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婚約破棄された令嬢ですが、国の仕組みを直したら評価が逆転しました 〜聖女よりも必要だった“地味な才能”で、辺境から王国を立て直します〜  作者: 花守いとは
第1部

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外伝 第七話 『守るという暴力』

 遠征訓練から戻った夜、アルトは眠れなかった。


 焚き火の匂いが、まだ衣に残っている。


 ヴァルドレア軍の陣形は、美しかった。

 無駄がなく、速く、強い。


 守れる形だ。


 そう思ってしまった自分が、気にかかった。


---


 この国は、分散している。


 判断は現場にある。

 止める権利も、修正する余地もある。


 だがその分、遅い。


 もし、大規模な侵攻があったら?


 もし、判断が間に合わなかったら?


 守れなかったら?


---


 城壁の上で、夜風に当たる。


 守るために、強くある。


 それは当然の発想だ。


 強い中心を作る。

 命令系統を一本にする。

 反対意見を減らす。


 速くなる。

 強くなる。


 だがそれは――


 押さえつけるということでもある。


---


 彼は、かつて前に立つことを選ばなかった。


 並ぶと決めた。


 だが守る立場になった今、

 並ぶだけでいいのかと、ふと思う。


 強くあるべきではないか。


 強く、押し切るべきではないか。


---


 翌朝、若い兵士が言った。


「ヴァルドレアのような統率力があれば、安心です」


 安心。


 その言葉が、胸に残る。


 安心は、魅力だ。


 だが、安心は依存にもなる。


---


 午後、彼は訓練場で模擬演習を行った。


 あえて命令を遅らせる。


 あえて現場判断に任せる。


 隊は一瞬乱れ、やがて整う。


 速くはない。

 だが、自分たちで持ち直した。


---


 守るということは、

 力で押さえることではない。


 押さえれば、従う。


 だが従わせることは、

 自由を削ることでもある。


 守るという名で、

 奪っていないか。


---


 夕方、城壁の上で彼女と並ぶ。


 彼は言わない。


 強権に惹かれたことも、

 一瞬揺れたことも。


 だが彼女は、何も聞かずに言う。


「守ることは、難しいですね」


 見透かされた気がして、苦笑する。


「ああ」


 短い返事。


---


 彼は理解する。


 守るために強くなるのは、簡単だ。


 守るために、強くなりすぎないでいることの方が難しい。


 暴力は、速い。


 分散は、遅い。


 だが遅さは、

 誰かが考える時間でもある。


---


 夜、彼は剣を磨く。


 力は必要だ。

 だが、それをどう使うかがすべてだ。


 守るという名で、

 奪わないこと。


 それを忘れない限り、

 この国はまだ揺れない。


 そう信じるしかない。


本話もお読みいただき、ありがとうございました!


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