第26話 外から来る速さ
それは、静かに始まった。
為替掲示板の数字が、わずかに揺れた。
統合圏銀貨が、東方連邦通貨に対して二%下落。
小さな動き。
だが市場は敏感だ。
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「一時的な資金移動です」
中央財務報告は冷静だった。
「新興通貨圏への投機的流入」
問題なし。
統合は安定している。
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だが三日後。
五%。
一週間後。
九%。
投資資金が、目に見えて東へ流れ始めた。
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城の会議室。
「東方連邦が正式に通貨圏を宣言」
報告官が言う。
「周辺三小国が参加表明」
空気が重くなる。
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「条件は?」
主人公が問う。
「関税即時撤廃」
「中央資本即時投入」
「緊急決定は即日執行」
速い。
統合よりも、さらに。
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アルトが地図を見る。
「軍事条項は?」
「防衛相互保証あり」
「即応?」
「即応」
短い沈黙。
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中央都市。
王カシウスが報告を読む。
「超中央集権だな」
「はい」
「修正条項は?」
「ありません」
王は目を細める。
迷いを排した構造。
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「迷いは遅れを生む」
東方連邦執政官イリオン・ザールの声明が流れる。
「決断できない国家は淘汰される」
挑発ではない。
宣言だ。
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市場は正直だった。
投資家は速さを好む。
不安があるときほど、即断を求める。
統合圏は安定している。
だが“熟議”は時間を要する。
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小国代表エルミアが訪れる。
「港湾投資が東へ移動しています」
「ええ」
「若手商人が動揺しています」
「ええ」
落ち着いている。
だが状況は悪い。
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「中央はどう動く」
アルトが問う。
「即時金融対抗措置を検討中」
つまり制裁。
速さで対抗する。
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「速さに速さで?」
主人公が呟く。
それは中央の思想だ。
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夜。
城壁の上。
「東は迷わない」
アルトが言う。
「ええ」
「我々は迷う」
「ええ」
だが彼女は続ける。
「迷うから修正できます」
風が強い。
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遠く東の港。
巨大な新旗が掲げられる。
東方連邦。
統合より速い国家。
修正を持たない国家。
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速さは外から来た。
今度は内部の議論ではない。
文明同士の速度差。
統合は揺れる。
だが揺れは、まだ始まったばかりだった。
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