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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

ハリネズミの針

作者: 無正常

Twitterで生まれた暴力少年と自殺願望の出会って間もない頃の話。

暴力少年視点で物語が始まります。


優しくない世界に、ほんの少し希望を見出だした瞬間。

自分のことが少しだけ好きになれた。



血や暴力表現があります。

苦手な方はお帰りください。

大丈夫な方はどうぞ。







手を伸ばしても人に触れることさえ叶わないと知っている。

触れる前に私は人を傷つける。

人が私に話しかけると、その人は壊れてしまう。

まるで、ハリネズミのようだ。

私は人を傷つけるだけの存在。

意識をそちらに向けた瞬間、反射で人を自分の針で刺してしまう。

自分の意思に関係なく、誰も例外なく、ある意味平等に。


私の存在意義は何だ?

わからない。

わからないんだ。

教えてくれるような人がいないから。

私は、自分の針が酷く悲しい。

本当は誰も傷つけたくなどないのに。



「おはよう」

ただ、話しかけられただけ。

挨拶されただけだ。

同じクラスで隣の席の同い年の女の子。

カチューシャがよく似合う短い髪の、キチンと制服を着ている大人しい女の子。

ニコッと笑いかけられた笑顔。

異性から見ても普通に可愛いと思える。

けれど、その頬や腕には痛々しい昨日の痕。

私が殴って傷つけた、惨劇の痕。


カタン

椅子を引いて立ち上がる。

立ちたくて立ったわけじゃない。

体が勝手に立ち上がったのだ。

椅子をしまわず、話しかけた女の子の前に立つ。

特に立ち上がるほどの用はない。

女の子は笑顔のまま見上げる。

ただ、私は…


…ガッ!!ガッシャアアンッ!!ガタガタッ!

キャアアアアアア!!?ウワッ!せ、先生ー!!


右手が、勝手に女の子を殴っていた。

殴りたくて殴ったわけじゃない。

女の子は殴られるようなことは今まで一度もしていない。

また、体が勝手に動いていたんだ。

つんざく悲鳴が鼓膜に響く中、血を流す女の子に言った。

目の前の女の子はピクリとも動かない。

「おはよう」

ただ、私は挨拶をしようとしただけなんだ。

信じてくれ。

頼むから、みんなそんな目で私を見るな。

見るな。



昔からそうだ。

体が大きくて力が強いのに加えてこの体質。

クラスメートや先生はただの“虐め”と判断して私と境界線を引いた。

しかし、教師やカウンセラーにも同じことをするので、学校は私を持て余し、遂には何も言わなくなった。

あんなに怒っていた教師も私を見ると怯えた顔をして逃げてしまう。

小学校では学校には通っていたものの友達は一人もできなかった。

中学校も、小学校の二の舞。

友達は一人もできず、私の噂を聞き付けた不良達も私から逃げるようになった。

この無表情が更に気味悪かったのだろう。

唯一の話し相手だった祖父母が亡くなってからは、笑わなくなってしまったから。

心労で疲れた母と父と離れるように一人暮らしをしているから、余計話し相手はいない。

高校でもこの様だ。


私は、自分の針を仕舞う方法を知らないハリネズミ。

今更誰かを内側に迎え入れる度胸もない、臆病者だ。

誰か、私を止めてくれ。

もう人を傷つけたくないんだ。

頼むよ。

誰か、止めてほしい。



ピチャン…

短い髪を握っていると、音が聞こえた。

騒がしかった教室も静まり返り、皆が一人の人間に注目する。

俯かせた顔を、音がした方に向けた。

大人しい女の子には不釣り合いなチョーカーを嵌めた首が、此方にゆっくりと振り返る。

額を私の右手についた同じ血で濡らし、けれどもこの状況で弱々しく笑った。

私に向けて、笑った。

「君は、本当に、不器用ね。痛いじゃない…もう」

呆れたように、眉を下げて笑う。

額に当てた手が血を拭い、私を見上げる。

その視線は怯えも怒りも嫌悪も含まれていない。

悪戯した子供を見る母親のように、ただ、呆れていた。

それだけだった。


「ごめん」

女の子の言葉の後、口が勝手にそう言っていた。

前までは気絶して伝えられなかった言葉。

漸く、女の子に言えた言葉。

今まで誰に言っても胡散臭げに睨み付けられた言葉を、女の子は可笑しそうにクスクス笑った。

クラスメートや担任、私は呆然としていた。

「ふふ、しょんぼりして謝らないでよ。私が悪いみたいじゃない」

「…ごめん」

「許してあげる。だんだん殴る力が弱まるってことがわかったし、明日は普通に挨拶できるといいわね」


女の子は友達に肩を借りながら教室を出た。

殆どの人間は、唖然としながら女の子が出ていった扉を見つめていた。

それは私も例外ではなく。


ガタガタッ、ギィー…

テキパキと片付け始めた周りを眺めながら、短いながらも普通に会話したことを思い出した。

私も、人間なんだな。

少し変わっているが、みんなと同じ人間なんだ。

「良かった」

そう実感したら、少し泣けた。

明日、自分から「おはよう」って挨拶してみよう。

できたらいいと思う。

できるといいと思う。

もしできたら、女の子は挨拶し返してくれるだろうか。

いや、きっとしてくれるだろう。

…楽しみだ。

授業中、窓から見える鳥の群れを眺めながら、ほんの少し笑った。


その鳥の群れを、屋上にいた一人の男の子も眺めていた。

眺めていたが、鳥の群れが見えなくなるとすぐに目を閉じてしまった。

開かない屋上の扉に、また来ると約束した笑顔を思い浮かべては、深い溜め息を吐いた。

「早く来いよ…馬鹿女」


二人が出会うのも、そう遠くない未来。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 視点はおもしろいです。暴力を振るう側の心に闇があって、それが遠因になってるかもと自分で考えている描写は、しっくり来る設定でよく無理なく描かれているなと思います。 [気になる点] まだ、暴力…
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