二年前〜心の変化〜
「好きです。付き合ってください」
これで何回目だろうか。どいつもこいつもきっと顔しか見てない。今俺に告って来た人が同じ学年なのは知っているが、話したことは一度もない。一目惚れとか俺は信じないし、ダメな女だ。
「ごめん。俺君のこと全然知らないからさ〜、もっと知ってからじゃないとね」
俺のこんな言葉に周りの女子はキャーキャー騒いでいる。本当女ってくだらない。
そんなことを思っていると俺の視界に一人の女が入ってきた。石神椎奈だ。
よく見るとその後ろには俺のクラスの奴らが溜まっていて、ニヤニヤしながら石神椎奈を見ている。どうせまた何かくだらない事を考えているのだろう。
「堆賀ー、おっはよーう」
気づいたら俺はぼっーと石神椎奈を眺めていて、ゆったんの声に体がビクッと反応してしまった。
「どうしたぁ?なにぼっーとしてんの?」
ゆったんはキョトンとして俺の顔を覗いてきた。俺は自分でも驚くほどぼっーと石神椎奈を眺めていて、不思議な気持ちと複雑な感情に襲われていた。
「おいっ、堆賀!見ろよこれ石神椎奈の太ももの写真、めっちゃうまく撮れてるだろ〜う」
教室に入るとクラスの奴が興奮して一枚の写真を見せてきた。おそらくさっき撮ったのだろう。
「すんげ〜、でもさすがにやばいだろばかっ、盗撮だぞそれ〜」
俺は笑いながらそいつの肩をポンポン叩いた。完全に石神椎奈は俺のクラスの奴らのターゲットになっていた。
『あー、うざい。あの2組の転校生見た?絶対あれは胸盛ってるよ』
『男子は何であんなのに騙されるんだかね』
ターゲットにしているのは男子だけではなく女子もだった。顔立ちが良くスタイルの良い石神椎奈は女子にとっては邪魔な存在で、俺のクラスだけでなく、いろんな女子が噂していた。
「堆賀ー、次体育だぞ?」
「うーん、ごめんっ俺保健室行くわー」
俺はなんとなく石神椎奈が保健室にいるような気がした。会ったらなにかあるってわけじゃないけど…。
この時の俺は、石神椎奈に他の人とは違う何かを感じていた。ただ、それだけだった。
「失礼しまー、」
残念ながら保健室に石神椎奈の姿わなく、吉野も不在だった。仕方なく俺はベットに横になり、ワイシャツのボタンを開けた。今日は太陽がギンギンに光っていて暑く、少し汗をかいていた。この暑さに俺は嫌な空気を感じていた。
その時、保健室のドアが開く音がした。
「・・・・・」
俺は体を起こしドアの方に視線を向けた。
「あ、」
そこにいたのは、またずぶ濡れになっている石神椎奈だった。石神椎奈は下を向いたまま黙って立っていた。
俺は保健室の棚からタオルを取り、黙って彼女の頭にタオルをかけた。よく見ると肩が震えていて、声をかけようと思ったその時、彼女の涙が床に落ちた。
俺はこういうのに慣れてない。どうしたらいいのかわからなかった。
「大丈夫、です、から…」
そう言うと石神椎奈は保健室を出て行ってしまった。
「ねぇ、ねえってば!」
気づいたら俺は寝ていて、ゆったんの声で目が覚めた。
「やっとおきたー、もうお昼休みだよ?具合でも悪かったの?」
「あ、いや〜。寝不足だわ〜」
俺は目をこすりながら体を起こそうとした。
ドン//
体を起こそうとした俺をなぜが押し倒し、ゆったんは真剣な目で俺を見つめた。
「どうしたんだよ〜、ゆったん」
「・・・・・」
ゆったんは俺から一旦目を逸らし、何かを決心してまた俺を見た。
「堆賀、好き。 もう他の女の子と遊ばないで、ゆりだけを見て」
そう言うとゆったんはゆっくり顔を近づけて来る。しかし、俺はある人の姿を見て、慌ててゆったんから離れた。
「邪魔してすみません」
そこにいたのは石神椎奈だった。
「はぁ。あと少しだったのに…。あっ、あんた転校生の人でしょ?男に媚び売ってるっていう」
ゆったんは男と話す時と女と話す時の差がすごい。最近の女はみんなそうだ。
「貴方の方が媚び売ってるんじゃないかな」
石神椎奈は真顔で答えた。
「は?ゆりは堆賀一筋だからっ」
「そうなんですか。その人のどこがいいんだか、ただのクズなのに」
俺はその言葉に石神椎奈と初めて会った日を思い出した。
『クズ…、』
「なんて事言うのよっ」
ゆったんは怒り立ち上がったが、石神椎奈は鼻で笑い保健室を出て行った。
俺は家に帰っても石神椎奈の言葉が忘れられなかった。
この時俺は気づいたんだ。あんな風に自分をちゃんと否定してくれる人を待っていたことに。もう自分じゃ自分を止められないから。
きっとあの時保健室に石神椎奈が来なかったら俺はゆったんとキスしていて、もしかしたらそれ以上のこともしてしまい、ゆったんを今以上に傷つけていた。
でも君は、俺以上に悩んでいたんだ。