外伝 第四話 『速い国』
港に入ってきた船は、見慣れない旗を掲げていた。
深い紺地に、金の紋章。
直線的で、無駄のない意匠。
「……ヴァルドレアだ」
隣の商人が、小さく呟く。
強い国。
速い国。
そう噂される隣国。
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使節団は、無駄がなかった。
入港手続きは事前に整えられ、
必要書類は完璧に揃っている。
価格交渉も、早い。
「この量なら、この額で即決だ」
即決。
迷いがない。
議論も長引かない。
こちらの商会では、持ち帰って検討する。
評議を通す。
承認を得る。
時間がかかる。
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「御国は、ずいぶん慎重ですね」
ヴァルドレアの商務官が、穏やかに言う。
責めているわけではない。
だが、差は明らかだ。
「我が国では、決裁権は王より明確に委任されています。迅速さが信頼ですから」
誇りを隠さない声。
羨ましい、と思ってしまう。
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夕方、商会の仲間と酒を飲む。
「速いな」
「ああ」
「うちは、遅い」
笑いながらも、本音が混じる。
災害のとき、彼らは即座に物資を動かしたらしい。
王命ひとつで。
こちらは、協議に時間をかける。
遅い。
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だが。
「……その代わり、失敗も速いらしい」
年配の商人が言う。
「王の判断が外れたら、修正も王次第だ」
沈黙が落ちる。
速さは、強さだ。
だが、賭けでもある。
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数日後、港で小さな混乱が起きた。
ヴァルドレアの船が、規格外の貨物を積んでいた。
王命による特例だという。
だが、現場の安全基準とは合わない。
「上に確認を」
彼らは即座に本国へ打電する。
返答は早い。
だが、答えは変わらない。
王命は優先だ、と。
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こちらでは、現場で協議が始まる。
時間はかかる。
だが、最終的に安全基準を満たす形へ調整された。
遅い。
だが、納得はある。
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夜、港の灯りを見ながら考える。
速い国は、魅力的だ。
決断が速く、成果も速い。
だが、遅い国は、
壊れにくいのかもしれない。
どちらが正しいかは分からない。
ただ、差は確実にある。
風が海から吹き込む。
遠く、ヴァルドレアの船が灯りを落とす。
速さは、力だ。
だが、力だけが国ではない。
そのことを、まだ誰も答えられずにいる。
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