第七話 職業選択
「今日はもう暗いから一旦寝よう。」
「ガオウさんも僕たちの寝床に来てよ。」
「いいのかよ俺はお前を襲うかもしれないんだぜ。」
「そんなことしないでしょ。」
「っち。」
疾風は正直少しの不安はあったが帰り道親切に情報を教えてくれたガオウを信じた。
そしてその夜はガオウも特に何か行動するわけでもなく終わり朝になった。
「おはよう!」
「ああ、おはようシルヴィ。」
この起こされ方にも慣れてきた疾風はシルヴィに驚くことなく挨拶を返した。
それにしてもシルヴィはいつも早起きだなと疾風は思った。
ガオウもすでに起きているようだ。
ガオウは自前の携帯食料を、シルヴィと疾風は森でとった果物を食べた。
その時ガオウが異世界は人間界に比べ空腹になりずらいといった豆知識を教えてくれた。
確かにこの世界に来て食事をしたのは初めてだったがそんなに腹は減っていなかった。
朝食を食べた後小屋のような小さな家をでた。
「以外に大きな建物もあるんだね。」
夜の村しか見ていなかった疾風は日が昇っている村に感心した。
「まずは、キノコを売りに行かなきゃね!」
周りの建物に比べ少し大きな建物をシルヴィが指を指しながら言った。
疾風は頷きついていった、ガオウも二人の後を静かについていった。
すると、疾風たちのもとに一匹の風の精霊が近づいてきた。
「お父さん!」
「シルヴィ!」
「昨日は勝手に村を抜け出して心配したんだぞ!」
「ご、ごめんなさい。」
いつも陽気で自分勝手なシルヴィが素直に謝っている。
その様子をみて疾風も少し驚いた。
お父さんか。
疾風は人間界にいる家族のことを思い出した。
今は母親と妹と三人で暮らしていた。
父親については疾風が幼かった頃の記憶しかなくあまり思い出せない。
「君が疾風君か。」
「シルヴィがパートナーができたってずっとはしゃいでいたんだよ。」
「もう、お父さん!」
「それは言わない約束でしょ!」
「ごめんごめん。」
「疾風君わがままな子だけどシルヴィを頼んだぞ。」
「わ、わかりました。」
疾風は不意に話を振られかしこまった態度で返事をした。
「じゃあねぇ。」
シルヴィが手を振り、父親も去っていった。
どうやら、人間界の人間とパートナーを組んだ精霊は基本的にパートナーのみで生計を立てなければいけないようだ。
家族や友人を危険に巻き込まないためだとか。
シルヴィが小屋で暮らしているのはそれが理由だ。
シルヴィの父親が去ったあと再び店に向かい歩き始めた。
村の中を見渡すとガオウの言っていた人種、つまり異世界で言う人間が多かった。
ちらほら、角が生えていたり体が人間に比べると大きかったりする亜人も見られた。
そして意外なのは風の精霊があまりというかほとんどがいないことだった。
もちろん他の精霊はいない。
疾風はこのことをシルヴィに聞いてみようと思ったが店に着いてしまったので後で聞こうと思った。
「いらっしゃい!」
店に着くと耳の先が尖っている男の人が声をかけてきた。
恐らくエルフだ。
「おはよう、アールヴさん。」
「今日はこのキノコを売りに来たんだ。」
シルヴィがキノコを見せるとアールヴと呼ばれたエルフは目を大きく開いた。
「シルヴィ、それ・・・。」
「モリユダケじゃねーか!」
「しかも四つも!」
えっへんといった様子でシルヴィがどや顔を決めている。
疾風にとってはよくありそうなキノコだがこの世界では希少なキノコらしい。
「金貨2枚でどうだ?」
「えー、2枚ー!?」
「これ採るの凄く苦労したのにー!」
シルヴィが値段を釣り上げようとしたため、アールヴは困った顔をしていたがシルヴィに負けた。
なんと例のキノコが金貨2枚と銀貨5枚になったのだ。
相場はよくわからないが凄く良い値になったことは疾風にもわかった。
ちなみに銅貨10枚で銀貨1枚。
銀貨10枚で金貨1枚らしい。
「ありがとう、アールヴさん!」
シルヴィがお礼をした後、疾風もお礼をし店を出た。
「あのキノコあんなに価値があったんだね。」
「ほんとびっくりだよー!」
「私もお父さんに本で教えてもらって見たのは初めてだったから。」
「え!?」
シルヴィはよくわからず値上げ交渉をしていたらしい。
二人で驚いているとさっきまで静かにしていたガオウが口を開いた。
「あれは森の珍味の一つで売ると高値で売れるからな。」
「初心者の精霊使いには大人気だぜ。」
「詳しいんだね。」
「なんせ俺もお世話に・・・。」
「うるせぇ、どうでもいいだろ!」
数日前、そのキノコを見つけ大喜びしていた自分を思い出し少し恥ずかしくなってしまったのか、ガオウはそっぽをむいてしまった。。
「よし、これでお金も手に入ったね。」
「じゃあ、次は・・・。」
「次はギルドだよ疾風。」
シルヴィにギルドと言われ職業のことを思い出した。
ガオウの話によると職業の数はたくさんあるはずだ。
疾風はどんな職業につけるのか期待を膨らませながらギルドに入った。
ギルドの中には精霊使いらしき姿は見られず、人種と亜人がいくつかある丸い机を囲んでいた。
「え、精霊使いだけじゃないの?」
疾風はガオウに尋ねた。
「そりゃ、職業について「特技」とか使えたほうが生活に便利だろ?」
「別に精霊使いだけのもんじゃねぇ。」
言われてみると確かにそうだ。
