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靴擦れ

作者: 斉藤哀世

わかる人にはわかる。

わからない人には馬鹿げた話。


※自傷行為の表現あり。

ああ痛い。

学校指定の慣れないローファーが私の足を不自由にしていく。

かかとのところに傷。靴擦れみたいだ。


「何でこの学校って靴まで指定なんだろうね」

「鞄も指定だよね。私高校ってもっと自由だと思ってた」

「仕方ないよ。単願の人や中学からの人は別としてここにいる人ほとんど公立落ちた組だもん」

「しかも女子高」

「あ~男子欲しいね」


併願とはいえ、この私立富士咲女子中学・高等学校(通称富士女)を選んだのは自分自身なのに、随分身勝手なことを言う。

公立落ちたことを、気にしないそぶりで悔やんでる。


駅までの短い帰り道をみんなで喋りながら歩く。

もちろん寄り道も禁止されてるから、各々様々な手段を使いながら帰宅する。

5人いた中で私だけ他県。

4人にありったけの笑顔でさよならを告げた。


小学生の頃はやけに中学生が大人に見えた。

何でもできて、友達だけで遠出とかもしちゃったりして。

もしかしたらかっこいい男の子に惚れられちゃうかも。

そのときはどうしようかなぁ、なんて。

頭の中でもしかしたらが広がる。

小説やマンガで培った妄想力は伊達じゃない。


だけどももしかしたらはやっぱりただの妄想に終わった。

他の子はできてたのかも知れない。

でも少なくとも私には誰かに自慢できるほどの幸せなんかなかった。

何でもはできなかった。

友達とは近場のカラオケしかいかなかった。

かっこいい男の子に惚れられちゃうどころか、悪口を言われた。


別に、こんなことはよくある。私だけじゃない。

悪口を言ったことがない人なんて中学生にもなってそんなにいないだろうし、普段はふつうに笑って話してた。


でもこのときの私はやたら不幸ぶりたかった。

誰も私の気持ちなんか理解してくれない。親でさえも。

こんな複雑な思いを辛かったね、なんかで終わらせたくない。

打ち明けられる友達なんかいない。親友だと思ってる子でもそうだから、実は私誰も信用してないんじゃないかな。

だとしたら私は孤独だ。

もうどうしたらいい。消えたいな。

消えれたら楽なのにな。



そうしたら、やることはひとつだった。



近くにあったはさみで手首を切った。

いわゆるリストカットだった。

本当に死ぬ度胸なんか、これっぽっちも持ってない。

本当に痛みを感じる勇気なんか、これっぽっちも持ってない。

傷は浅かったけれど、血がしばらく止まらなかった。

その血を見て、悲劇のヒロインに酔いしれていたのだと今では思う。


自傷行為は悲劇のヒロインでいるのに必要なものになった。


3年生になって、受験勉強に取り込む時期になった。

私は普段のテストで勉強しなくても平均点以上は取れたから、受験勉強も塾や課題以外ではほぼしなかった。

楽観視してたわけじゃない。

でもどうにもやる気が湧いてこない。

勉強だけじゃなくて、全てにおいて。

たった14年と数ヶ月しか生きてなかったのに、人生をつまんないものだと感じていた。


公立の志望校に関しては、模試ではいつもC判定だったのに、プライドが邪魔して偏差値を下げることはしなかった。

結果は案の定落ちた。

努力なんかしてないくせに、たくさん努力した人と同じくらい涙した。


そして今に至る。

女子高は想像以上に楽しかった。

お嬢様学校と聞いていたから最初はどうしようかと焦りがあったが、全然平気だった。

大口開けて笑うわ、足は思いっきり開くわ、ここにはいい意味で遠慮がいらなかった。


ああ、でもまだ慣れないな。新しい制服。



中学の頃描いた希望は今の高校と全く違った。

小学校の頃は中学に希望を持って、それは砕かれた。

今がつまらないから、未来に希望を持つのに、過去にとって未来だった今は、過去のほうが輝いて見える。


おかしいね、過去を過ごしてたときは悲劇のヒロインぶってたくせに。

今よりかはましかな、って思えてくる。

今ちゃんと笑えてるのに。

友達と同じ趣味の話して、周りの目を気にせずに大笑いしてるのに。


おもしろいって、楽しいって、わらってるはずなのに。


おかしいな。



足が痛い。心がいたい。


あたまがいたい。


唯一あたまに浮かぶのは、目の前に迫った電車。





あ、そっか。





わたしようやくほんものの悲劇のヒロインになれたのか。


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