第五節 ゾムビー
2月――。
爆破宅――、
ダイニングで朝食を食べている爆破。遠くでテレビからニュースキャスターの声が聞こえてくる。
「――、次のニュースです。かつて、アメリカであった生物の被害が、ここ日本でも確認されました。中継を繋ぎます」
「こちら謎の生物の被害があった現場です。周囲は悪臭に満ちています。さて、その生物は、こちらの様に汚れた場所が好みのようでアメリカでは、公害が酷い工場や、ゴミのポイ捨てが激しい川等に発生しています。その生物は、体内から放たれる体液により、人間をはじめとする動物を、自らと同じ体質の生物にしてしまいます」
「大変だな……」
爆破は朝食を食べつつ、一言、漏らした。
「発生元のアメリカは、その生物を“ゾムビー”と名付けました。ゾムビーを見つけた際には、迅速に警察に連絡し、その場から離れる様気を付けて下さい。スタジオに戻します」
「はい。皆さんくれぐれもお気をつけ下さい。次のニュースです――」
「まあ、物騒な世の中ね。スマシ、気を付けてね」
「分かった、母さん。行ってきます」
爆破は学校に向かう。そしていつもの様に通学路の途中で杉田に出会う。
「よっ」
「ああ」
「見たか? ゾムビーのニュース」
「ああ見た。恐ろしい世の中だな」
「この町で出くわしたらどうするよ?」
「まあ、警察に通報して、その場を逃げる……かな?」
「……そうだ!」
「!」
「スマシちゃんにはバーストがあるじゃないか!? アスファルトも破壊できるんだぜ? ゾムビーだって退治できるさ!」
「そんな……まだ、“力”を制御できないのだぞ?」
「それなら、バーンって全力でやっちまえばいいじゃん」
「気楽に言うなよー」
頭を抱える爆破。
――、
「じゃあまた、放課後会おうな」
「ああ。また――、な」
爆破の通う中学校にて――、
爆破の周りに、2、3人、女子が集まって来た。
「爆破さん、来週のバレンタインデー、彼氏さんに何かあげるの?」
「っは! バレンタインデー!?」
「そうだよー、付き合っている人、居るんでしょ? 何かあげないと可哀想だよー」
(う……迂闊だった……。小学生の頃は、意識していなかったが、恋人がいる人にとっては、バレンタインデーはクリスマスと同様に重大なイベントなんだ……!)
「ねー、何あげるの? やっぱり手作りチョコ?」
「て……手作りじゃないといけないのか!?」
「そっちの方が愛情が伝わるもんねー」
「ねー」
(ねー、と言われても……私は、ろくに料理も作ったことも無いのに)
「ねーねー、どうするの」
「分かった! 手作りチョコ、作ってやろうじゃないか!」
翌週、爆破宅――、
「『チョコレートブラウニー』、これを作ろう」
レシピをスマホで調べながらの初料理だった。
「なになに、ミルクチョコレート200g、バター90g――、湯せん? 溶かすコトか? ――」
90分後、
「で……できたぞ……」
爆破スマシ製、チョコレートブラウニー完成!! 出来栄えは普通だった。良いとも悪いとも言えない、只々、普通。
「み……見た目はあまり良いとは言えないが、味はどうだ?」
味見してみる爆破。
「おお! イケるぞ!! 見た目は別として、食べてもらえば、気持ちは伝わるはず!」
バレンタインデーの前日、爆破は杉田にメールを送る。
『明日、渡すモノがある。いつもの場所へ来てくれ』
ふー、と溜め息をつく爆破。
(伝わるだろうか……あの出来で……)
机の上にある、キレイにラッピングしたチョコレートブラウニーを横見に寝転がっている爆破。その夜、爆破は中々寝付けなかった。
そして――、バレンタインデー当日がやって来た。
朝――、いつもより早めに、あの通学路の途中で爆破は杉田を待つ。爆破の目には少しだけクマができているように見える。
(結局……日付が変わる頃まで寝付けなかった……しかも、5時には目が覚めてしまった……)
ふと、杉田が来るはずの方向を見る。
(早くき過ぎたか……)
一人、思いを巡らせる爆破。
突如――、
「ぎゃああああああああ!!!!」
「!」
悲鳴が聞こえた。悲鳴のする方向へ顔を向ける爆破。そこには、腰を抜かした30代くらいの男性と、見るもおぞましい紫色の生物が存在した。
「なっ、あれは……!」
(回想)
「かつて、アメリカであった生物の被害が、ここ日本でも確認されました――」
(回想終了)
「アレが……ゾムビー……」
「ゾム……ゾム……」
もの恐ろしい呻き声を上げながら男性へと近付いていくゾムビー。
「くっ!」
ゾムビーに負けじと、男性へとダッシュで近付く爆破。男性の肩を担ぐ。
「立てるか?」
「あ、ああ。立つだけなら。ありがとう」
「ゾ……」
ゾムビーも、男性の目と鼻の先に近付いていた!!
