第三節 試験勉強
爆破が周囲と少しだけ溶け込み始めてからというもの、爆破の中での時間は驚くほど速く過ぎて行った。爆破は中学生になり、杉田は高校生になっていた。しかし、いつもと同じ通学路で、二人はいつもの様に会話していた。
「受験、受かってたんだな?」
「そうさ、余裕綽々でな。勉強だけはできる方でね」
「なるほど、他は出来ないのか?」
「まぁな!!」
自信満々の杉田に、思わず虚を突かれた爆破だった。
「そ……そうか、スポーツができないとか、か?」
「万年帰宅部の俺は、ひとまず球技はできないな。でも体力は人並みにあるぞ!」
「そうか、それなら困ることは無いな。ところで」
「?」
「ちゅ……中間テストというのはいつ頃あるんだ? 難しいのか?」
「ああ、アレね。一学期の中間テストは5月くらいにあったかな? 難易度は……そうだな、普通にやれば、平均90点はとれる!」
「!? な……大きく出たな。本当か?」
「まぁ、余裕だろうよ。数学なんて、四則演算するだけだし、英語はアルファベット全部書くだけで20点くらいとれるなんて学校もあるぞ? 本当に怖いのは学期末テストだ!」
「期末!?」
「そうだ! 中間テストが5科目に対して、期末テストは9科目も教科がある。しかも、一学期中間のテストよりも試験問題が難しくなっているぞ!」
「そんなモノが……中学に上がって早々、憂鬱だ……」
爆破の肩に手をやる杉田。
「まあ、平日最高6時間、休日最高9時間くらい勉強をやったところ、大体平均点は85点取れたから頑張れば大丈夫だ!!」
「フォローになって無いぞ! 大学受験でもないのに何故そこまで勉強せねばならんのだ……」
爆破は俯いてしまった。
「スマシちゃん」
「!」
「勉強ができないなら教えてやる。心配することは無いさ!」
「あ、ああ。頼む」
これまで、他人に依存していなかった爆破は、頼れる存在を持ち不思議な感覚を感じた。
(勉強を教えてくれるのか……頼りになるな……)
ここまで自分が信頼を置ける人間と知り合い、爆破は心から安心していた。
そして五月――、
爆破は試験期間を迎えた。爆破は自室で勉強をしている。
(確かに、数学も難しい公式など無く、国語も難しい漢字は無く、英語も難しい単語は無い。でも――)
椅子の上で伸びをする爆破。椅子もギシっと軋んだ。
(平日6時間、休日9時間は、私にはできない……)
試験当日がやって来た。
「始め!」
「パラ」
爆破は問題用紙を手に取る。
(これは――)
全てのテストが終わり、記入用紙も返ってきた。
(…………)
いつもの通学路で爆破と杉田は出会った。
「あ……」
「おう!」
空き地の土管に座って、二人は会話をした。
「どうだったか? 初めての定期テストは」
「平均91.2点だった」
「お! 勝っちいー! 俺は初めてのテスト、93点だったぜ!」
「私と比べるな! それと――」
「?」
「勉強、教えてくれなくても良さそうだぞ。次のテストも、多分いける」
「そう寂しいコト言うなよー、スマシちゃん! ならこうしよう。次の期末テストでもいい点取れたら勉強は教えない。逆に、いい点が取れなかったら勉強、無理にでも教えてやる」
「無理にでもって……」
「兎に角、そういうコトだからな!」
(! ……自分の、高校の勉強はどうするというのだ……全く)
そして、歳月は、驚く程早く経ち、
「始め!」
いつしか、爆破は期末テストを受けていた。
(! ……これは……!)
通学路――、
いつもの様に爆破は家路を辿る。その途中で――、
「よっ、爆破スマシちゃん!」
いつもの様に杉田と遭遇した。
「期末テスト、どうだった? もう、全部返ってきたろ?」
「……さい」
「? どうした?」
「……るさい……」
「ん?」
「うるさいうるさいうるさいうるさい!」
「あー、スマシちゃん、さては結果がよろしくなかったのかぃ?」
「平均、80.4点だ……」
「あー、平均10点以上落ちちゃったのね」
「そっちはどうなんだ?」
「んー? 俺はだなー、平均……85点! 時間軸違うけど、まーた勝っちゃった」
「は……80点台ではないか! お前も90点には届いていないだろうが!」
「チッチッチ。甘いな、スマシちゃんは……」
「な!?」
「高校の成績は5段階の評定から成るんだ。最高の評定5は成績の点数100点から80点あればその5になるから、テストで大体80点取ってれば、それで済むんだ。まぁ、細かく言えば、提出物とかも関わってくるんだけどね!」
「何……だと……?」
「けどまぁ、スマシちゃん」
「!」
「勉強なんてものは、受験の年の夏休みからホンキを出せばいい。今の俺は、昔もっと遊んでおけば良かったって後悔しているくらいだからな!」
「! でも……私は!」
「何だい?」
「つ……常にいい点を取っていたい」
「……なるほど!」
ふーと息をついて、杉田は口を開く。
「なら、俺に任せろ! 俺が勉強を教えてやる!!」
「待て、それならば」
「?」
「お前の、高校の勉強はどうするのだ?」
「なーんだ、何を言い出すかと思えば」
「!」
「俺の心配をしてくれるのか、やっさしー、スマシちゃん」
(!! これだから言いたくなかったのだ)
「でも、心配ご無用」
「!?」
「俺は頭が良い方だから、これしきの事で成績は下がらないのさ!」
「こ、こやつー」
かくして、爆破への、杉田の勉強講座が始まるのであった。
次の定期試験、2学期の中間テストの試験期間――、
ここは杉田自室。爆破は、携帯電話を持っていた。
「母さん? ああ、今日は友達の家で少し勉強してから帰る」
「どうしたの? 同級生の娘?」
「ん? ああ、そんなところだ」
遠くで杉田が口をはさむ。
「彼氏の杉田好実でー……」
「わーわーわわ! 兎に角、そういう事だからな!!」
「っす! ありゃ? 彼氏紹介しなくていいの?」
「いいに決まっている! 私は中1で、キサマは高1なんだぞ! じ……事案ではないか!?」
「事案なんて……そーゆー言葉はよく知ってるんだねぇ?」
「う……うるさい! さっさと始めるぞ!」
「コンコン」
ここでドアの向こうからノックが聞こえてきた。
「あ、お母さん。入っていいぜ」
杉田の母が入ってきた。
「お邪魔しまーす。レモンティー、持ってきました。……あら、随分とまあ大人びた彼女さんだこと。同級生かしら?」
「へっへー、ところがどっこい。この娘はちゅ……」
「あー! ハイ! 高校1年生です!!」
爆破は杉田の言葉を遮り、口をはさんだ。
――、
「じゃあ、ゆっくりしていってね」
杉田の母は部屋から出て行った。二人は一口だけレモンティーを飲んだ。そして――、
「さて、早速だけど始めるか」
「ああ……」
杉田の勉強講座が始まった。
「英語はこのコラムみたいなところから挨拶とかの問題が出るぞ」
一時間後――、
「こっちがx座標でこっちがy座標。値を代入すると、グラフが描けるぞ」
爆破は集中し、杉田の言う言葉に耳を澄ませた。




