外伝 第九話 『遅い収穫』
雨が、止まない。
三日続いた豪雨で、畑の半分が水をかぶった。
「……今年は駄目かもしれん」
父が、低く言う。
若い彼は、泥の中に立ち尽くしていた。
---
隣村では、川が溢れたらしい。
王命ひとつで軍が動く国なら、
即座に堤防が築かれたと聞く。
この国では、まず報告が上がる。
被害が確認される。
補助の範囲が議論される。
時間が、かかる。
遅い。
---
「いつ決まるんだ」
苛立ちが、口をつく。
村の集会所で話し合いが開かれる。
被害の程度。
共同での補修。
備蓄の放出。
皆が意見を言う。
まとまるまで、時間がかかる。
---
数日後、役所から担当者が来た。
「補助は段階的に出ます」
「全部じゃないのか」
「全額だと冬の備蓄が不足します」
理屈は分かる。
だが、畑は待ってくれない。
---
怒鳴りたくなる。
王がいれば、一声で決まるのに。
誰かが、全部決めてくれれば。
---
だが、会議の終盤で言われた。
「足りない分は、村で融通し合いましょう」
隣家が、種を分けてくれる。
別の家が、道具を貸す。
遅い。
だが、誰も切り捨てられていない。
---
秋。
収穫は、例年より少なかった。
だが、ゼロではない。
村全体で持ちこたえた。
備蓄も、残っている。
---
市場で、ヴァルドレアの商人と話す。
「我が国なら、王が即断する」
誇らしげに言う。
確かに速いだろう。
だが、その王が誤ったら?
その疑問が、胸に残る。
---
夜、畑に立つ。
収穫は遅かった。
決定も遅かった。
だが、納得はある。
誰か一人の命令ではなく、
自分たちで決めた。
失敗しても、
恨む相手はいない。
---
遅い収穫。
それは弱さかもしれない。
だが、
自分たちの手で守った畑だ。
遠くで雷が鳴る。
また雨が来るかもしれない。
それでも、
今度も話し合うだろう。
遅くても、
崩れない形で。
それが、この国のやり方だから。
本話もお読みいただき、ありがとうございました!
少しでも続きが気になる、と感じていただけましたら、
ブックマーク や 評価 をお願いします。
応援が励みになります!
これからもどうぞよろしくお願いします!




