第五話 戦いのあとで
森の中で両膝を地面についている男と立ち尽くす少年の姿がある。
精霊はその様子を静かに見ている。
膝をつきうつむいている男はガオウ。
目の前の少年、疾風に敗れ自分の精霊にも逃げられ戦意を喪失しているどころか死を覚悟しているようだ。
疾風はそんなガオウに言った。
「殺せないよ、殺せるわけないじゃないか。」
「っ!?」
「俺はお前が言うことを聞かなかったら殺そうとしていたんだ。」
「見過ごしていいのかよ!」
ガオウは疾風の答えに不満げに怒鳴った。
「そうだとしても、今僕は生きてるし、君を殺す理由もない。」
「それに、この世界に連れてこられた仲間じゃないか。」
「仲間だと、ふざけるな!」
「俺は土の精霊のマイトを王に・・・。」
マイトと呼ばれるドワーフのような小人の精霊はガオウが負けるとわかるとすぐに逃げ出した。
ガオウを見捨てて。
「確かに王にしようとした精霊の種族は違うけど、僕は全ての種族の精霊が仲良くできる世界にしたいんだ。」
疾風は姿を見ただけで襲い合う精霊どうしの実態を体験したばかりだ。
他の精霊も自分たちのように争っていると予想もできた。
しかし、自分が王になればこの世界を変えられると思ったのだ。
風、土、火、水の精霊がなぜ対立しているのか競い合っているのかは知らないが、疾風の中で王を目指す理由が定まった。
「精霊どうしが仲良くねぇ、こんな頭の中お花畑の野郎に俺は負けたのか。」
「まぁ、お前が殺らなくても精霊のいない精霊使いは何もできねぇからな。」
疾風はガオウのことを少し可哀想に思った。
もし自分が同じ状況でシルヴィが逃げ出したらどうなっていたのか。
想像するだけでもおそろしかった。
「ねぇシルヴィ、この人の精霊もいないし何もできないなら一緒に旅をするってのはどう?」
「僕より先にエーテルランドに来てるし、土の精霊についても知りたいしさ。」
「てめ、何勝手に・・・」
「君ものを頼める立場じゃないよね?」
ガオウの声が遮られた。
黙っていたシルヴィが急に喋り始めたのだ。
「別にいいけど、足手まといならいらないよ。」
シルヴィはガオウを連れていくことに否定はしなかったが強く賛成してくれたわけでもなかった。
「そうゆうことなら一回村に戻ろう。」
「そこでガオウさんが何ができるのかってことと、次に僕たちが何をするのか話し合おうよ。」
この後、疾風はシルヴィを何とか納得させた。
納得させたのはガオウもだがガオウは少しうれしそうだった。
ガオウは自分で持ってきていた応急セットで足の傷を塞いだ。
ガオウが歩けるようになるまで周辺で木の実など本来の目的であるキノコを疾風とシルヴィは探した。
もともと体は頑丈だったため歩けるようになるまであまり時間はかからなかった。
3人はゆっくりと森を抜け出した。