外伝 第八話 『効率という名の正義』
決断に迷いはない。
それが、王としての条件だった。
「北部の反乱兆候、三日以内に鎮圧せよ」
命令は簡潔に出される。
側近は頷き、即座に動く。
報告は速く、対応も速い。
ヴァルドレア王は、速さを誇りとしていた。
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王位を継いだとき、国は混乱していた。
議論が長引き、決定が遅れ、商機を逃し、反乱を許した。
彼はそれを断ち切った。
決裁権を王に集中。
命令系統を一本化。
例外を減らす。
結果、国は強くなった。
交易は拡大し、軍は整備され、税収は安定した。
効率は、正義だ。
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報告書の中に、一枚の書簡があった。
分散型統治を採る隣国の視察報告。
「遅いが安定」
その一文に、王は鼻で笑う。
遅いということは、弱いということだ。
危機は待たない。
敵は待たない。
王が即断すれば、国は動く。
それが強さだ。
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「彼の国は、英雄を作らないらしい」
側近が言う。
「愚かだ」
王は即答する。
「英雄がいなければ、国はまとまらぬ」
中心がなければ、軸がぶれる。
軸がぶれれば、崩れる。
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だが、王は知らないわけではない。
集中は、重い。
誤れば、全土が揺れる。
だからこそ、自らを鍛え続けている。
判断力を磨き、情報を集め、弱みを見せない。
王が揺れれば、国が揺れる。
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数年前、大規模洪水が起きた。
彼は即断した。
予算の再配分。
軍の動員。
交易路の閉鎖。
被害は最小限に抑えられた。
だが、一つの誤算があった。
閉鎖による商人の損失。
地方都市の不満。
後から修正はした。
だが、最初の命令は変えられない。
王命は、絶対だ。
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夜、王は一人で地図を見る。
効率は、力だ。
速さは、武器だ。
だが速さは、
やり直しを許さない。
それでも彼は信じている。
迷うより、進め。
議論より、決断。
国は強くなければならない。
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視察報告の最後に、こう書かれていた。
「分散型は壊れにくい」
王はその一文を、何度か読み返す。
壊れにくい。
だが、強いとは書いていない。
王は書簡を閉じる。
強さとは何か。
答えはまだ、交わっていない。
だが、いずれ交わるだろう。
思想は、剣よりも鋭いのだから。
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