二年前〜クズの生き方〜
「堆賀〜、今日あたしの家おいでよぉ」
「おぉ、ゆったん!行くわ〜、久々になっ」
「やっぱ堆賀が一番だわぁ、久々に楽しもう」
「おうっ」
江藤堆賀。
俺はチャラ男で女遊びのひどいただのクズ。
でも学年で1位2位を争うほどイケメンでモテる。
告白はもう何十回何百回とされたが、実際彼女を作ったことがない。自分で言うのもなんだけど、俺なんかを好きになる女はダメな女に決まってる。だから適当に女で遊んでる。
俺は一生そうやって生きてく。
この時の俺は確かにそう思っていた。そういう風にしか俺は生きられないと、自分で決めつけていたんだ。
「おい堆賀、あの子のブラ透けてね?」
体育館に向かう途中、一人の友達の声で周りの奴らも騒ぎ出した。高校三年生になってもまだまだ子供な奴ら。
「あれは赤だなぁ」
俺はいつも適当に合わせている。イケメンでモテる俺はどこにいても自然と中心に立っていた。
「ちょ、誰かぶつかるふりして水かけて来いよ〜」
周りの奴らはかなり興奮してる。
しかしやり過ぎだと思った俺は静かにその場から離れた。俺の向かう場所はいつも決まってる。
「はぁー。気持ちいい」
俺の一番好きな場所、それは学校の屋上だ。
意外にも人はいなく、サボりたい時は必ずここに来る。
気持ちい風に吹かれてぼーっとしていると、姉の顔が浮かんできた。姉はもうすぐ結婚する。高校三年から付き合い始めて五年間も続いた彼と。
俺にもそんな人がいつかは現れる、なんてことは思わない。でも、少しだけ羨ましく思った。
「イテッ」
気づいたら俺は寝てしまっていて、顔に痛みを感じ目が覚めた。寝相の悪い俺は顔を擦りむいてしまっていた。
まだ体育の授業は終わっていない。
「まあ、いっか」
絆創膏をもらいに俺は保健室に向かった。
「失礼しま〜、」
ドアを開け保健室に入ると、そこには体操着姿のビショビショに濡れた女がいた。下着は完全に透けていて、やっぱり赤だった。あいつらは本当に水をかけたようだ。
先生は保健室に居なく、俺は絆創膏だけとって保健室を出ようとした。
「クズ…、」
その時、微かに女は囁いた。
「え、クズって俺の事〜?仕方ないなぁ、俺の体操着でも貸してやろうか」
仕方なく俺はかっこよく言って見せた。しかしこの女は普通のやつとはちょっと違っていた。
「貴方の体操着なんて着ません。先生を呼んで来てください」
女は俺に背を向けたまま、偉そうに言ってきた。
なんなんだこいつ。普通の女なら喜んで俺の体操着を着るのに。
「はいはいわかったよ〜」
俺は適当に返事をし、仕方なく先生を呼びに行った。
「せんせ〜い、保健室にびしょ濡れの女が居るんすよ」
俺は職員室のドアを勢い良く開き、大声を出した。
「あら、江藤くん。またさぼり〜」
笑いながら出てきたのは保健の吉野だった。
もちろん女の先生。俺もとてもお世話になっていて、この人にだけは少し素が出せる。
「なんか俺のクラスの奴が下着見たくて水かけたみたいなんすよ」
「高三にもなってまだそんな事してるの〜」
「ガキっすよね」
この人の前ではなぜか笑顔になれた。
もう五十代のおばちゃん先生なんだけどな。
保健室に着くと、吉野は予備の着替えを女に渡した。
「石神さん、初日からこんなんじゃ可哀想よね」
女が着替えを始めると、吉野は俺の向かいに座り話し始めた。
「え、初日?」
「あ、クラス違うから知らなかったか、石神椎奈さん。今日転校してきたばかりなの」
「あ、そうなんすか?大変すねっ」
「そうよ〜。あいつらにちゃんと言っておきなさい?そろそろ授業も終わるし、教室戻った戻った」
「はーい」
吉野に言われ俺は教室に戻ることにした。
「あ、あの」
教室で一人ぼーっとしていると、いきなり教室のドアが開いた。まだ授業は終わっていないのに。
振り向くとドアの横にいたのはさっきの女、いや石神椎奈だった。彼女は下を向いたまま言葉を詰まらせていた。どうせお礼か何かだろう。
「いいよぉー、お礼なら。風邪引かないような」
俺はいつもの調子でかっこよく決めた。
しかし彼女からは予想外の返事が来たのだ。
「お礼とかじゃない。貴方みたいな人の作った優しさなんてこれっぽっちも嬉しくないしね。私はただ忘れ物届けにきただけだから。はい、絆創膏」
そう言いい、俺の机に絆創膏を置いた彼女はスタスタと自分のクラスへ帰っていた。
なんであいつはあんな上から目線なんだよ。
この時はただ変わったやつ、そう思っていた。
「おい堆賀、どこ行ってたんだよー。さっきの子めっちゃ可愛くてさ、6組の転校生なんだってさ。しかも家がお金持ちでお嬢様らしいいよっ。胸もデカかったしな〜。完璧だよぉ」
体育館から戻って来たクラスの奴らは、すっかり石神椎奈にやられていた。こいつらはあーいう顔がタイプなんだな。
まあ、たしかに顔立ちが良く綺麗な肌に、スタイルも良い。そうか、お嬢様ってこんな感じなんだ。お金持ちかあ。
「なあ堆賀!お前ならあの女おとせるんじゃないか」
「まあな〜、いけちゃうかもな〜」
こんなことを言いながらも、あんな女俺はごめんだ。ゆったんと遊んでる方がよっぽど楽しい。
帰り道。今日は久々にゆったんの家に行く。
ゆったんは一年の頃からずっと同じクラスで、はっきり言うと一番の遊び人。
「ねえ堆賀、堆賀は彼女作りたいと思わないの?」
ゆったんとはいつもくだらない話ばかりで、こんなことを聞かれたのは初めてだった。
「ゆり(本名)ずっとこのままの関係は嫌だよ?堆賀はゆりだけじゃ満足出来ないの?ゆりはずっと堆賀一途でいるんだよ?」
俺はこういう話が苦手だ。今にも逃げ出したい。
女ってほんとめんどくさい。
「ゆったんいきなりどうしたんだよ〜、ゆったんはもちろん特別だよ?でも今は彼女とかそういうのはね〜」
俺は女の扱いに慣れている。最低だけど、この程度の女ならすぐ元に戻る。俺に嫌われるのが怖いから。
「うん。急にごめ〜んっ。さあ、今日は久々に楽しもう!」
ほらね。女なんてそんなもん。俺は自由に女で遊べる。これほど楽しいことはない。
けど時々、思うんだ…。
ゆったんの家に着くとすぐさま部屋に行き俺たちはベッドに腰掛ける。
「ちょ、早いよ堆賀」
俺はお構い無しゆったんを押したいし強引にキスをした。この時間はすべてを忘れられる時間。久々だったため、欲を抑えられずすぐに上も下も脱がせた。そして俺たちは楽しい時間を過ごした。
でも時々、思うんだ…。
こんな人生やだ。もう遊び人なんてやめたい。
本気で人を好きになってみたい。
もっと自分らしく生きたい。
俺はただ救いの手を待っているんだ。