第二話 土の精霊(ノーム)との戦い 前編
疾風はガオウの大きな体と凶暴な性格、そしてガオウが出した大きな斧を見て脅えた。
しかし、体は動かなくなったのではなく背を向けて逃げるといった反応をすることができた。
戦いの経験どころか異世界に来たばかりの疾風には相手の倒し方どころか戦い方もわからない。
人間界ではバスケットボールという球技をしていたが、武術や格闘技の経験はない。
もちろん、剣道、薙刀、フェンシングなど刀を扱った経験もあるわけがない。
そのせいか、体が勝手に走り出した。
戦っても負ける。
今は逃げるべきだと。
「くそガキッ!止まりやがれ!」
疾風を物凄い勢いで追いかけるガオウが叫ぶ。
差は少しずつ縮まっていく。
そのとき後ろから疾風に向かってガオウとは別の声が聞こえた。
「疾風、逃げても追いつかれちゃうよ!」
小さな体に付いている羽で疾風のすぐ後ろを飛んでいるシルヴィの声だった。
「じゃあ、どうすればいいのさ!」
「とりあえず、私を呼んで!」
「呼ぶって?」
「さっきあの男が土の精霊を呼んだ時のように私を呼んで!」
逃げながら先ほどのガオウの叫びを思い出す疾風。
(こいマイト!!!)
(!?)
「来てくれシルヴィ!!!」
そのときシルヴィと契約した時と同じ突撃をされた時の感覚が起きた。
{疾風!}
疾風の頭の中からシルヴィの声が直接聞こえた。
「わぁ!シルヴィ!?」
後ろを飛んでいたシルヴィの姿はなくなっていた。
{わぁ!びっくりしたな!}
{今私は疾風の体に力として宿っている状態だから、考えただけでお互い意思の疎通ができるんだよ。}
「えっ!!」
{シルヴィ!聞こえるかい?}
{聞こえてるって!}
ガオウに追いかけながらも、この二人の中では一瞬の時間で会話が進んでいる。
{てことは、今僕に風の力が宿っているってことなのか?}
{そんなふうには感じ・・・!?}
疾風がその言葉を言おうとしたとき体に何かを感じた。
その正体は外に出れば誰だって感じたことがあるものだ。
{感じるでしょ?}
{今疾風はこの世界の風を読めるなったってことだよ。}
{見えなくてもわかるよね、後ろから伝わってくる風のことも。}
疾風は背後から自分に伝わる風の正体がすぐにわかった。
ガオウだ。
それに15mぐらいあった差が10m位まで縮んでいることも。
{ガオウがすぐそこまで!}
{ガオウは土の精霊を体に宿しているの。}
{じゃあ、僕と同じように土(大地)の力がガオウにも!?}
{そう、大地のことがわかるんだよ。}
{あと、あの男の身体にも土の力は働いていてるの。}
{だから足場が分かりずらい森でも正確に進んでくるのか!}
{でもあんな重そうな斧だって持ってるのに・・・。}
{あれが土の力なの。}
シルヴィの言っていることが疾風には理解できない。
{?}
{私の風の力が動きに宿るように、土の力は身体に直接やどるってこと!}
{肉体強化ってこと?}
{だからそうだって!}
相手に宿っている力がとても便利なものであること。
そしてガオウが確実に近づいていること。
風が読めたことでどうしようもないこと。
疾風は自分が絶体絶命な状況であることを思い出した。
{私を信じて!}
そのときいつになく真面目なシルヴィの声が頭に響いた。
{さっきも言ったけどこのままだと追いつかれちゃう。}
{だからあいつに向かって飛び出して!}
シルヴィが何を言っているか疾風にはよくわからない。
{大丈夫!疾風に怪我はさせないよ。}
怪我どころか食らったら死ぬんじゃないかと疾風は思ったが、シルヴィの言葉には確かな重みと信頼を感じた。
{わかったよシルヴィ。}
その場で足を止め疾風はガオウの方を向き飛び出した。