと椅子に座ったままのエディッタを見れば、楽しそうに手を振っていた。
クソッ。お前が水着なんかで来るせいだ。
そのままシャールカとメイドの後ろを無言で歩く。
足元が砂から土に変わり、その先には軍の高級保養所の涼しげな建物が見えた。
「シュタク少佐」
「何でしょうか」
「少しオラーフ女史と距離が近いのではないでしょうか?」
やばい。すごい険のある口調で責めてきた。
「……申し訳ない。研究員に推薦したのも自分なので、気を許しすぎているようだ。気をつける」
「お願いします」
ルカがぷいっと顔を逸らす。
最近、これが多い。仕事でエディッタと会話していても、割り込んでくる。
オレとヤツはどうにも性格が似ているせいか、会話が合うので長話になることが多い。それが余計に気にくわないようだ。
無表情なように見えてたが、わずかに不満げな口元が見えた。
「いや、ホント申し訳ない」
「ホントにわかってますか?」
「わかってる。だがな、少しぐらいは」
「少しぐらい?」
「いや、なるべく接触を断つ。ホントすまない」
「なら結構です。EA開発局の研究員とはいえ、シュタク少佐に必要以上に接触する必要はないはずですから」
オレとは違い、どうにも彼女はエディッタとウマが合わないらしい。
まあ、アイツは生粋の貴族令嬢であるシャールカと違い、世間擦れし過ぎてるからな。
しかし、どうするかな。目の前の美しいご令嬢はご機嫌が斜めなようだ。
「さて、ブレスニーク特別顧問」
「何でしょうか、シュタク少佐」
「これから少し早い昼食にするが、付き合うか?」
「それはご機嫌取りでしょうか?」
「いや、美しいあなたの顔を見ながら食事をすれば、慣れない南方の調味料も美味しく感じるかもしれないと思ったんだ」
精一杯のお世辞を言う。これで機嫌を直してくれよ……。
アイマスクを被ったオレの顔を、立ち止まり振り返ったルカがじっと見つめてくる。
向こうも無表情なので、お互いに表情は見えない。
……駄目か。
くそっ、わからん。
つい頭をかいて顔を逸らしてしまう。
「ふふっ」
小さな笑い声が聞こえてきた。
顔を正面に戻せば、シャールカが口元を抑えて上品に笑っている。
「あー、えっと、ご返事は?」
「わかりました。シュタク少佐がどうしてもお付き合いして欲しいと申し出るので、こちらも折れることにいたしましょう」
そこまでは言ってない。が、ご機嫌取りに成功したようでホッとする。
「助かるよ、特別顧問」
「では参りましょう? シュタク少佐」
心なしか楽しそうに見えるルカが、オレの前を歩き出す。
やれやれ。
もう一度、安堵のため息を吐き、彼女の背中を追いかける。
平和なことだ。
とりあえず、婚約者との仲は何とか良好です。
……遊んでるわけじゃないから、後で報告しても、折檻とか勘弁してくれよ、母さん。
■■■
「ヴラシチミル、例の計画はどうだ?」
帝都にあるEA開発局の研究室で、枯れ木のような体のエルフがギョロ目を動かして驚いた。
「へへへ陛下! こんなところに、何の御用ですかねえ?」
突然の来客は、帝国で一番の権力者であるメノア皇帝ユーリウスであった。その後ろには近衛兵が四名おり、二人の文官も付き添っていた。
慌てて膝をつこうとした白衣のエルフを、皇帝は手で制止する。
「お前に礼儀など求めておらん。で、どうだ?」
苦笑いをしながら近づいてくる皇帝に、ヴラシチミルはホッとした顔で笑った。
「マナドライブのことですかねえ? まあ、そっちは簡単でしたよぅ」
「本当か? その割にはヴィルから私に報告がないが」
気さくな態度で笑いかける皇帝に、ヴラシチミルは顔に手を当て、わざとらしく天を仰ぐ。
「ですよねぇ。いやいやいやわかってるんですよぉ、でも、なかなか上手くはいかない」
困ったように笑いながら、皇帝は研究室の中にあるガラス窓を見る。
そこにはもう一つの部屋がある。部屋中が装甲版で覆われており、物々しい雰囲気を放っていた。
「で、ヴラシチミル、マナドライブとやらは?」
「ちょうど始まるところですよぅ。ご覧下さいなぁ」
二人して並び、ガラス窓の向こうに注視する。
「あれか?」
一辺二十ユルほどの大きな部屋では、粗末な服を着た男と鎖に繋がれた凶暴な狼型の魔物が向かい合っていた。
「男は貰った犯罪者ですなぁ。マナドライブを使って、あの狼を倒せば刑期を半分にするって感じですねぇ」
「あの狼は? 随分と大きいな。三ユル近くあるぞ」
「その辺にいる一級冒険者が数人で相手するような魔物ですぅ。たまたま生きて捕獲したヤツですなぁ。おっと、始まりますよ」
隣室での実験が始まり、二人とも無言で見守る。
犯罪者という男は、背中に大人の手の平サイズの円盤をつけている。一方の魔物は太い鎖に雁字搦めにされていて、ロクに動くことができないようだった。
