第四話 土の精霊(ノーム)との戦い 後編
初めてガオウと出会ったとき疾風は逃げ出した。
そして一度は振り切ることができた。
戦闘はほとんどなく、疾風もガオウも傷を負っていなく万全の状態だ。
違う状態といえばそれぞれの精霊がすでに精霊使いに宿っていることだ。
「さっきはよくもやってくれたなくそガキ!」
「そのおもちゃで俺と戦おうってのか?」
疾風の右手には短いダガーがあるだけで、ガオウの持つ大きな斧と比べると物足りなく感じる。
それはガオウとマイトもそうだが疾風自身も感じていることである。
ただ、シルヴィだけはそうは思っていないようだ。
森は平地と違い足場が少し悪い。
土(大地)の力が使えるガオウの方が地形的な有利はある。
それをわかってかガオウは一気に疾風に向かい動き出した。
そして先ほどと同じように斧を縦に振り下した。
疾風は後ろに飛び攻撃をかわした。
ガオウの斧には最初に攻撃をした時のようなスピードとパワーはのっていなかった。
かわされることを予測し次の一撃に備えていたのだ。
{危ない!}
シルヴィが咄嗟に叫んだが遅かった。
ガオウの二撃目の斧がすでに疾風の右側に迫っていた。
<<ギャリーン!>>
大きな金属が合わさる音がしたかと思うと疾風は吹き飛ばされ背中から木にぶつかった。
攻撃はダガーで防ぐことができたが衝撃で吹っ飛ばされてしまったのだ。
「ぐはぁっ!!」
{い、痛い、し、死ぬ!}
疾風の背中には生まれてから感じたことない痛みが襲った。
おまけに右手もシビレてしまいダガーも落としてしまっている。
{疾風!}
{大丈夫!?}
{大丈夫じゃないけど足と左腕は動くよ。}
それは大丈夫なのかとシルヴィは思ったが、
{土の精霊と戦うときは絶対に攻撃を受けちゃだめだよ!}
{ひたすらかわしてダガーの間合いに入らないと!}
{そんなこと言っても・・・。}
吹っ飛ばされたおかげでガオウと少し距離があるため頭の中で一瞬で作戦会議が行われている。
しかしそれは相手も同じだ。
どうやって倒すのかをガオウとマイトも喋ってはいないが話し合っている。
{いい、距離をとってかわすんじゃなくて近づくようにかわすんだよ。}
{無理だよ、ちょっと加減されてると。}
ガオウが先ほどのミスをしないように次の動きに備えつつ攻撃していることを疾風は感じていた。
{大丈夫、集中してごらん。}
{風を感じ取れるでしょ?}
{目や耳だけに頼らず風を頼りに動けば疾風ならかわせるはずさ!}
疾風は一度目を閉じた。
そして風が感じ取れることを確認し、もう一つのダガーを左手にとった。
{わかった。}
{どうやって倒せばいいか教えて!}
「なんだ、まだやる気か?」
「今なら許してやってもいいぜ?」
ニヤニヤ笑いながら再びガオウが近づいてきた。
油断しているというより自分が負けるはずがないといった様子である。
ガオウが行動するより早く今度は疾風からガオウの方へ向かっていった。
{さっきと同じです、ガオウ。}
{攻撃をかわし後ろに回り込むつもりです。}
{わかってるってマイト、のってやろうじゃないか。}
ガオウはまたも縦に斧を振り下した。
<<ズドォーン!>>
爆風と同時に大きな音が響いた。
ガオウはそれと同時に振り返り斧を右から左に振り切ったが、手ごたえがなかった。
<<シャッ!>>
ガオウが音のした方向を見ると低姿勢で自分の足をダガーで切り裂いた疾風の姿があった。
そして右足には大きな痛みが走っていることに気が付いた。
「てめぇよくも!」
すぐに疾風に向かい斧を振り回すが当たらない。
右足の踏ん張りがきいていないのだ。
そしてガオウが攻撃をした分、次々とガオウの体には小さな傷が増えていく。
疾風が攻撃をかわすと同時にガオウにダガーで攻撃しているのだ。
攻撃が当たらずイラつくガオウが力に任せて大きく斧を振ろうとした。
{疾風、いまだよ!}
ガオウが斧を振るより速く疾風はダガーの間合いに入った。
<<ザクッ!>>
今度はガオウの左足に激痛が走った。
疾風がガオウの左足にダガーを刺したからだ。
ついにガオウはその場に膝から地面に崩れた。
{くそ、足が動かねぇ、殺される?}
{マイトどうにかしやがれ!}
{無理ですよ私だけでも逃げさせてもらいますよ!}
{お、おいてめ・・・。}
ガオウの身体から光が発せられると同時に小人がガオウの中から出てきた。
と思ったら背を向け逃げ出した。
「お、おいマイトどこ行きやがる!」
小人はガオウのことは気にせず森の中に消えていった。
{シルヴィ、どうなってるの?}
{精霊使いが死ぬとそのとき、宿っている精霊も死んじゃうの。}
{だから、怖くなって逃げ出したんだと思う。}
{し、死ぬって、じゃあ僕が死んだらシルヴィも死んじゃうってこと?}
{いつもみたく別れてるときは人間だけ死んじゃうんだ。}
この状態のガオウを殺したからと言って土の精霊が死ぬわけではない。
逆に今の疾風が死ねば風の精霊が死ぬということだ。
{疾風、こいつもう何もできないから一旦別れるよ。}
疾風の目の前には再び光が現れた。
そして動けなくなったガオウと宙に浮いているシルヴィが視界に映った。
シルヴィが現れてからの違いは風を一切感じなくなったのと、体が重く感じることだ。
おまけに身体には少し痛みがし、どっと疲れを感じた。
精霊の力が抜けたのだ。
疾風は目の前のガオウを見た。
ガオウも自分と同じように力が使えないことはすぐにわかった。
「殺すなら殺しやがれ!」
突然ガオウが疾風に向かい叫んだ。
「風の精霊、てめぇならわかんだろ?」
「この世界じゃ精霊のいねぇ精霊使いが役立たずだってことを。」
「・・・。」
シルヴィは黙っている。
疾風にはどういうことか理解できない。
「俺達は力がなけりゃ亜人の劣化版だ。」
「王を目指すどころか、一番しょぼいちっぽけな種族だ。」
亜人というのは人種の他、鬼族、吸血族、足長族など人間界の人間と見た目はほとんど変わらないが身体能力など様々な点で人間より優れている種族の総称である。
「殺されるんなら早いほうがましだ。」
ガオウはシルヴィに頼むように話しかけている。
疾風はそのシルヴィの様子を見た。
しかし逆にシルヴィがこちらを見てきた。
「だってさ、疾風。」
「殺す?」
「えっ!?」
「私の力だけじゃ殺せないしさ、疾風が決めてよ。」
殺していいものなのか?
殺さないとまた襲われるかもしれない?
というより人を殺したことなんてまずないし。
疾風はものすごく混乱したが一つの答えに行き着いた。