職業の中には鍛冶屋、探検家、料理人など王になるのには全く関係のないものもあるようだ。
生活面ではものすごく役立つらしい。
疾風は真正面のカウンターにいるオーナーらしき人に話しかけた。
「あの精霊使いなんですけど、職業の契約に来ました。」
「あらやだ、こんなにかわいらしいボーイが精霊使いなの!」
少し見た目とは違う声に疾風は驚いた。
このオーナー遠目でみると女性にしかみえなかったが、近くで見るとヒゲを剃った跡があった。
おまけに顎は割れていて体もよく見ると凄くごつい。
化粧もしてるが近くで見てみると一瞬で男だとわかった。
「あなた、ギルドに来たってことは本格的に王を目指すってことでオーケー?」
相手の姿に翻弄されていたため少し返事が遅れた。
「は、はい。」
「久々の精霊使いね、で何の職業が希望?」
「え、えっと・・・。」
疾風は何も決めていなかった。
助けを求めるようにシルヴィとガオウの方を見た。
シルヴィは何でもいいよとだけ言ってくれた。
ガオウはため息をついた後少し悩んだあと意見を言った。
「風の力を活かせるのが第一だな。」
「あと武器・・・。」
そうか、そういう風に考えなくてはいけないのかと疾風は思った。
「騎士はどうだ?」
「騎士って剣と盾をもってるイメージのあれ?」
「それも騎士だがお前にそれは似合わねぇ。」
どっちなんだと疾風は思った。
「尖剣使いの騎士だ。」
「え、尖剣?」
自分の斧特化の戦士のように、尖剣特化の騎士とガオウは言った。。
「それだとどう僕に合うのさ?」
ガオウは再びため息をついた。
「風の力の半分の能力は風のように体を素早く操れることだろ?」
疾風はシルヴィを呼んだ時のことを思い出した。
風を感じたのと体が軽く感じたことだ。
あの時は必死だったため自分が素早く動けていることなど意識していなかった。
しかし、思い返せば確かに素早く動けていた。
「風の力と尖剣の突き。」
「定番だけど確かに強いわね。」
オーナーも押してくれた。
疾風は自分が尖剣を持つ姿を想像した。
かっこいい、これはかっこいいと思いにやけていると、
「まぁ尖剣は安くても金貨6枚ってとこね。」
とオーナーに現実に戻される言葉を突き付けられた。
6枚それはモリユダケが約12個の値段だ。
「それにあなた体も小さいからいい鍛冶屋に特性のものを作ってもらわなきゃいけないから、もう1枚はかかると思ってね。」
さらに追い打ちをかけるようにオーナーが言った。
「ギルド契約の銀貨5枚分もわすれないでね♡」
ウィンクしながら疾風に言った。
とりあえず今すぐ騎士は無理だと判断した疾風はオーナーに質問した。
「えっと、他の風の力を使う人はどんな職業になってますか?」
「そうねー、有名な子だと暗殺者とか?」
「あ、暗殺者!」
「そう、確かあの子の名は「精霊殺し」のダイだったかしら。」
「二つ名がもらえる精霊使いは王に近いといってもいいわね。」
「あ、ちなみに暗殺者は上級職ね。」
「精霊殺し」のダイ。
二つ名「精霊殺し」がつく風の精霊使い。
とにかく強いのは確かだが、仲間にならない他の種族の精霊使いは片っ端から殺すらしい。
その反面、自分の力では王になれないと悟り王の次に位の高いもの。
つまり、王のイスの封印を解く人間の枠を狙い近づくものもいるだとか。
しかし、実力のないものは殺す主義なのか近づくものも殺すらしい。
そのため「精霊殺し」のダイの仲間の精霊使いを見た人は、未だいないらしい。
何よりも驚いたことは他の種族だけでなく風の精霊使いも殺すことだ。
「上級職ってことは、下級職もあるってことですよね?」
「あるわよ、盗賊が。」
「盗賊?」
「そう、泥棒ってことよ。」
それが王になることにつながるのか、疾風はまたも疑問に思った。
シルヴィは早く決めてといった様子だが、ガオウの方は何か閃いたようだ。
「盗賊いいじゃねぇか、お前にぴったりだ。」
「どうしてさ?」
「黙って聞いてろ。」
ガオウは話しを遮られることを嫌い疾風を黙らせた。
「まず、戦術だ。」
「基本的に相手の後ろを取るように立ち回る。」
「そして、罠を使ったり地形を使ったりと身軽さがいる。」
「何よりもメイン武器がダガーで良いってことだ。」
確かにダガーなら持ち合わせがある。
「なぜダガーが良いかっていうと風の力が宿っているからだ。」
「そいつはそこの風の精霊が用意したもんだろ?」
「そうだけど、それが?」
「簡単に言うと、他の武器より扱いやすいってことだ。」
「俺の斧も土の力が宿ってる。」
「あら、あなたも精霊使いだったの?」
「しかも土の、よくこの村に入れたわね。」
「でも土の精霊が見当たらないわね、宿ってるわけでもなさそうだし・・・。」
ガオウは下を向いた。
その様子でオーナーはわかったのかそれ以上その話題を話さなかった。
疾風は空気を変えるように言った。
「つ、つまりこのダガーを使える盗賊が僕に合ってるんだね。」
「ええ、そうなるわね。」
「まぁ、最初の武器を加工して違う武器に変えるのもよくある話ね。」
「じゃあ、決めたよ。」
「僕は盗賊になるよ。」
「シルヴィ、いいだろ?」
「うん!」
シルヴィは自分が渡したダガーを使ってもらえるからか少し嬉しそうに見えた。
「じゃあ、俺は情報屋になるぜ。」
疾風が職業を決めた後すぐにガオウも希望の職業を口にした。