外伝 第五話 『命令がある国』
号令が響いた瞬間、全員の足並みが揃った。
「前進!」
迷いがない。
声にためらいがない。
ヴァルドレア王国軍との合同訓練は、
ただの親善ではなかった。
違いを見るための場だ。
---
彼らの動きは、速い。
命令が下りる。
動く。
次の命令。
止まる。
判断は上。
実行は下。
明確だ。
---
「……どうだ」
隣の同僚が、小声で言う。
「楽だな」
本音だった。
考えなくていい。
命令がある。
従えばいい。
失敗しても、責任は上にある。
---
こちらの訓練では、違う。
「状況を見て判断」
現場指揮官に裁量がある。
判断が遅れれば、動きも遅れる。
迷いが出れば、隊列が乱れる。
速さでは、明らかに劣る。
---
昼休憩、ヴァルドレアの兵士が笑う。
「君たちは自由だな」
「そうか?」
「ああ。我々は命令通りに動く。それが誇りだ」
誇り。
疑いのない顔。
---
午後の模擬戦。
ヴァルドレア側は、一糸乱れぬ動きで押し込んだ。
こちらは、対応を協議する。
時間が、かかる。
結果は、敗北。
---
夜、野営地で焚き火を囲む。
「……あれだけ速ければ、強い」
誰かが言う。
「王が優秀ならな」
別の声。
沈黙。
もし王が誤れば?
命令は絶対だ。
疑えない。
---
思い出す。
この国では、上が絶対ではない。
現場で止められる。
修正できる。
その代わり、迷う。
迷いながら進む。
---
翌日、ヴァルドレア軍の小隊が誤情報で突撃した。
命令は即時だった。
だが、情報は誤っていた。
撤退命令も速かった。
だが被害は出た。
彼らは顔色を変えない。
命令だからだ。
---
こちらの隊では、同じ誤情報で一瞬止まった。
確認が入り、進軍は遅れた。
だが、突撃はしなかった。
遅い。
だが、損害はない。
---
帰路、空を見上げる。
命令がある国は、強い。
考えなくていいのは、安心だ。
だが、命令がなければ動けないのは、
別の怖さがある。
どちらが強いのかは、まだ分からない。
ただ、違う。
そしてその違いは、
戦場よりも深い場所にある気がした。
本話もお読みいただき、ありがとうございました!
少しでも続きが気になる、と感じていただけましたら、
ブックマーク や 評価 をお願いします。
応援が励みになります!
これからもどうぞよろしくお願いします!