「さっそく魔法を使うようですねえ」
「内容は知らせているのか?」
「ええ。魔力を大幅に増幅させる装置だと教えています」
男の背中にある円盤の周囲が、淡い緑色に光る。空気中にある魔素が集まり、強制的に魔力へと変換され、男の体に注ぎ込まれているのだ。
犯罪者の男の体が淡く発光し始める。体内にある魔力が漏れ出ているのだ。その光を見て、男は興奮し始めていた。魔力の増大が実感できているようだった。
「『おお、すげえ、これがこの装置の力かよ!』ってところですかねぇ」
ガラス窓の向こうから声が聞こえてこないので、ヴラシチミルがわざわざ代わりにセリフを言う。
「変なモノマネの解説はいらんわ。しかし、やっと魔法を放つか」
男が右手を伸ばし、口を動かして魔法を唱える。右手の先に三重の魔法陣が発生した。
「あの男が本来なら使えないはずの、火線の魔法を唱えさせています」
魔法が完成し、男の右手から伸びた大きな熱の光線が狼を穿った。眉間から背中まで拳大の穴を開けられ、魔物が倒れる。
その光景に、皇帝の背後から覗いていた臣下たちが、
「おおっ」
「すごい」
「あのような魔法を普通の男が!」
などと驚きの声を上げる。
ただ皇帝はただ眉をひそめるだけだ。
その隣にいたヴラシチミルが肩を竦め、
「駄目でした」
と苦笑いをする。
その次の瞬間、隣室の犯罪者が、口から血を吐き出す。それから目や鼻などあらゆる穴から血を吹き出し、最後は背中にある装置が爆破して、男が前に倒れる。
ぴくりともしない。
臣下たちは目を見開いて沈黙する。
「これはどういう現象だ?」
怪訝な口調で皇帝が問うと、エルフの研究者はギョロ目を閉じ、
「体内許容魔力量を超えた魔法を放つと、ああなるらしいです」
と低い声で答えた。
「ほう? 聞かない現象だな」
「今までそんなことができた人間がいませんので、わかりませんでしたがね。魔素を許容量以上取り込んで体が魔力へと変換するまでは大丈夫らしいです。ただ、魔法を放つと、そのベクトル、えっと力の方向性に引きづられて、強制的に残りの魔力まで放出してしまう」
「つまり、魔法を放つと、魔力が空になるまで血液と共に吹き出して死ぬと」
「そういうことですよ、陛下」
「ヴラシチミル、口調」
「おおぉっと、私としたことがぁ。こりゃぁ失礼しましたぁ」
真顔だったエルフが、へらへらと笑い始める。
「ふむ。役に立つのか? これでは人間が使い捨てになる。勿体ない」
「やりようですよぉ、陛下。それに耐えられる器を用意すればいいんですよぉ」
指をピンと立てて、白衣の男が得意げに語り始める。
「器? ああ、魔素希薄化のせいか」
「そうですそうですそうなんですぅ。この世界は千年前より空気中の魔素がずっと希薄化してきた。それはつまり、体内に膨大な魔力を溜められる存在も、取り込む魔素が足りずに弱体化しているということですねえ」
「だから、そういう存在を使えば良いと」
「聖龍なんかがずっと寝ているのは、このせいですからねぇ。ヤツの魔力許容量に合うほどの魔素が手に入らないんですぅ。だからヤツは比較的魔素の濃い真竜諸島の山の中で寝ているんですぅ」
ヴラシチミルの解説を聞き、皇帝ユーリウスは腕を組んで考え込む。
「失われた魔法の再現もできるか?」
「そっちは使用方法も、大部分が失われてますからねえ」
「なら、ヴィルが依頼しているものは大丈夫そうだな?」
ニヤリと笑うユーリウス。その笑みは、ヴィート・シュタクの戦場での顔によく似ていた。
「そこはご安心をぉ。でもでも、魔力を溜め込めば使える、特殊な魔法や特性、技能なんかが、まだまだ存在してるかもしれませんねえ。それはこれからの研究次第ですなぁ」
「わかった。では引き続き進めてくれ、ヴラシチミル」
「はいはーぃ」
ふざけた調子のエルフに背を向け、皇帝は研究室から立ち去ろうとした。
だが、扉の前で立ち止まる。
「しかし、これであちらの計画はもう終わるか……」
「帝国千年の計画ですかぁ。終わりが見えましたねえ。長かったですなぁ」
「苦労をかけるな。だが、必要なことだ。ではな、先生」
皇帝が去り、臣下も後ろをついて出て行った。
研究室に一人残ったヴラシチミルは、再び隣室が見えるガラスから犯罪者の死体を見下ろす。
そこにある表情は、先ほどまでのふざけた研究主任のものとはガラっと変わっていた。
「帝国千年の計画の成就、新時代への変遷か。長かったが、ようやく終わる。聖龍レナーテよ、悪魔との対決、貴様の敗北で終わりそうだぞ」
ヴラシチミル・ペトルーは、そのエルフとしての美しい顔を歪め、遠い地にいる龍を嘲笑ったのだった。
続・バカンス会
ちなみに私はガンダムも好きですが、基本はパトレイバーに洗脳されてます
帝国千年の計画はしばらく引っ張ります




