外伝 第七話 『守るという暴力』
遠征訓練から戻った夜、アルトは眠れなかった。
焚き火の匂いが、まだ衣に残っている。
ヴァルドレア軍の陣形は、美しかった。
無駄がなく、速く、強い。
守れる形だ。
そう思ってしまった自分が、気にかかった。
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この国は、分散している。
判断は現場にある。
止める権利も、修正する余地もある。
だがその分、遅い。
もし、大規模な侵攻があったら?
もし、判断が間に合わなかったら?
守れなかったら?
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城壁の上で、夜風に当たる。
守るために、強くある。
それは当然の発想だ。
強い中心を作る。
命令系統を一本にする。
反対意見を減らす。
速くなる。
強くなる。
だがそれは――
押さえつけるということでもある。
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彼は、かつて前に立つことを選ばなかった。
並ぶと決めた。
だが守る立場になった今、
並ぶだけでいいのかと、ふと思う。
強くあるべきではないか。
強く、押し切るべきではないか。
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翌朝、若い兵士が言った。
「ヴァルドレアのような統率力があれば、安心です」
安心。
その言葉が、胸に残る。
安心は、魅力だ。
だが、安心は依存にもなる。
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午後、彼は訓練場で模擬演習を行った。
あえて命令を遅らせる。
あえて現場判断に任せる。
隊は一瞬乱れ、やがて整う。
速くはない。
だが、自分たちで持ち直した。
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守るということは、
力で押さえることではない。
押さえれば、従う。
だが従わせることは、
自由を削ることでもある。
守るという名で、
奪っていないか。
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夕方、城壁の上で彼女と並ぶ。
彼は言わない。
強権に惹かれたことも、
一瞬揺れたことも。
だが彼女は、何も聞かずに言う。
「守ることは、難しいですね」
見透かされた気がして、苦笑する。
「ああ」
短い返事。
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彼は理解する。
守るために強くなるのは、簡単だ。
守るために、強くなりすぎないでいることの方が難しい。
暴力は、速い。
分散は、遅い。
だが遅さは、
誰かが考える時間でもある。
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夜、彼は剣を磨く。
力は必要だ。
だが、それをどう使うかがすべてだ。
守るという名で、
奪わないこと。
それを忘れない限り、
この国はまだ揺れない。
そう信じるしかない。
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