第十七節 影
杉田の声が聞こえてきたのだ。
「何で……? 好実……! 好実なのか……!?」
『彼女がピンチなんだ。彼氏が助けに来て、当然だろ?』
そして次第にうっすらと杉田の姿が、爆破の目に映ってきた。
「! 好実!!」
爆破は杉田に触れたかった。手を握り、抱きしめたかった。口づけをしたかった。
ゾムビーさえ居なければ――。
目には涙が溢れていた。
『おっと、泣いていたら敵は倒せないよ、スマシ』
「あ……ああ、分かった」
涙を拭う。
『あの海でのコトを思いだすんだ……初めてゾムビー狩りに行った、あの海でのコトを――』
「! あの日……あの海……」
『スマシ……』
杉田は爆破の左手に、手を重ねた。
『呼吸を、落ち着かせて……』
爆破は呼吸を整える。
『相手を、よく見て……今までよりも、より力を込めて……』
「ゾゾ……」
近付いて来るゾムビー。
『今だ!!』
「バースト!!」
「ボッガァアア!!」
大爆発が起きた。
ゾムビーは大破し、そこには地面に焦げた跡だけが残った。
「ッハァ……ハァ……好実、やったぞ!」
『さっすがスマシちゃんだ。それと、助けられて良かった』
「好実……」
『おっと、時間だ。もう行かなきゃ……今日の日の事を覚えておいてよ、スマシ。多分、これっきりしか会えない。サヨナラだ。じゃあ……』
「好実! 待って……!!」
杉田の姿は空に浮いていき、徐々に見えなくなっていった。
「好実……」
「やったな! 嬢ちゃん!」
「!」
ゾムビー対策組織(仮)の隊員の一人が話し掛けてきた。
「助かったぜ、あんなにでかいの、倒せるのはあんたしか居ねぇ」
「私だけの力では……」
「何を言ってるんだ? 一人で退治しちまったじゃねぇか」
「!(好実の姿……この男には見えていなかったのか……じゃあ、恐らく、他の人間にも……)」
「兎に角、ありがとな! この後も、頼むぜ」
東京湾東部も隈なく探索した一同だったが、それ以上ゾムビーは見当たらなかった。その日の探索は半日ほどで終わる事となる。
――、
それから月日は流れ、時は2026年を迎えていた。爆破が己の力で倒したゾムビーの数は80体を超えていた。
今でも、爆破は思い出す。大型のゾムビーを倒した日の事を――。
(好実……ありがとうも言えなかった……もう少しだけ、一緒に居たかったな……)
(回想)
「倒したゾムビーは何体になった?」
ある日、スーツ姿の男が電話で話し掛けてきた。
「40……は、超えた――、な」
「それは凄い。理事会は30体を超えると力があると認め、ゾムビー対策組織に入れてくれるそうだ」
(回想終了)
(もう、80体も倒したか……)
自室にて、遠くを、もの寂しそうに見つめる爆破。
(100体でも倒せば、この気持ちは癒えるのだろうか……)
「ブーブーブー」
「!」
ふと、爆破の携帯電話が鳴った。電話に出る爆破。
「もしもし……」
「私だ。覚えているか?」
電話主はスーツ姿の男からだった。
「何の用だ?」
「込み入って話がある。H駅に来てくれないか? そこで落ち合おう」
「……分かった」
爆破はH駅に向かった。30分くらいかかっただろうか。H駅からすぐ横にある建物の5階、4フロアが吹き抜けになったインナーガーデンに辿り着いた。爆破が待合場所に着いてから、3分もしないうちに、例の小太りのスーツ姿の男が現れる。
「やあ、待たせたか?」
「いいや、特には……」
――。
「今日君に話があるというのは他でもない。爆破スマシさん、君に一つの部隊を任せようと思う」
「! 一つの……部隊……?」
「そうだ。君の最近の活躍は、既に政府関係者の殆どが耳にしているくらいだ。聞いた話によると、もうゾムビーを、単独で80体以上倒している様ではないか? 武装した公安部隊でも、とてもじゃないがそんなには活躍できない」
「……それで?」
「そこで、だ。公安や自衛隊から引き抜いた、選りすぐりの兵を率いる、政府公認部隊を君に託そうと思うのだ」
「!? 私で……いいのか……?」
「まあ、そう謙遜しなさんな。日本で一番、ゾムビーを倒してきた君だから、こう頼み込んでいるんだ」
「そうか……」
「引気受けて下さるか?」
「ああ、引き受けよう(その部隊を率いて、ゾムビーをこの世から消し去ることができるなら……私は……)」
「ん? どうした? 考え事でもしているのかい」
「あ、ああ。悪い。気にしないでくれ」
「そうか、では明日、その部隊が駐屯する施設を案内しよう」
翌日――、
「こっちの方角で、間違いないな」
爆破はスーツ姿の男から教えてもらった住所へ、スマートフォンの地図アプリを使い、足を運んでいた。
十数分後――、
「ここか……」
爆破はその施設に辿り着いた。
「ウィーン」
施設のドアが開く。
「やあ、よく来てくれた、爆破さん」
例のスーツの男が現れた。爆破は、特に驚いたりはせず、淡々と対応した。
「ここで、どんな設備があり、どんな風にゾムビーの対策をしているのだ?」
「百聞は一見に如かず、ひとまず中に入り、設備を見て回ってもらおう」
「……分かった」
男と爆破は、施設内の奥へと足を進めていく。
「まずは、第1訓練場からだ」
「ウィーン」
第1訓練場と書いてある標識のドアが開く。中はゾムビーの体をかたどった的の様な物が、こちらから様々な距離で設置してあった。
「ここは……?」
「ここはゾムビーを狙撃する為の訓練ができる訓練場だ。ゾムビーをかたどった的が、近くの距離、遠くの距離と様々な距離で設置してあるため、どんな距離でもゾムビーを銃器で倒せるようになる効果が期待できる」
「ふぅん。私のバーストも、ここで精度を上げるために使えそうだな」
「気に入った様子で何よりだ。次は第2訓練場だ」
「ウィーン」
第2訓練場に辿り着いた。そこにはゾムビーをかたどった的のようなもの(サンドバックに似ている)が無数に有り、何かを測る7セグメントの大きな表示器のようなものも存在した。
「何だ、あの表示器は? ここは何をする場所だ……?」
「まあ、これを見てくれ」
スーツ姿の男は、的の近くに歩いて行った。そこでふー、と呼吸を整えて、殴打を繰り出す。
「ドッ!」
すると――、
「ピピピピピピピピ」
表示器が動き出した。
「!?」
爆破はそれに目をやる。表示器は25kgと表示された。肩を回しながら、スーツ姿の男は言う。
「ははは、恥ずかしいところを見られたな」
「……今の、殴打の威力が、表示器で表示されたんだな?」
爆破は問う。
「そうだ。既に知っているかも知れないが、身体能力を向上させる、特殊スーツというものがある。銃器で戦うのが苦手な兵でも、その特殊スーツを着て、ゾムビーを倒せるようになる為、こういった設備で、訓練を行う事になっている」
(身体……スグル……)
爆破は身体を思い出す。
「次だ」
男と爆破は武器庫に向かった。
「小型だが威力のある銃が揃っているな。最新式か?」
「そうだ。爆破さん、よっぽど勉強してきたのだな。防衛大を首席で卒業できたわけだ」
「フン、私が銃器を使うことはなさそうだがな」
「ゾムビーと戦うため、常に最新型の武器が揃うようになっている。特殊スーツの強化も、この先進んで行くだろう」
その後、爆破達は就寝する部屋を回って行った。