「クソッ! 化け物め!!」
体を盾にし、男性を守ろうとする爆破。
しかし――、
「ゾム!」
「ドッ!!」
腹部にボディブローを放ってくるゾムビー。
「かはっ!!」
2、3メートル程吹き飛ばされる爆破。次にゾムビーは標的を男性に向ける。
「ゾム……」
「くっ来るなぁ!! 誰か助けてくれー!!」
不意に、爆破の脳裏に、杉田との会話が過ぎった。
(回想)
「……そうだ!」
「!」
「スマシちゃんにはバーストがあるじゃないか!? アスファルトも破壊できるんだぜ? ゾムビーだって退治できるさ!」
(回想終了)
(やれ……るか……? ここからだとあの男性を助ける前にゾムビーが男性を襲ってしまう。しかし、バーストなら……? ゾムビーが男性を襲う前にバーストで木端微塵にできれば……)
ゾムビーを凛とした瞳で見つめる爆破。
「(呼吸を落ち着かせろ……目標をよく狙って……)バースト!」
「ボッ!!」
「ゾ……!!」
「ドガア!!」
ゾムビーは、ブロック塀の壁ごと爆発した。その姿はどの様な形をしていたかが分らない程、木端微塵になっていた。へたりと座り込む爆破。
「はぁ……やったか……」
「あっ、ありがとうございました!! この恩は忘れません!! じゃあ!」
「あっ! ちょっと」
男性は去って行った。爆破は一人、取り残された。
「! そうだ。チョコ……」
カバンからそれを取り出したが、ラッピングごとぺちゃんこになっていた。
「そんな……折角、作ったのに……」
そこへ、杉田がやって来た。
「やースマシちゃん、今日は早いねー、ってなんじゃこりゃああ!!」
辺りはブロック塀の残骸と、ゾムビーの破裂した遺体の欠片で凄惨たる状態になっていた。
「スマシちゃん、これってゾムビー? 倒しちゃったの?」
「! うっう……わぁああん」
「! 何で? 泣き出しちゃった」
ゾムビーとの戦いが終わり、安心した所為か、はたまた、折角作ったチョコが台無しになってしまった所為か、爆破は泣き出してしまった。その涙の理由は、爆破本人にも分からなかった。
「ああっ、ううっ」
爆破は杉田の胸を掴み泣いてばかりいる。
「よしよーし、もう怖くないよ? ところで渡すモノって、何?」
「うう……」
「!」
「うわーん!!」
2,3分程、爆破は泣き続けた。そして――、
「チョコ……作ったのに……アイツの所為で、潰れてしまった……」
「なーんだ、そんな事か」
「!」
目をキッとさせる爆破。
「見せてみ」
「……これだ」
爆破は潰れたラッピング入りのチョコを渡した。杉田は包装を破いて、中身を見てみる。
「うわぁ……確かに、酷い有様だぁ」
「うう……」
「でも――」
パクリと一つ、杉田は食べてみた。
「うん、やっぱり。味は良いぜ。わざわざありがとな、作ってくれて」
目を見開く爆破。そして少し下を向き、言った。
「ど……どういたしまして」




